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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第三話『最強マシン誕生!』
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Bパート 3

 ――果たして、バッタというのは狩猟性の昆虫であっただろうか。


 聖竜がそう考えてしまうほどに、勇者ショウ――もといブラックホッパーの追跡は執拗なものであった。

 何となれば、霊峰ルギスやその麓に広がる大森林地帯を飛び回る聖竜に対し、いつの間にか追いついては襲撃してくるのだ。


 無論、高高度を飛べばいかなバッタの跳躍力を誇る勇者であろうと届くことはないし、休息など挟まず延々と飛び続けていれば追いつかれる道理はない。

 だが、そこは揚力を無視し魔力で強引に飛ぶ生物の宿命である。

 数時間程度ならまだしも、それを越えての連続飛行は出来ぬし、高高度を飛べばさらに継続飛行可能時間は短くなるのだ。


 ブラックホッパーは、その隙を突いてくる。


『やれやれ……これだけ距離を取れば大丈夫じゃろう。

 どれ、少しばかり休憩を……』


 そんな風に考え、森の中……あるいは山中でくつろいでいると、


「見つけたぞ! 聖竜!」


『げえっ!? ブラックホッパー!?』


 ものの一時間もしない内に奴はこちらへ追いつき、疲れが取れないままに再度の飛翔へ挑むことになった。

 時間差はあれど追いついてみせる走力も尋常なものではないが、それ以上に脅威なのは自然に対する順応力であろう。

 方向感覚を迷わせ、踏み入った者を死に追いやることで知られる大森林を自由自在に動き回り、限られた偶蹄(ぐうてい)類しか生息せぬ霊峰を己が庭のように駆け跳ね回るのである。

 一体、どのような人生を送ったらそのようになるのだろうか……?

 というか人間なのだろうか……?


 そんな疑念を抱きながら丸一日以上逃げ回り続けた聖竜であるが、さすがに腹も立ってくる。

 ティーナの手前もあり、肉塊にするのははばかられたが……。


『我こそは聖竜! 生物の頂点に立つ者なり!

 ――勇者だか何だか知らぬが、図に乗るではないわ!』


 ついには堪忍袋の緒も切れ、追いついてきたブラックホッパーに対し自慢の尾を振り回したのであった。


 ――ゴウッ!


