Bパート 5
真の変身……。
これを発現させたイズミ・ショウの全身が、灼熱の炎に包まれた!
勇者を包む炎は完全な球体を形作っており、それはさながら、超極小規模の太陽が玉座の間へ現出したかのようである。
炎の中で勇者の体が、太陽の力を秘めし究極の姿へと作り変えられていく……。
従来ならば全身を覆っていた漆黒の甲殻に代わり、それを上回る強度・耐刃性・耐熱性、さらには光の魔力による防護が備わった被膜――ルミナスフィルムを身にまとい……。
フィルムの上から、この場で生まれた全く新しい金属……クリティアスプラチナによって構成された鎧――ギガントアーマーが装着される。
その間――実にわずか五〇〇分の一秒!
にわかに現れた太陽が消え去り……。
陽蝗の勇者――サンライトホッパーがその姿を現す!
トノサマバッタを象形化したかのようなアーマーを身にまとい……。
胸部には銀色へ輝く球体――アクセルクリスタルがきらめく!
頭部のフルフェイスヘルムには、やはりトノサマバッタのそれを思わせる仮面が装着されており……。
腰にはベルトへ収縮変身した竜翔機――ドラグドライバーを装着し、まさしく人機一体となっている。
まごうことなく戦士の到達点であるその姿は、さながら仮面の騎手と称するべきものであった。
仮面の両眼部を真っ赤に光らせ、首に巻いた真紅のマフラーをなびかせながら勇者が名乗りを上げる!
「おれは陽蝗の勇者――サンライトホッパー!」
これに対峙するは、もう一人のホッパー……。
魔人王を包んでいた爆圧的な光が消え去り……。
その中から、純白の甲殻に身を包まれしバッタの改造人間――ホワイトホッパーがその姿を現す。
だが、今度の変身はそれだけにとどまらなかった……。
全身の甲殻は禍々しく、そして鋭利にその形状を変化させていき……。
顔面部は、昔の武将が身に着けていた面頬もかくやという凶暴な形に歪む。
従来のホッパーは、見ようによっては死神めいて映るという顔つきであった。
だが、これはもう完全に――魔性の王だ。
奥底に秘めた攻撃性と邪悪さを完全に顕現させた、魔人王真の姿なのだ!
陽蝗の勇者の勇者に勝るとも劣らない、圧倒的な力を感じさせながら魔人王が自らを親指で指し示す。
「俺は魔人王――ホワイトホッパー!」
互いに変身を完了し……。
名乗りを上げた勇者と魔人王がにらみ合った。
『ふん……何やら姿が変わったようじゃが、コケ脅しが通用する主殿ではないぞ!』
勇者の腰に巻かれたドラグドライバーが息巻いてみせるが、これが伊達ではないことは彼女自身よく分かっているだろう……。
「……ふん」
ざれごとを鼻で笑いながら、魔人王は闇よりもなお暗い漆黒の目で勇者をねめつける。
「それが、究極の力か……。
こうして自分の目で見てみると、なるほど、大した迫力だな……」
「…………………………」
勇者は……サンライトホッパーはそれに答えず、ただ静かに身構えるのみだ。
「まあ、もう言葉はいらないわな。
――始めようぜ」
魔人王も、獲物を狙う猛禽類がごとき両腕を広げた構えとなり……。
ここに、最後の決戦が幕を開けた。
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「――シャッ!」
荒鷲のごとく跳躍した魔人王が、右の回し蹴りを放つ!
その鋭さたるや、もはや蹴撃の域を越えており――斬撃と呼んで相違ない!
「――ふっ!」
これを勇者は、素早く後退することでやり過ごし……。
空振りとなった一撃は、先の果物が乗ったスタンドテーブルを切断するに留まった。
今度は、こちらが反撃する番!
「――しっ!」
ボクシングスタイルの構えで踏み込んだ勇者が、左ジャブを放つ!
改造人間と改造人間……いかにその身体能力が超常の域に達していようと、人体としての構造を持つ以上、これこそが両者にとって最速の一撃だ!
「――むうっ!」
これを魔人王は、基本に忠実な両腕を盾にしてのディフェンスで防いだが……。
勇者のジャブは、ただ一発では終わらぬ!
「――しっ! しっ! しっ!」
――二発!
――三発!
――四発!
立て続けの連撃が、魔人王の腕に浸透し鈍い衝撃を与えていく!
「――しっ!」
「――ハッ!」
しかし、五発目のジャブは魔人王の右ジャブにより相殺され、両者はその衝撃に数歩後退することとなった。
『主殿! ギアを上げていくぞ!』
「おおっ!」
ドラグドライバーに応じた勇者が、胸部のアクセルクリスタルを光り輝かせる!
「いいだろう……こっちもリズムに乗るぜ!」
ダンサブルなステップを刻む魔人王の両目が、怪しき光をまたたかせた。
そして、勇者と魔人王……両者の姿が、かき消える!
玉座の間全体から、無数の衝撃音が鳴り響き……。
――天井付近に!
――玉座の正面に!
――広間の片隅に!
拳を蹴りを交える勇者と魔人王の姿が、残像として浮かび上がった!
人知を超えた加速力で動き回る両者の姿は何者にも捉えることがかなわず、ぶつかり合い足を止めた一瞬の姿が残像となって浮かび上がっているのだ!
両者の残像は、至る所に出現していたが……。
「「――はあっ!」」
ついに玉座の間中央部で、互いに互いを掴み合う両者の実体が現れた!
「――ぬん!」
「――シアッ!」
掴み合ったまま、勇者は膝蹴りを……。
そして魔人王は、渾身のヘッドバットを叩き込む!
姿勢が姿勢ゆえ、共にそれをまともに受けた両者は手を放し、大きく後退することとなった!
『主殿! 大丈夫か!?』
「……問題ない!」
いかに強固なヘルムで守られていようと、不意を打っての頭突きが効かぬはずはない。
勇者はかぶりを振りながら、腰元の相棒に強がってみせた。
「ぐっ……はあ……いてえじゃねえか!」
対する魔人王も、膝が叩き込まれた脇腹を押さえながらそう吐き捨てる!
格闘戦は――互角!
その力も……速度も……技も!
互いに拮抗しており、いささかもゆずらぬ!
「大体、ちょっとずるくねえか?
そっちは互いにはげまし合ってるのに、こっちは俺一人きりなんだぜ?」
『知ったことか!』
文句をドラグドライバーに切って捨てられた魔人王が、静かに右手をかざす。
「あー、はいはい……分かったよ。
ほんじゃま、こっちは亡き友の力を借りるとしますかね」
かざされた魔人王の右手に、怪しき光が収束し……。
それは赤黒い燐光をまとった、一本の長剣となる。
間違いない……。
これは、亡き大将軍ザギが魔人王に返却した愛剣だ!
「陽蝗ゥゥゥ――――――――――剣!」
サンライトホッパーもまた、聖剣を呼び出した……。