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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Bパート 4

 軽量化されていた全身の甲殻が元に戻っていき……。

 ルミナスロッドも消失させた勇者の姿は、一見するならば通常時のブラックホッパーそのものに見える。


 しかし、その両目は銀色に輝き、胸部には同色に輝く光球が浮かび上がった!

 その光球から、血流めいた光の奔流が四肢の末端に至るまでを駆け巡っていき、マフラーも銀色に染まる!

 これなる姿(フォーム)は神速の戦士――アクセルホッパー!


「はあああああ……っ!」


 気迫を込めながら、アクセルホッパーが腰だめの姿勢を取る。

 全身を巡る銀光の奔流はその気合に答え、ますます輝きを増していき、そして、


 ――ホッパーの姿が、消えた!?


 大階段に布陣する魔人戦士たちが身構えた時には、もう遅い。


「――がはあっ!?」


「――うおあっ!?」


 目にも止まらぬどころか、映りさえしない必殺の拳を蹴りを、防御することすらできずまともに受けた魔人たちが……。

 次々と爆散していく!


 これこそが、アクセルホッパーの能力!

 神速の名に恥じぬ超加速を用いて、立ち塞がる魔人戦士を一方的に葬り去っているのだ!


「――む、無念!?」


 そしてついに、最後の魔人戦士が神速の一撃を受け爆散し果てる!

 それと同時に、神速の領域から帰還したアクセルホッパーが虚空からにじみ出すようにその姿を現した!


「はあー……ふぅー……!」


 全身から蒸気を発するホッパーが、肩を荒く上下させながら元の姿――ブラックホッパーへと戻っていく。

 アクセルの力は反動が大きく、勇者が負った疲労は重い……。

 しかし、真っ赤な目はますます戦意を燃え上がらせ、もはや邪魔する者のいなくなった階上をきっと睨み据えたのである!


「――魔人王!」


 倒すべき敵の名を叫びながら、バッタの脚力を活かし猛烈な速度で大階段を上っていく!

 目指すは――魔人王レイが待つであろう玉座の間だ!




--




『――でいいいいいやっ!』


「――ぐはっ!?」


 粒子で光輝く鋼鉄の翼を、そのままカッターのように用い……。

 すれ違いざま、最後に残ったコウモリがごとき魔人戦士を真っ二つにする!


 三対一の空中戦を制したのは、竜翔機(りゅうしょうき)ドラグローダーだ!


『主殿……玉座の間に向かったか!』


 倒した敵を振り返ることもせず……。

 ホッパーから送られた信号(シグナル)で彼が城内の突破に成功したことを悟ったローダーが、自らもまた魔城ガーデム上層部に向け突撃する!

 大きく開け放たれた口から連射する火球が、ガーデムの禍々しい城壁を粉砕し内部への道を切り開いた!


 ――キー!


 ――キー!


 そこから城内に突入して行ったドラグローダーと、先んじて突入済みのブラックホッパーを追うべくようやく将棋倒しから立ち直ったキルゴブリンたちが城の入口へと殺到する!

 だが……、


 ――キー!?


 ――キー!?


 無形(むぎょう)の力によって跳ね返され、彼らは再び将棋倒しとなるのであった……。


 ――キー……?


 後方でその難を逃れたキルゴブリンの一体が、不思議そうに首をかしげる。

 これなる力は、偉大なる魔人王レイのものと見て相違あるまい。

 しかし、なぜ、味方である自分たちが城内へ帰還することを拒んだのか……。

 主の真意は、まったく理解できないものだったのである……。




--




『――主殿!』


「ローダー! 来てくれたか!

 ……奴はおそらく、あの扉の向こう側だ!」


 城壁を破壊し突入してきたドラグローダーと短く言葉を交わしながら、眼前のひと際巨大な扉を指し示す。


『いよいよじゃな……』


「ああ――行くぞ!」


 決意と共にその扉へ手をかけ……これを押し開けた!

