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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Bパート 9&次回予告

 倒すべき敵はいなくなり……。

 その(こころざし)のみを受け継いだイズミ・ショウは、静かにレッカを見やった。


 これから為すことには、彼女の力が必要不可欠である。

 しかし、それをすればレッカは……。


「無用な心配じゃ、主殿」


 傷の痛みを押し、少女が快活な笑みを浮かべてみせた。


「我が決意に、揺らぐところはない……。

 お主の行く所こそ、ワシの行くべきところじゃよ」


「すま……いや」


 詫びの言葉を口に出そうとしたところで、よりふさわしい言葉へ言い換えることにする。


「……ありがとう」


「どういたしまして、じゃ!」


 レッカは笑みを浮かべたまま、薄い胸を張ってみせた。

 友の帽子が乗せられた墓標を背に、二人並んで立つ。


 そして静かに……瞑目した。

 体内の奥底で、かつてなきほどに大きく膨れ上がった力を感じる……。

 これが……最後の……。


 くわと目を見開き、決然と叫んだ!


「いくぞ! レッカ!」


「おう!」


 力を振り絞ったレッカの体が爆圧的な光に包まれ、そのまま変身ベルト――ドラグドライバーへ縮小変身するとショウの腰に巻きついた!

 そこから繰り出されるのは、究極の力を解き放つための動作……。

 闇を照らし出し、この世に平和をもたらすための変身ポーズだ!


「真ンンンンン――――――――――変身ッ!」


 ショウの全身が、極小規模の太陽がごとき炎球に包まれる。

 それは一瞬にして消え去り、陽蝗(ようこう)の勇者――サンライトホッパーがその姿を現した!


「おお――――――――――オオオオオッ!」


 ホッパーはそのまま、両腕を腰だめにし気合の叫びを上げる。

 体内に存在する、今や完全な状態となった輝石(きせき)リブラが……もう一人のホッパーがその意思に応え、究極のさらに先へ存在する力を生み出していく……。


 その証左と言えるのが、勇者の全身から放たれる金色(こんじき)の光だ!


 トノサマバッタを象形化(しょうけいか)したかのような全身の鎧が……。

 頭頂から足の先に至るまで、黄金色にきらめいた!


『いけるぞ! 主殿!』


 同じく黄金の色を帯びたドラグドライバーが、十二分に力が高まったことを主に告げる。

 勇者はそれに、深くうなずき……。


「――とおっ!」


 そして――跳躍した!

 いや、これを跳躍と呼ぶべきか……。

 これはもはや――飛翔である!


 魔城ガーデムの天井を、不思議な力で透過し……。

 もはや人の形を留めぬ光の塊と化したホッパーが、魔界の上空に向かって高く……どこまでも高く飛んで行く!


 それは、魔界の空を覆う雷雲すら吹き晴らし、尋常な世界ならば星々がまたたくであろう領域へ達し、そして……。




--




 ――キー!


 ――キー!


 不可思議な力で魔城内部へ帰還することがかなわず……。

 ただその周囲へ布陣する他にすべきことのなかったキルゴブリンたちが、異変に気づき声を上げる。


 魔城周辺に展開していた、魔界と地上とを結びつける極光(オーロラ)……。

 それが霧のように消失し、元通りの……荒れ果てた光なき世界が舞い戻ったからである。

 これなる現象が意味するものは、ただ一つしかない……。


 ――魔人王の死!?


 敬愛すべき主君は、勇者の手によって討たれたのだ!

 それが証拠に、城内への帰還を拒んでいた無形(むぎょう)の壁は消え去り、出入りが自由となっているのである。


 だが、もはや帰還しようという者はいなかった……。

 戦いは終わった……。

 魔人軍は、敗れたのだ。


 ――キー……。


 ――キー……。


 キルゴブリンたちの誰もがうなだれ、地を眺める。

 もう、彼らに命令する者はいない……。

 全てのよすがは失われ、地上に侵攻し太陽を得るという希望もまた断たれたのだ。


 全員がそのようにしてから、しばらくして……。


 ――キー?


 キルゴブリンの一体が、さらなる異変に気づく。

 玉座の間が存在する、魔城ガーデム最上部……。

 そこから黄金の光が立ち昇り、一条の流れ星となって地上から天空へと舞い上がって行ったのである。


 ――キー……。


 ――キー……。


 戦うためだけに生み出された魔界の尖兵(せんぺい)らにとって、それは生まれて初めて感じる「美しい」という感情であった。

 誰もが、現状を忘れその光に見入る。


 黄金の光は、魔界の上空を常に覆う分厚い雷雲を通り抜けると同時に、これを一息に消し飛ばした!

 そして、キルゴブリンたちに……いや、おそらくは魔界に生きる全ての生物たちに見守られながら空を抜け、その先に広がる名も知らぬ世界へたどり着き……。


 ――爆光を放った!


 なんとも言えず、暖かで……。

 全ての生命を育む、慈愛に満ちた光が魔界を照らし出していく……。


 空を見上げれば、直視することもかなわないまばゆき光を放つ天体が鎮座している。

 これなる天体を見たことがある者は、魔界に存在しない……。

 しかし、その名は誰もが知っていた。

 なぜならば、あれこそ千年以上の昔から全魔人が……魔人王レイが渇望(かつぼう)し求めてきたものだからである。


 これなる天体の名は――太陽!


 太陽の光が……。

 神々と精霊たちから取り上げられたはずのそれが、魔性の大地を照らし出しているのだ!


 ――キー!


 ――キー!


 歓喜の叫びを上げながら、踊り出す者がいる。

 中には、未発達な声帯なりに努力して歌を歌おうとする者の姿もあった。


 魔人王レイは、もういない……。

 だがここに、新たな希望が誕生した。


 ここは魔界……。

 力こそが全てという、鉄の掟で支配された世界……。

 そして太陽を得て、これから平和な時代を築いていくであろう世界である……。


 次回、最終話。

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