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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Bパート 3

 大階段上層に潜み、今、ラトラ旗下の戦士たちと合流した魔人たち……。

 こやつらに共通しているのは、いずれも奇怪極まりない……生物と断ずることすら困難な姿をしていることだろう。


 ドス黒いガスが集まり、影のごとくうごめいている魔人がいる……。

 果たして魔界に貨幣という概念はあるのか……無数の金貨が集合し、人型を形成している魔人もいた。

 サッカボールほどもある巨大な目玉が、宙空に風船のごとく漂っているが、これも魔人と見て相違あるまい……。


 他にも数々の……奇々(きき)怪々(かいかい)とした魔人たちがギガントホッパーを見下ろし、不気味な笑い声を発していた。


「……なるほど、貴様らの術によっておれは瞬間移動させられたわけか」


 油断なくギガントアックスを構えた鋼鉄の重騎士が、今起こった事象を冷静に解き明かす。


「いかにも……」


「我ら亡きルスカ将軍に引き立てられし術巧者たち……」


「ラトラ様配下の各々(おのおの)方、お待たせして申し訳なかった……。

 だが、入念に準備は済ませたゆえ、許されよ」


 獣烈将と幽鬼将……。

 敵ながら見事としか言いようのない男たちの遺した兵が、今ここに集結し勇者を打倒すべくこれを見下ろしていた。


「なんの、我らの働きで支度が整ったならばなんのそのよ」


「共に勇者を討ち果たし、その栄誉を分かち合おうぞ!」


 先ほどまでホッパーと交戦していたラトラ旗下の戦士たちは、すでにいくらか数を減らし残った者らも全員が負傷している。

 だが、頼もしき援軍の登場に戦意を燃え上がらせ、傷の痛みを感じさせぬ覇気がそれぞれの身に宿っていた。

 ラトラとルスカ……武人としてだけではなく、人の上に立つ者としても大したものであったということだ。


「では……」


 果たしてどこから声を発しているのか、宙に漂う巨大な目玉が合図の声を放つ。


「――かかれ!」


 その叫びと同時、


 ――ドラグローダーのそれにも匹敵する火球が!


 ――たかが氷とは侮れぬ鋭さと質量を持った氷槍(ひょうそう)が!


 ――これはルスカやブロゴーンも使っていた呪詛光球が!


 次々とギガントホッパーに向け打ち放たれた!

 しかも、おお……これは……。

 魔城内部の床や壁面が歪むと生き物のようにうごめき、四方八方から勇者へ襲いかかったのだ!


 入念な準備というのは、伊達ではない。

 これにはホッパーといえど、ひとたまりもないであろう。

 ……魔法の心得なき、ただの改造人間だった頃のホッパーならば、だが。


「――ルミナス!」


 ホッパーの目が空そのもののような青色にきらめき、全身を覆っていた追加装甲も消え去っていく!

 そればかりか、漆黒の甲殻も一部が被膜状に変化を遂げ、軽量化された各部が瞳と同色に染め上がった!

 最後に、マフラーが黒から黄へと塗り替わりまたたく間にフォームチェンジが完了する。


 アックスに代わり聖杖(せいじょう)――ルミナスロッドを握ったこの姿こそは、輝きの魔術師ルミナスホッパーだ!


 ――ガキン! ガキン!


 ホッパーがロッドに備わったレバーを素早く二回動作させ、防御の術法を発現させる!


「ルミナス――――――――――ガーディアン・クラスタ!」


 ロッドの柄を走る魔法文字(ルーン)一つ一つから輝く光虫(バッタ)が生み出され、ホッパーの周囲へと群がり展開していく!

 そしてこれらは盾を形成すると、数々の攻撃魔法や変形し襲いかかったガーデムの内装を食い止めたのである!


 しかもこれは、飛蝗(クラスタ)の名にふさわしくただ食い止めているのではない!

 ホッパーに襲いかかった魔法も内装もことごとくを食い荒らし、自らの活力へ変えてさらにその大きさと数を増しているのだ!


「――ぬう!?」


「――我らの魔法を、ことごとく!?」


「――化け物か!?」


 必勝を期して放った技のことごとくが敵に食い荒らされ、むしろその勢いを増している事実にルスカ配下の魔人たちが色めき立つ。

 それは、魔法と魔法のぶつかり合いにたたらを踏まざるを得なかったルスカ旗下の者たちも同様であった。

 今こそ――必殺技を発動する好機!


 ――ガキン! ガキン! ガキン!


 ルミナスロッドのレバーが三度動作され、光の飛蝗(クラスタ)がその形を変える!

 敵の力をも利用して増殖した光虫(バッタ)たちが此度(こたび)形成するのは、光り輝くホッパーの分身たちだ!


「――とおっ!」


 ロッドを床に突き刺したルミナスホッパー本体も跳躍し、分身たちと共に跳び蹴りの体勢となる。

 これこそは、ルミナスホッパー最大の必殺技!


「ルミナス――――――――――イリュージョンンン・インパアクッ!」


 ルミナスホッパーたちによる跳び蹴りが、階段に布陣する魔人戦士たちへ次々と襲いかかる!


「――ぐわばっ!?」


「――うおうわっ!?」


 四分の一ほどはこれによって壊滅し、爆散する末路を遂げたが……。


「――まだだ!」


「将軍たちの仇を討つまでは死なんぞ!」


 ある者は、迫りくる分身を転移させて回避し……。

 またある者は、全力の魔法や必殺の一撃を当てることでこれを相殺する……。

 中には、純粋なタフネスのみでこれをしのぎ切った者の姿もあった。


「――やるな!」


 自身は魔人戦士を一人仕留めたホッパーが、念動力でロッドを手元に戻しながら敵の手並みを賞賛する。

 確かに、敵が多く分身の数が十分でなかったこともあるだろう……。

 しかしながら、イリュージョン・インパクトで倒し切れぬとは……さすが、本拠地に集う精鋭たちという他になかった。


「今度はこちらの番だ!」


 敵集団の中央へ飛び込む形になった勇者へ、四方八方から魔人戦士が襲いかかる!

 だが、何も魔法ばかりが取り柄のルミナスホッパーではない!


「――はあっ!」


 まるで、流れる水のような……。

 (あで)やかさすら感じられる流麗な動きでロッドが振るわれ、次々と敵の攻撃を受け流していく……。

 しかも、受け流すと同時に敵の勢いを利用した痛烈な反撃が放たれるのだ!


「――がっ!?」


「――ぐうっ!?」


「――くそっ!?」


 勇者を仕留めるどころか、逆に強烈なカウンターを喰らった魔人たちが次々と後退していく。


「――とおっ!」


 そのスキを逃さずホッパーは跳躍し、華麗な回転を加えながら再び大階段下へと舞い降りた。


「――ふん!」


 着地のスキを見越したのだろう……。

 放たれていた呪詛光球を、ルミナスロッドの一閃で打ち払う。


 ――優勢であることは間違いない!


 ――が、キリがない!


 いまだ傷一つ負っていない状態であるが、ホッパーは状況を見て冷静にそう判断した。

 やはり数の利が持つ力は偉大であり、このままでは本命たる魔人王へたどり着く前に消耗させられる一方なのである。


 これをくつがえす手は、ただ一つ!


「――アクセル!」


 ルミナスホッパーの両目が、銀の輝きを帯びた。

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