 ……と、風を切り裂きながら大木の幹ほどもあるこれを叩きつける。

 いかに巨大な岩塊だろうと、これで砕けなかったことはない。

 当然ながら試したことはないが、ラグネア城が誇るという大正門ですらも一撃で破壊することが可能な威力を秘めているはずだ。

 だが……、


「――むうううううん!」


 あろうことかブラックホッパーは真正面からこれを受け止め、のみならず両腕でがしりと抱え込んでしまったのである。


『うえええええっ!?』


 しかもただ、抱え込んだだけではない。


「ホッパアアァ――――――――――ビイィートッ!」


 叫ぶや否や、ただでさえたくましかった全身の筋肉が甲殻を押し上げるほどにみりみりと隆起し、そして、


『いぎゃあああああっ!?』


 抱え込んだ尾を支点にして聖竜の全身を持ち上げ、風車のごとく振り回したのだ。


『いだだだだだっ!? もげるっ!? らめえっ!? もげちゃうっ!?』


「――む!? すまん!」


 ホッパーが放してくれたので、どうにかその場は飛び去った。


『いちちち……まだ尻尾が痛い。心なしか尻も痛い……』


 またもや反撃したい気分が高まってきたのは、更に三日間逃げ回り続け、本当に多少だが痛みもやわらいできた辺りである。


『あやつめ……! 我を何と心得る! これでも聖竜じゃぞ! 偉いんじゃぞ! それを子供のオモチャみたくブン回しおって……!』


 ぶつくさ言いながら飛び回り続け、どうすれば良いのかを考え続けた。


『どうにかして奴をギャフンと言わすには……』


 もう、儀式もへったくれもない。ブラックホッパーへ一泡吹かせる方向にのみ、脳味噌を回転させる。

 これほどまでに知恵をこねくり回すのは、生まれてこのかた初めてのことであった。


『そうじゃ! 我にはアレがあった!』


 その甲斐あって、天啓のごとき閃きが舞い降りたのである。


 実行に移したのは、逃亡生活五日目の深夜だ。

 周囲の影響を考えて場所を厳選し、霊峰の一角に存在する草木一つ生えぬ広場で待ち構える。

 果たして……奴は現れた。


「……ついに覚悟を決めたか! いざ勝負!」


 今までの追いかけっこで分かっていたことだが、闇夜だというのに視覚への影響は一切ないようである。

 それどころか、不眠不休で五日間もこちらを追跡しているというのに疲労の色は存在せず、赤き光を灯す両目は無限の闘志に満ち溢れていた。

 先日の屈辱と苦痛を思い出し、腰が引けてしまいそうになるが、鋼の意思でこらえて威厳ある声を吐き出す。


『クックック……ここで待ったが百年目よ!

 ――ブラックホッパー! 貴様は今、文字通りの意味で飛んで火にいる夏の虫となったのだ!』


「――む!?」


 身構えても、もう遅い!

 体内に存在する自分でもよく分からない器官をフルに働かせ、渾身の魔力と共に喉元からそれを生み出す。


『受けよホッパー! これこそ、聖竜と他の駄竜共を隔絶させる地獄の業火なり!』


 吐き出したのは、自身、これまでの生涯で一度しか吐いたことがない火炎の吐息(ブレス)だ。

 十分な溜めを経て放たれたそれは、もはや炎の嵐そのものであり、当たればいかなる生物であろうと消し炭になること疑いない。

 以前、一度だけ試しに吐いた時はあまりの威力に自分の所業ながらドン引きし、それ以来一切使ったことがないほどなのである。

 それが今回、極限まで追い詰められたことでようやく選択肢としてあがってきたのだ。


「――ぬうううううっ!?」


『ハーッハッハッハ!』


 勝ちを確信し、荒れ狂う炎の過に飲まれるホッパーを見ながら哄笑する。


「真空ゥ――――――――――竜巻起こしっ!」


『ハーッハッハッハ!』


 ……だが、


「……見事な炎だ。フレイムファルコンのそれに勝るとも劣らないだろう」


『ハーッハッハ……ハァ!?』


 炎の中から現れたのは、全く無傷のブラックホッパーであった。

 本体ばかりか、首に巻いたマフラーすらも焼け焦げ一つ存在しない。

 炎に飲まれた瞬間……ブラックホッパーは、化け物じみた膂力(りょりょく)で両腕を振り回して真空状態を生み出し、難を逃れたのだ。


「では、今度はこちらの番だな……」


 もう魔人王よりよっぽど魔人王っぽく見え始めたブラックホッパーが、一歩こちらへにじり寄る。

 その姿があまりに恐ろしく、『フレイムファルコンって誰!?』というツッコミの言葉さえ発せなかった。


『ギャフン!?』


 結果、たまらずその場を飛び去ったのである。


 それからはもう、逃げの一手だ。

 もはや反撃しようなどという考えは一切浮かばず、ひたすらに逃げて逃げて逃げ回った。

 だが、聖竜とて命ある生物である。

 ほぼ不眠不休でろくに食事も取らず飛び回っていれば、やがて体力が尽きるのは自明の理だ。

 そしてその時は――逃亡生活九日目の夜に訪れた。


『もう……好きにして……』


 森の中、服従する犬のようにヘソを上にして寝転がる。

 もう、精も根も尽き果てており、指一本動かせない。


「…………………………」


 やがて、暗闇の中から死神……もといブラックホッパーが姿を現す。

 ホッパーは聖竜の眼前まで歩み寄ると、この九日間握りっ放しだった先代聖竜の牙を高々と振り上げた!

 そして、


「――ふんっ!」


 力を込めると、それを粉々に握りつぶしてしまったのである。


『どええええええええええっ!?』


 驚愕の声が、真夜中の森に響き渡った。

 我が救世主の活躍を見るついでにお出かけを楽しんで来るので、次回更新は3~4日後になると思います。

 ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] バッタをなめてはいけないぞ、聖竜。一旦凶暴化したバッタは、止まらないのだ…! アフリカの蝗害を思い出してしまいました。サバクトビバッタ怖い…。
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