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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Bパート 1

 魔人王が、その恐るべき力をもって生み出した極光(オーロラ)……。

 そこへ向き合うようにして、おびただしい数の軍勢が魔城ガーデム前の荒野に布陣していた。


 魔界の空へ常に轟く雷光が、彼らの姿を照らし出す。

 そやつらが姿の、なんと醜悪(しゅうあく)なことであろうか……。

 全体的な体型は、成人した人間とほぼ変わらぬ。

 だが、黄緑色の肌といい、髪の毛一つ生えていない頭部といい、それで何故視界が得られるのか分からぬ瞳孔の無き(まなこ)といい、サメのそれを思わせる凶悪な牙が生え揃った口といい……。

 まさしくこれは、魔界の住人である。


 こやつらはいずれもが得体の知れぬ皮革(ひかく)を用いた腰巻を着用しており、手には粗雑な鍛冶仕事で生み出された得物を握っていた。


 ――キルゴブリン。


 かつて、魔界最弱生物だったゴブリンなる種族を魔人王がその力で進化させた、魔人軍の中核を成す兵たちである。


 ――キー!


 ――キー!


 未発達な発声器官で、キルゴブリンたちが極光(オーロラ)に向け叫び声を放つ。


 ――もうすぐ勇者がここへ乗り込んでくる。


 ――お前たちは、先鋒(せんぽう)としてこれを出迎えてやりな。


 一刻ほど前、彼らの偉大なる主が放った言葉は――果たして事実であった。


 ――グオン!


 ――グオン! グオン! グオン!


 魔界の肉食獣ですらおびえかねぬほどの轟音と共に極光(オーロラ)へ接近してくるのは、魔界においてすらお目にかかることはない奇怪な乗り物である。

 腹部から二輪を生やした鋼鉄竜と称すべきそれは、間違いなく今代の聖竜――竜翔機(りゅうしょうき)ドラグローダーであった。

 そして、その背にまたがる者は……。


 その者は、全身を昆虫じみた漆黒の甲殻に覆われていた……。

 関節部では、剥き出しの筋繊維がミリミリと音を立てているのがこの距離を置いてなおうかがい知れる……。

 何よりも特徴的なのは、その頭部だ。

 人間とバッタの顔を、デタラメに組み合わせたかのような……。

 魔界の尖兵(せんぺい)たちにとってすら異形として映るその造作は、見ようによっては頭蓋骨そのものにも思え、さながら地獄から現出してきた死神のごときであった。


 ――勇者ブラックホッパー!


 真っ赤な目で極光(オーロラ)を……その先に広がる魔界の光景を見据えながら、竜翔機(りゅうしょうき)に乗った勇者が迫る!

 真紅のマフラーを風になびかせた勇者は、人界の草原からこちらへ向け、迷わず最高速で進み続け……。

 そしてついに――極光(オーロラ)をくぐり抜けた!


 ――キー!


 ――キー!


 決戦の時は来た!

 迫り来る勇者に対し、サメのごとき牙を剥き出しにしながらキルゴブリンたちが吠える!


「おれは勇者――ブラックホッパー!」


『そしてその相棒――ドラグローダーじゃ!

 ――この名を冥土の土産とするがいい!』


 手に手に得物を構え布陣するキルゴブリンらに対し、勇者を乗せた竜翔機(りゅうしょうき)はいささかの減速もせぬ。

 魔人軍に向け全力で走行しながら、変形し格納されていた首が展開され、部分的に鋼鉄竜本来の姿が取り戻された。


『くらえいっ!』


 ドラグローダーの口腔(こうくう)から無数の火球が打ち放たれ、直撃したキルゴブリンたちが次々と爆散していく!

 だが、竜翔機(りゅうしょうき)の攻撃はそれに終わらぬ……。

 むしろ、火球の後に続く最高速度での突進こそが本命であり、竜翔機(りゅうしょうき)最大の必殺技であるのだ。


「ローダー――――――――――」


『――――――――――バーニング・ストーム!』


 次々と吐き出す火球で横合いのキルゴブリンたちを片付けながら……。

 ドラグローダーは最高速のまま、正面に展開するキルゴブリンの群れへと突っ込む!