 果たしてその先に広がっていたのは、魔人王レイが動画配信者を気取っていたのと同じ――魔城ガーデム玉座の間である。

 唯一相違点となっているのは、入り口と玉座の中間に小さなスタンドテーブルが設置され、その上に……おそらくは果物が二つばかり乗せられていることだった。


「よう……早かったな、兄弟」


 玉座で頬杖を突きながらこちらを見やるのは、奇矯(ききょう)としか言いようのない美青年である。

 純白のパンタロン・スーツに身を包み、同色の帽子を合わせた装いは、ホッパーにとって青年時代を想起させるものだ。

 常ならば、二枚目を三枚目に(おとし)めるニヤついた笑みを浮かべているこの男であるが、今日ばかりはどこか遠くを見つめるような……ひどく疲れたような顔をしていた。

 こやつの名を、忘れることなどあり得ない。


「魔人王レイ……!」


『ここを貴様の墓場としてくれるわ!』


「まあ、待て待て……」


 気色(けしき)ばむ勇者たちに、迎え撃つべき魔人王はひらひらと手を振ってみせる。


「歓迎のご馳走というわけじゃないが、ちょっとした物をそこに用意しておいた……。

 すぐに戦ってもいいが、まあ、まずはそいつを食ってみな?

 安心しろ。毒なんか入ってねえ……それが無駄なことは、よーく分かってるしな」


 言いながらレイが指差したのは、意味深に設置されたスタンドテーブル上の果物であった。


『主殿……?』


「……いいだろう」


 ドラグローダーにうなずきかけ、ホッパーが変身を解き――イズミ・ショウの姿に戻る。

 そして、同じく少女の姿へ戻ったレッカと共に歩むと、果物を手に取ったのであった。


 リンゴによく似てはいるが、ひどくしわだらけで水気(みずけ)の欠片も感じられぬそれを大胆にかじる。


「……ひどく、まずいな」


「……ううむ、甘みも酸っぱさもほとんど感じられぬ」


 もぐもぐとそれを咀嚼(そしゃく)したショウとレッカが、素直な感想を口にした。


「ああ、まずいだろうな。

 ……こいつは、俺が生まれた土地で育つ果実でよ。そんなもんでも、俺にとってはご馳走だったもんだ」


 遠き……地上で伝説として語られるよりも、さらに遠き日のことを思い浮かべながら魔人王が述懐(じゅっかい)する。


「それである日、俺を育ててくれた爺ちゃんがこう言ったんだ。

 『もし、魔人族が地上から追い出されなければ……太陽を奪われなければ、もっと美味い果物が食べられたのになあ』

 ……てよ。

 だから、欲しくなった」


 その言葉を聞いたショウが、果物をそっとテーブルに戻す。


「だからといって、侵略していい道理もあるまい……!」


「そうだ。そんな道理はねえ。

 でも、俺は欲しい。だから話はそれで、終わりなんだ。

 まあ、大した意味はねえ……サスペンスの犯人が、崖際で動機を語るのと同じさ」


 魔人王が、ゆっくりと玉座から立ち上がる。

 ショウは一歩前に歩み出ると、同じく果物をテーブルへ戻したレッカとうなずき合った。


「いくぞ、主殿!」


 レッカの全身が光に包まれ、その身を竜翔機(りゅうしょうき)とも異なる姿――ドラグドライバーへと縮小変身させる!

 ドライバーは吸い付くようにショウの腰に飛びつき、強靭(きょうじん)なベルトで巻き付いた!


 イズミ・ショウが、最強の姿へと至るための動作を繰り出す……。

 それに呼応し、魔人王レイもまた、自らに内在する力を開放するための動作を繰り出していた……。


「真ンンンンン――――――――――」


「ホッパー――――――――――」


 奇妙にして流麗な両者の動作は、似通いつつも細部は決定的に異なっており、それはそのまま、二人の相容(あいい)れぬ関係性をも表しているかのようだ。


「「――――――――――変身ッ!」」


 そしてここに、二人のホッパーが決着を付けるべくその姿を現したのである……。

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