Bパート 1
爆発音の正体は、大神殿の一角が突如として爆破され崩れ去った音であり……。
人々の悲鳴は、それに驚き、慌てて爆心地から遠ざかった際のものであった。
「――何事です!?」
演説を中断し、素早くティーナがそちらに目を向ける。
爆発音で思い起こされるのは、かつて装魔砲亀バクラがもたらした被害の数々であり……。
果たして、大神殿が誇る純白の外壁を無残に破壊され、粉砕されている様は、その時のものとそっくりであった。
「一体、何があったんだ!?」
「まさか……魔人族か!?」
ティーナと同様、そちらを見やった人々が最悪の想定を口にする。
果たして、その予想は――外れであった。
「バエバエ……バーエバエバエバエバエ!」
突如として、大神殿の入り口近くに巨大な光の穴が発生し……。
そこから、一人の――奇怪な存在が姿を現す。
実に……実に奇妙な存在である。
全体的なシルエットは、人型をしていた。
全身を隙間一つない漆黒の外皮に包み、各所には見たこともない金属で作り上げられた装甲板があてがわれている。
それだけならば、一種の全身装具に見えなくもないが……しかし、頭部があまりにも異形であった。
やはり未知の金属で形成されたそれは、角ばった形状をしており……。
人間でいう口に当たる部分は、一直線のスリットが走っている。
そして、目に当たる部分は、これは中心部に単眼が存在するのみであり……。
しかも、この単眼は筒状に突き出しており、中心部にメガネのそれとよく似たレンズが備わっていた。
単眼の脇へ備わっている、ガラス製の四角い部位は、果たしてなんの役に立つのだろうか……?
「フォト……ジェニーック!」
果たしてどこから声を発しているのか……怪人が両腕を掲げながら叫ぶ!
その姿は、これまで見てきたいかなる魔人とも異なるものであり……。
あえて述べるならば、むしろ竜翔機ドラグローダーとこそ共通点が多く感じられた。
「――何者だ!?」
「――貴様、魔人族か!?」
今まさに、長き戦いの時を終えて武装解除するはずだった騎士たちが、素早くこの怪人を取り囲む。
「魔人族……? 一体、なんでありますか? それは?」
しかし、怪人は騎士たちの誰何に首をかしげるばかりであった。
「自分は、偉大なる機械侵略体ゼラノイアに所属する機械戦士……。
ポラロイダスでありまーす!」
ポラロイダスを名乗る怪人が、びしりと右手で敬礼を決めてみせる。
そして敬礼を解くと、頭部の単眼を伸ばしてみせた。
「まずは被侵略者の皆さん……。
お近づきの印に、はい、チーズ!」
「チーズ……?」
「一体、なんのことだ?」
今度は、騎士たちが首をかしげる番である。
そうしつつもポラロイダスから目を離さなかった彼らであるが、単眼の脇に備わった四角ガラスから放たれた閃光には肝を抜かれることとなった。
「――うお!?」
「――なんだ!?」
目を焼くほどのまばゆい閃光に、誰もが身構える。
「んんー……。
これは、映えませぬなあ……」
そんな騎士たちには構わず、機械戦士なる謎の存在はがっかりしたように肩を落とした。
と、その頭部に備わったスリットから、一枚の巨大な紙がじりじりと吐き出される。
「失敗作ですが、進呈させていただくのでありまーす!」
ポラロイダスはそれを掴み取ると、騎士たちに向けて放り投げた。
「これは――我々か!?」
「ど、どうなっている!?」
「私は異常を感じないが、お前たちは大丈夫か!?」
「う、うむ!」
羊皮紙とも、東洋の穀紙とも異なる固く光沢のある紙……。
そこにはつい先ほど、閃光に目を焼かれた騎士たちの姿が鮮明に描かれていたのである!
「あれは……?」
遠目にこれを見たティーナが、驚きの声を上げた。
――おれの……青春だ。
決戦の前夜……。
そう言いながらイズミ・ショウが彼女に託した奇妙な絵画と、うり二つだったからである。
「貴様――何をした!?」
そのようなことは知らぬ騎士の一人が、剣を突き出しながらポラロイダスに問いただす。
その瞬間を、余すところなく紙に写し取り絵として残す謎の技……。
なんらかの呪法邪法であると疑うのは、しごく当然のことであった。
「バエバエバエ!
写真すら知らぬとは、驚きの低文明ぶりであります!」
「低文明だと!? ふざけおって!」
あからさまにバカにされた騎士の一人が、怒りの声を放つ。
そんな騎士たちの姿へ我関せずという風に、機械戦士は人間で言うアゴに当たる部分をさすった。
「まあ、低文明人たちの姿をあえて原始的な実体写真で記録し残すというのが、自分のイキなところ……。
とはいえ、映えないのは困るのであります!
芸術家としての自分が疑われてしまうゆえに!」
そしてポラロイダスは、球か何かを握るように右手を掲げてみせたのだ。
否……これは握るように、ではない。
実際にその手へ謎の光が収束し膨らみ……小さな光球を形作ったのだ!
「転がった空き缶にドラマ性を持たせ……。
なんの変哲もない配管に哀愁を与えてやるのが写真家の矜持というもの……。
映えないお前たちを、映えさせてやるのでありまーっす!
――粒子爆弾、投てき!」
ポラロイダスが、光球を投じる。
それは布陣する騎士たちの中央に落ち、そして、
――爆発した!
「――うおっ!?」
「――ぐあっ!?」
悲鳴を上げながら、騎士たちが吹き飛ばされ石畳の上を転がっていく……。
間違いない!
先ほど大神殿を破壊したのは、この攻撃だ!
全身を現す前に、この光球のみを投じて爆破したのだ!
「ぐ……っ!?」
「何が……っ!?」
さすがは、鍛え抜かれた王国騎士たちと呼ぶべきだろう。
とっさに光球から距離を取り身構えた彼らの中に、死者はいない。
だが、魔人族の魔法や権能とも明らかに異なる爆発の威力たるや絶大であり……。
彼らはもはや動くことがかなわず、石畳の上へ伏すのみであった。
「バーエバエバエバエ!
――シャッターチャンス!」
再びポラロイダスの頭部から閃光がほとばしり、口元のスリットから奇妙な紙が吐き出される。
そこには、苦しみうめきながら倒れる騎士たちの姿が鮮明に写し出されていた。
「フォト……ジェニーック!
これこそ、映えであります!
今のお前たち、最高に映えているでありますよー!」
機械戦士なる謎の存在――ポラロイダスが、愉快そうに腹を抱えながら哄笑する。
「機械侵略体ゼラノイア……?
魔人族とは異なる、新たな敵が現れたとでも言うのですか……?」
その光景を演説台から見やりながら、ティーナは胸元を押さえた。
かつてならば駆けつけてくれただろう勇者は、もはやこの世界にいない。