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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Aパート 3

 魔人王によるふざけた決戦の申し入れから、およそ二刻後……。

 マナリア平原……いや、かつてマナリア平原と呼ばれていたその場所へ、数騎の騎士たちが派遣されていた。


 決死隊であり、捨て駒である。


 果たして、魔人王による一連の説明は事実であったのか……。

 何を置いても、これを確認せねば話は進まぬ。

 しかしながら、あまりに異常かつ大規模な現象であるし、魔人王の言葉が事実ならば薄い光のベールを隔てた目と鼻の先に魔人たちの本拠地が存在することになる。


 貴重な竜騎士たちや、ましてや勇者本人を調査に派遣するなど言語道断であった。

 それゆえ、志願者を募り決死隊として調査を命じたのである。

 もっとも、昨日勇者が見せた活躍を経てますます士気旺盛な王国騎士団であるので、誰も彼もがこの任に志願し、かえって選定は面倒になったものだが……。


「……どうだ?」


 早馬から下馬し、いつでも撤退できるよう油断なく身構えながら極光(オーロラ)へ近づいた騎士に、周囲を警戒しながら後詰めを務める騎士が尋ねる。


「……どうやら、魔人王めの言っていた言葉は事実のようだ」


 後ろを振り返る愚は犯さず、言葉だけで伝えながら先鋒の騎士が極光(オーロラ)に手をかざした。

 いや、これは手をかざしているのではない……。

 押しているのだ。


「見た目はただの光に見えるが、どれだけ力を込めてもびくともせん……」


 ぐっぐっ……と、光のベールを押し込んでみせながら騎士がそう告げる。

 ひとしきりそうした(のち)、彼は大胆にも腰の剣を引き抜いた!

 そしてそれを、極光(オーロラ)に向け振り下ろす!


「――むん!」


 ――ガイイイイイン!


 ……と、金属盾で防がれたかのような音が周囲に響き渡る。


「……ちっ!」


 たかが光の幕に全力の一撃を跳ね返された騎士が、愛剣の刀身を確かめながら舌打ちを漏らす。

 その刃はわずかに刃こぼれを起こしており、魔人王が施したという防護の程をうかがい知ることができた。


「……ともかく、事実であると確認はできた」


「ああ、長居は無用だ」


 極光(オーロラ)の向こう……。

 そこに広がる、生物の存在するとは思えぬ荒野と、そびえ立つ禍々しき城をにらみつけながら、騎士たちが早馬の馬上へと戻る。


 ――魔人王の告げていた言葉は事実なり!


 彼らの調査結果は、その日の午後には王国議会へと届けられることになった。




--




 ――紛糾。


 ……その日のレクシア王国議会を表すならば、この二文字を置いて他にあるまい。


「勇者殿に乗り込んでもらうなど言語道断!

 向こうは明らかに全戦力をもって迎え撃つ構えではないか!」


「もっと調査を進め、せめて騎士団も同行できるよう手立てを整えるべきだ!」


 主に元騎士で構成されている、貴族出身の議員たちがそう語調を荒げれば……。


「調査とやらに、どれだけの期間をかけるつもりでいるのです!

 まさか、期限を設けぬという敵方の言葉を鵜呑(うの)みにしているわけではありませんよね!?」


「そもそも、手立てとはなんですか手立てとは!?」


 財力にモノを言わせ議席を買い取った、富裕層出身の議員らを中心とする勢力が意見の穴を突く。

 慎重論派と決戦論派……対立する両派閥は、盛んに言葉を交わし合っていた。

 旗色が悪いのは――慎重論派だ。


「いいですか!? マナリア平原と言えば王都の目と鼻の先です!

 そこを魔人族に抑えられた状態で、どのように人と物とを動かすというのですか!?」


「いかにこの王都が貿易都市とはいえ、船舶でまかなえる物流量には限界があります!」


「要するにあのふざけた魔人王は、兵糧攻めを仕掛けてきているのですよ!

 奴らが起こした数々の事件で、国の台所はひっ迫しています! とてもではありませんが、長期戦には耐えられません!」


 彼らの意見に、慎重論派の議員たちは有効な反論を返すことがかなわない。

 そもそも、この派閥を形成するのは経済界で中核を成す人物たちであり、彼らが無理と断じているならばそれは真実として無理なのだ。


「し、しかし……だからといってみすみす勇者様を敵の根城へ乗り込ませるわけには……!」


 決戦論派が唯一切り崩せぬのは、その一事のみである。

 勇者と聖竜のみで敵地に向かわせることが、どれだけ無謀な賭けであるかは語るまでもない……。

 しかし、現実として手をこまねいていては国が干上がってしまうのも確かなのだ。


 会議は踊る、されど進まず……。




--




 弁舌を交わし合うのは、何も議席を持つ者たちばかりではない……。

 王都中の至る所で、視野の広さこそ違えど似たような意見が交わし合わされていた。


 下町のある一角で、遊戯盤を囲みながら言葉を交わすのは生業を息子に譲り隠居を決め込んだ老人たちである。


「勇者様だけを向かわせるなんざ、ありえねえだろ!?

 つい昨日のことを忘れちまったのか!? みんなして、俺も俺もと武器を手にして立ち上がったじゃねえか!?」


「けどよ……調査から戻ってきた騎士様たちの顔色を見れば、ありゃ本当に他の人間は乗り込めねえと見ていいぞ?」


「だったら、あのふざけた魔人王がしびれを切らすまで待ってればいいんだ!

 んで、魔人族が乗り込んできたところを勇者様と一緒にみんなで袋叩きにしてやりゃあいい!」


「しびれを切らすって言ってもよお……いつまでだ?

 マナリア平原に魔人族が居座ってるってんなら、麦も何も王都に入ってこねえぞ?」


「だったら、魚を食えばいいんだ! 魚を!

 俺が息子に発破かけて、どんどん獲ってこさせてこさせてやらあ!」


「おうおう、言いやがらあ!

 ……まあ、おめえの息子は魚よりまず女を捕まえなきゃあだがな」


「それを言うなよ、それを……と、ほれ王手(チェック)だ」


 年を取れども気力は衰えず……。

 遊戯盤を囲む老爺(ろうや)たちは、豪胆に笑い合った。


 ……面白いのは、街角で交わされる会話の全てが大同小異であり、決戦論派が押している王国議会とは真逆に、市民らの意思は勇者を引き留める慎重論で固まっているということであろう。


 では、果たして……当の勇者はどのように思っているのだろうか。

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