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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十一話『昭明にして萬邦(ばんぽう)を協和す』
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Aパート 2

 騎士スタンレーが、手をこまねきながら極光(オーロラ)の周囲を飛行していたのと、ほぼ同時刻……。

 王都上空にもまた、異変が起こりつつあった。


 神々と精霊たちが定めた天の運行など、知ったことではないと言うかのように……。

 どこからともなく湧き出した黒雲(こくうん)が、徐々に徐々にその大きさを増し……百も数え終わらぬ間に、王都上空全域を覆うとさわやかな早日をさえぎってのけたのである。


「これは……」


「またかよ……!」


 何しろ、昨日の今日で同じ怪奇現象が巻き起こっているのだ。

 王都に暮らす市民の反応はといえば迅速なもので、もはや慣れすら感じらせる様子で定められた避難場所へと駆け込んで行った。


「今度は何をする気だ?」


「もう、三将軍は勇者様が倒しちまったぞ?」


「今度は自分が乗り込むとか言い出しそうだな」


 そして、どうせ同じ現象が起こるのだろうとタカをくくり、上空の黒雲(こくうん)を眺めやっていたのである。

 果たしてその予想は――正しいものであった。

 ただし……。


 ――魔人王チャンネル!


 ……という、無駄に達筆な文字がデカデカと黒雲(こくうん)に映し出されたのは予想外であったが。

 文字が消え去ると同時、先日のものと同じ……どこぞの城内における玉座の間が映し出された。

 そして今度は、奇矯(ききょう)という言葉を体現したかのような白装束の美男子が、黒雲(こくうん)全面に広がるほどニヤついた顔を押し付けながら現れたのである。


『はい、どうも皆さんお元気です――かっ!?

 魔人王レイ、です!』


 そのまま身振りなど交えながら、ハキハキと歯切れよく魔人王レイが名乗ってみせた。

 どうにもしゃべり慣れたセリフといい、妙に様になっている所作といい……事前に何度か練習したことがうかがえる。


『皆さん、ちょっと見慣れない演出に戸惑っちゃったかもしれないですけどね?

 これ、この世界でもあと三〇〇年くらいしたら定着して有名人への特急券と化すかもしれませんから、よーく覚えておいてください!

 残念ながらチャンネル登録機能とかはないから、心の中でグッドをよろしく!』


 その言葉に、これから仕事をしようと意気込んでいた全王都市民が、心の中で親指を下に向けた。

 しかし、そんなことはつゆほども知らない魔人王は、にこやかな様子で本題へと入っていったのである。


『えー、今回もご覧の通り、ガーデム玉座の間からお送りしております!

 そして今日、やるのはなんと――!』


 ――デデン!


 ……という、どこか間が抜けた太鼓の音と共に、再び文字が映し出された。

 いわく……。


 ――魔城ガーデムと地上をつなげてみた!


「……は?」


 映し出された文字の意味を咀嚼(そしゃく)できず、誰もが間抜けな声を上げる。


『と言っても、どういうことだかよく分からないと思いますのでね?

 ――ここに、実際の映像を用意させていただきました!』


 魔人王の声が響くと同時に、今度は黒雲(こくうん)がおだやかな平原地帯を映し出す。

 月と星の光に照らされるその地には、ひと際目を引く立派な大木がそびえており……。

 いかに夜間の光景であろうと、王都の市民がこれなる大樹を見間違えるはずもなかった。


 ――初代巫女の墓標樹!


 ……となれば、これなる平原地帯はマナリア平原である。


『マナリア平原……。

 これなる地を、知らぬ者はいないだろう……。

 偉大なる初代巫女が眠りし土地にして、現在に至るまで魔力覚醒の儀式が行われている聖地である……』


 急に真面目な声を作った魔人王が、誰にとっても既知(きち)の情報を語り始めた。


『しかし、昨夜未明……。

 この聖地に突如として、異変が起こったのである!』


 そこまで語られると同時に……。

 黒雲(こくうん)が映し出す虚像に、変化が巻き起こる!

