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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 英 慈尊
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Bパート 7

 心ならずも、勇者と竜翔機(りゅうしょうき)を送り出さざるを得なかったレクシア王国であるが……。

 当然ながらその後、無為に祈りを捧げていたわけではない。


 騎士団長ヒルダが号令の下……。

 王国が保有する全竜騎士は出撃、最高速度で街道を爆進して行ったドラグローダーの後を追い、マナリア平原上空へと布陣していたのである。


 勇者が討ち入った以上、魔人王が施した結界にもほころびが生じ、竜騎士たちが突入するスキもできるかもしれない……。

 そうでなかったとしても、変事が起こった際、即応できる体勢にしておくことは必須であった。


 果たして、この場へ馳せ参じた騎士たちが望むスキは――生じない。

 巨大な円柱状に展開する極光(オーロラ)の先……彼らの目に映るのは、何やらまごまごとした様子で魔城ガーデム内部へ帰還しようとし、それがかなわず困惑しているキルゴブリンの軍勢であった。


「勇者殿とレッカ殿は……すでに内部へ、突入されたようだが……」


 飛竜を駆る者としての優れた視力で、魔城に至るまでの荒野へ刻まれた戦いの跡と城壁にうがたれた大穴を確認したヒルダが、そうつぶやく。


「さすがは勇者殿ですが……そうだとして、あやつらはなぜ、城内へ戻らずにいるのでしょうか……?」


 ヒルダが騎乗する飛竜へ寄り添うように自身の愛竜を飛翔させながら続けたのは、騎士スタンレーである。

 二人が抱いた疑念は、もっともなものだ。


 勇者ブラックホッパーとその相棒、竜翔機(りゅうしょうき)ドラグローダーが並み居る軍勢をものともせずなぎ払い、魔城内部へと突入して行った……ここまではいい。

 そうだとして、なぜ、あのキルゴブリンたちは城内へ戻らずにいるのか……。


 自らの命をかえりみぬことが武器である魔界の尖兵(せんぺい)たちであり、勇者の実力に臆したということはあり得ぬ。

 事実として、本人たちはどうにか城内へ戻ろうと破損の痕跡が見える入口へ殺到しているのだが、まるで見えない壁に阻まれているかのごとく押し合いへし合いするばかりで……その目的が達成される気配は一向にないのだ。


「分からぬ……分からぬが、我らの想定し得ぬ何事かが起きていることは間違いない……」


 およそ、推測も分析も可能な状況ではなく……。

 ヒルダとしてはただ、警戒しながら極光(オーロラ)の周囲を飛行し続ける他になかった。


 魔城の天守と呼ぶべき(いただき)から恐るべき光が漏れ出したのは、そうしていた矢先のことである。

 城を構成する建材の隙間や窓から漏れ出したそれは、一種類のみではない。


 白と黒……。

 暖かさと凶悪さ……。

 正義と悪……。


 相反しぶつかり合う二つの光は、陽蝗(ようこう)の勇者が操る太陽の力と、魔人王が操る闇の魔力と見て相違あるまい……。


「――あれは!?」


「――間違いない!」


「――勇者殿と魔人王がぶつかっているのだ!」


 極光(オーロラ)内部を埋め尽くさんとする光に目を焼かれながら、竜騎士たちが口々にそう言い合う。

 そして彼らの目に映る異変は――それだけに終わらなかった。


「これは……極光(オーロラ)が……消えていく……!?」


 まるで、霧が晴れるかのように……。

 魔人王が生み出した巨大な極光(オーロラ)は徐々に徐々に薄れ、やがて完全に消失したのである。


 極光(オーロラ)が消え去った後……現れたのは、元通りのマナリア平原だ。

 初代巫女の魂が眠る墓標樹がそびえ立ち……。

 その周囲には、無数の草花が咲き乱れ、小動物たちも平和を謳歌(おうか)している……。

 レクシアの民が愛してやまぬ、神聖なる地の光景である。


「勇者殿が、魔人王を討ち取ったのでしょうか!?」


 その予感に顔を紅潮させながら、騎士スタンレーがそう叫んだ。

 だが、これを受けたヒルダの顔は――暗い。


「そうだとして……勇者殿は……?」


「あ……?」


 自身の迂闊(うかつ)さを恥じながら、スタンレーは先まで極光(オーロラ)が展開していた領域を見やる。

 平和そのものの平原からは、魔界で何が起こっているのか……見い出すことがかなわなかった。




--




「――レイ!?」


 着地と同時に変身を解除し……。

 イズミ・ショウが、倒れた魔人王に駆け寄る。


 ホワイトホッパーを受け止めた衝撃により、半壊し残がいと化した玉座の中……。

 そこへ埋もれるようにして、変身解除された魔人王レイは倒れていた。


 純白のパンタロン・スーツはあちこちが破け、ほこりとすすにまみれており……。

 その下にある人間の肉体は――致命傷であることが、様々な経験を経たショウの目には見て取れる。

 ただ一つ、純白の帽子のみはまったくの無傷で傍らに落ちており……。

 その様はさながら、陥落した王の王冠がごときであった。


「レイ――なぜだ!?」


 しゃがみ込み、その上体を注意深く支えてやりながら問いただす。


「なぜ――わざと負けた!?」


「――グッ!? ゴホッ!?」


 返答は言葉でなく、吐血である。

 ホッパーパンチを無防備に受けたばかりか、ホワイト自身の跳躍力を加算したことにより、レイの内臓はもはやその機能を持たぬ肉塊と化しているのだ。

 だが、血を吐き出しながらも……レイは最期の力を振り絞り、ショウの瞳を見据えた。

 そしてこう、語ったのである。


「駄目なんだよ……俺が勝っちまっちゃあ……。

 俺は……どこまでいっても……お前の姿を写し取っても、魔人王でしかねえ……。

 闇を照らし出すことは……できねえ……」


「貴様……何を言っている……?」


「まあ、聞けよ……兄弟……。

 お前も知りたかっただろう? どうして……俺の力が……リブラがお前の体内に埋め込まれることになったのか……。

 俺の狙いが……なんなのか……。

 悪い魔王をやっつけたご褒美だ……最期に全部……話してやる……」


 レイが、ショウの瞳から目を逸らし天井を見つめた。

 だが、彼の瞳に映っているのはそれではあるまい。

 その目が見つめているのは、どこか……途方もなく遠い……過去の記憶にちがいなかった。


「主殿……聞こう」


「レッカ……?」


 振り向けば、そこに立っていたのは無二の相棒である。

 ティーナからもらった真紅の装束はところどころが破け、全身の至る所に打ち身の跡が見て取れた。

 しかし、見た目は幼い少女であろうとその本質は聖竜の末裔であり……満身(まんしん)創痍(そうい)ではあるものの、どうやら命に別状はないようである。


「クソドラゴンの孫娘か……そうだな……お前も聞いておけ……無関係って……わけじゃねえ……」


「……いいだろう」


 レッカの言葉も受け、レイの言葉に耳を傾ける。

 それこそはおそらく、勇者として最後の責務であるに違いなかった。


 そして魔人王は……レイは、遠き日の出来事を語り始めたのである。

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