 これを受けては、たまらない。


 ――キー!?


 ――キー!?


 竜翔機(りゅうしょうき)の突撃を受けた雑兵たちは、その体当たりに弾き飛ばされ、火球を受けた者らと同様、空中で爆散していく結果となった。


 ――キー!


 ――キー!


 恐怖という感情を持たず……。

 自らの命に対する頓着(とんちゃく)もなき魔族の尖兵(せんぺい)たちは、それを見てもなお臆することなく続々とドラグローダーへ立ち向かっていく。

 しかしながら、勇者と竜翔機(りゅうしょうき)が一体となって繰り出される必殺技は、意気だけで抗えるほど生やさしい代物ではない。


 ――キー!?


 ――キー!?


 結局、後続の者らも勇者の進撃をいささかも緩めさせることなく、爆散し果てていく!

 群がるキルゴブリンたちをものともせず突き進むホッパーとドラグローダーの姿は、さながら爆炎を振りまく破壊(つち)のようだ!


 ……だが、その突撃がついに止まる時が来た。


 ――竜騎士のそれにも勝る極太の矢が!


 ――カラスのそれを思わせる超硬質の羽が!


 ――目には見えぬ破壊の超音波が!


 突撃を敢行(かんこう)していた竜翔機(りゅうしょうき)の眼前に打ち放たれ、その足を止めたのである!


『――ぬうっ!?』


「――上だっ!」


 不意を打っての奇襲にも動じず……。

 横滑りに車体を急停止させたホッパーが、雷鳴轟く魔界の空を見上げた。


「空を飛ぶ魔人戦士たちか……」


 果たして、勇者の突撃を止めたのは空を舞う三人の魔人戦士たちである。


 白鳥の特質を備えし魔人は巨大な弓矢を構え……。

 それとは対照的なカラスの特質を備えし魔人は、一つ一つが短剣のように鋭利な羽毛で構成された背中の羽を力強く羽ばたかせていた。

 両者の中央に滞空するのは、腕の代わりにたくましいコウモリの羽を生やした魔人で、上空からこちらを見やりながら鋭い牙の生えた口を大開きにしている。


 ――空を飛ぶ魔人戦士たち!


 地はキルゴブリンたちに任せ、上空から勇者を狙い撃ちにしようという算段だ!


『だが、以前葬った()()()とかいう奴に比べれば、いかにもぬるい!

 主殿! ここはワシに任せ、先へ進め!』


「マハラではなく、ハマラだ。間違えてやるな……。

 ――よし! ここは任せた! 魔人王が待つだろう玉座の間で合流するぞ!」


 言うが早いか……。


「――とおっ!」


 バッタの脚力を活かしたホッパーが、ローダーの車上から恐るべき跳躍力で跳び去る!

 そのまま、見るも鮮やかな空中回転をしながら周囲に展開しつつあったキルゴブリンらの頭上を飛び越え、ひと息に魔城ガーデムの大扉へと迫っていく……。


「――む!」


「――行かせると思うか!」


「――ここで奴を仕留めるぞ!」


 だが、その様は空中を自在に飛翔する者からすればあまりに無防備!

 三人の魔人戦士は、それぞれ勇者の背に向け攻撃を加えようとしたが……。


『ワシを忘れては困るのう!』


 一足早く足元から放たれた火球が、それを阻止する!

 同時に光の粒子を振りまきつつ飛び上がってきたのは、ドラゴンモードへと変形した竜翔機(りゅうしょうき)

 三対一の空中決戦が幕を開けた!


「ホッパアアアァァ――――――――――パアアァンチ!」


 それを背にしながら、たったひと跳びで大扉へ達したブラックホッパーが必殺の跳躍拳を放つ!


 すさまじい破砕音と共に……。

 最強の改造人間が振り抜いた拳は、いともたやすく分厚い扉を粉砕してのけた。


 これを迎え撃つべく、城内に布陣していた者たちが闇の魔力を高めていく……。

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