 おお……これはいかなる現象か……。


 ――赤に。


 ――緑に。


 ――青に。


 ――白に。


 複雑怪奇な色合いを帯びる巨大な光のベールが、天空から降り注ぎ墓標樹を中心とする一帯を覆ってしまたのだ!


 ――極光(オーロラ)


 ……しかも、これはただ地上を覆っているわけではない。

 極光(オーロラ)の向こう……そこには見るだに寒々しく暗い、荒涼とした大地が広がっており、さらには奇怪極まりない巨大建築物がそびえ立っていたのである!


 市民らは無論、知るよしもないことであるが……。

 これなる光景は、同時刻に騎士スタンレーが肉眼で確認しているものと同じであった。


『えー……というわけで、ですね!

 魔城ガーデムの周囲一帯とマナリア平原とを、俺の力でつなげちゃいました!

 俺、超がんばった! えらい!』


 これは、何かの冗談かまやかしであると、誰もが信じようとするが……。

 昨日の出来事を思えば、とてもそうは思えなかった。

 はったりの(たぐい)ではなく……。

 事実として魔人王は、その恐るべき力を振るい神聖なる地を占領してのけたのである!


『あ、初代巫女ちゃんの墓標樹に思い入れがある皆さんは安心してくださいね?

 専門的な話をすると難しくなっちゃうので、簡単に説明しますと……。

 今、ガーデムは地上にも魔界にも存在するような、ちょっとあやふやな状態になってます!

 まあ、紙に描かれた絵の上へ別の絵を乗っけてるようなものでして……。

 ちょっと姿が隠れちゃってるだけなので、消えてなくなったり、入れ替わりで魔界に行っちゃってるわけではありません!』


 黒雲(こくうん)が映し出す虚像は、再びガーデム玉座の間とやらへ戻り……。

 そこで魔人王が、実際に用意したヘタクソな絵を駆使しながらそう説明してみせた。

 ふざけてはいるが嘘だけは言っていないこやつなので、ならば言う通りの状態なのだろうが……。

 だからといって、心おだやかにしていられる王都市民ではなかった。


『さて、というわけでガーデムと地上をつなげるチャレンジは、無事成功したわけでですね……。

 ここで今日は、次回のチャレンジ内容を発表しちゃおうと思い――ます!』


 妙なタメを交えながら魔人王が言い放つと同時に、黒雲(こくうん)が巨大な文字を映し出す。

 いわく……。


 ――勇者ブラックホッパーに挑戦してみた!


 またもせわしなく切り替わった虚像の中で、どかりと玉座に座り脚を組んだ魔人王がにやりと笑ってみせる。


『ま、つなげたとは言いましたが……今のところフリーパスにはしていません。

 試してみれば分かりますけど、俺の許可してない人間が近寄ると見えない壁に阻まれて進めなくなります!

 さて、では誰を許可しているのか……これはもう言わなくとも皆さん、お分かりでしょう?

 ――勇者ブラックホッパー!

 ――その相棒ドラグローダー!

 この両名だけは、光を素通りしてこちらに来ることができまーす!』


 最後に、頬杖をつきながら熟考の末見い出したのだろうキマッた角度で、魔人王がこちらをみやった。


『俺が知る限り……。

 勇者ってのは、悪い魔王の居城へ乗り込んでこれを討ち取るもんだ。

 期限を区切るなんて、ケチくさいマネはしねえ。

 ……待っててやるから、万全の準備をしてくるんだな』


 そう言い終わった後……。


『あー、肩こった!

 誰か飲み物持ってきてー? 何度もリハしたから喉がカラカラだよ』


 玉座から立ち上がった魔人王が、自慢の白帽子を手に取り、くるくると回しながら虚像の外へそう呼びかける。


 ――キー!


 ――キー!


 虚像の外から、慌てたキルゴブリンの声が響き……。


『……え?

 ――やべっ!?』


 ようやくまだ自身の様子が映し出されていると気づいた魔人王が、ぱちりと指を鳴らそうとし……。

 失敗して、スカッとした音がすると共に、王都上空を覆っていた黒雲(こくうん)はたちまち消え去ったのである。


 ……なんとも言えず、間が抜けた決戦の申し入れであった。

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