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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十話『陽蝗(ようこう)の勇者!』
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Bパート 12

 ブラックホッパーが、魔人将二人を相手に優勢へ立っていた時と同じように……。


 ――ワアッ!


 ……と、再び王都中から歓声が湧き起こった。

 角材やら何やら、とにかく手近な品を武器に駆けつけようとしていた男たちが……。

 各地の避難場所に残り、ひたすら祈りを捧げていた女や子供たちが……。

 勇者の新たな(フォーム)――サンライトホッパーの勇姿と、その圧倒的な力に感激していたのである。


 それは、王城のバルコニーで戦況を見守っていた巫女姫ティーナも同様であり……。


「今、新たな伝説が生まれました……」


 彼女は、我知らず涙を流しながらそうこぼしていた。

 それとは真逆に、ただひたすら無表情に上空の黒雲(こくうん)を眺めているのが傍らの新人王宮侍女――ヌイである。


 例え表情には出さずとも、その胸に抱えた悲痛さを見逃す当代の巫女ではない。

 そして、それを抱えた上でなお目を逸らさぬ覚悟の気高さも……。


 ティーナは無言のまま、そっとヌイを抱きしめた。




--




「おのれ……おのれっ!?」


 さすがは、二人の魔人将が合体して生まれた魔人戦士というべきだろう……。

 サンライトホッパーによる神速の連続攻撃をまともに受けたラトルスカは、しかし、即座に立ち上がるとそう吠えた。


『すっかり形勢逆転じゃのう……?』


 勇者の腰元に装着されたドラグドライバーが、からかうように挑発の言葉をつむぐ。

 対してホッパーは、油断することなく身構えていた。


「――っ!? ぐ……うう……っ!」


 と、その時である。

 雄々しく立ち上がったはずの獣烈幽鬼が、その巨体をわずかに揺らめかせた。


 見やれば、おお……これは!?

 禍々(まがまが)しき骨片が集合して形作られたラトルスカの肉体各所から、シュウシュウと焼けただれるような音と共に白煙が噴き出しているのだ!


「これは……ただの拳打や蹴りではない……!?

 一撃一撃に……光の魔力が宿っているというのか!?」


 幽鬼将としての見識を引き出しながら、ラトルスカが己の傷を確かめる。


 そう……サンライトホッパーによる攻撃は、単純な打撃ではなかった。

 まるで、全てを照らし出す太陽のような……。

 暖かく慈愛に満ちた魔力が常に勇者の全身を駆け巡っており、それは魔人族にとって猛毒のごとき作用をもたらすのである。

 おそらく、並の魔人戦士であったならば触れただけで灰と化し消滅するに違いない。


『ふふん……サンライトホッパーによる攻撃は、全てが必殺!

 あらゆる魔人を照滅(しょうめつ)せしめる太陽の力なのじゃ!』


「だが、これで終わる貴様では……。

 ――貴様らではあるまい?」


 何もかもが、自身の手柄であるかのように勝ち誇るドラグドライバーとは対照的に、ホッパー本人はあくまでも油断なくラトルスカを見据えていた。


 獣烈将と幽鬼将……。

 ラトラとルスカ……。


 尊敬すべき二人の敵が合一して生まれし魔人が、奥の手を隠し持っていると、歴戦の勇士は見抜いていたのである。


「――無論!」


 勇者の問いかけに応じ、獣烈幽鬼が刃金(はがね)(たてがみ)に手をかざす。

 すると、ラトラの時とは違い、今度は(たてがみ)の全てが変形し姿を変え……その巨体にふさわしい大剣へと変じたのである!

 剣と言うよりは鉄塊と称すべきそれには、見るも怪しき魔法文字(ルーン)が縦横無尽に走っており、それが闇の魔力を宿すと、亡き大将軍が愛用していた魔剣と同等の燐光(りんこう)に包まれた!


「武の技に魔力を乗せられるは……我も同じよ……!」


 さらに、獣烈幽鬼の全身から黒雷(こくらい)がほとばしり、それは燐光(りんこう)の上から大剣にまとわりつく!

 これなるは、まぎれもなくラトルスカの奥義であるに違いない……。

 獣烈将の武技と幽鬼将の魔法……その二つが、今まさに一つとなっていた。


『――ならば! 主殿!』


「ああ!」


 従者の言葉に応じたサンライトホッパーが、額に備わりし第三の目とも呼ぶべき器官をチカチカと明滅させる。

 この信号(シグナル)が伝えしは――勇者の意思!

 それに応じるは、石畳に突き立ちしギガントアックスとルミナスロッドだ!


 二つの聖具が、ひとりでに宙空へ浮かび上がりホッパーの頭上で円を描く……。

 アックスが……そしてロッドが円を描くたびに光の粒子がこぼれ、その軌跡を彩った。

 両者は見る見る間に速度を増し、勇者の頭上で光の輪を形作る。

 そして、ホッパーが右手を掲げると同時に光の輪は中央部へ収束し閃光(スパーク)を発したのだ!


陽蝗(ようこう)ゥゥゥ――――――――――剣!」


 光が収まると同時、掲げられた右手に全く新しい武器が握られていた。


 ――陽蝗(ようこう)剣!


 それは、聖斧(せいふ)聖杖(せいじょう)が一つとなることで生み出された、新たなホッパーにふさわしい聖剣である!

 まるで、飛翔するバッタの(はね)をそのまま刃の形へ落とし込んだかのような……。

 ひどく独特な形状の片手剣は、刀身が水晶のように透き通って輝いており、なんとも言えず――美しい。

 同時にこれは、イズミ・ショウが培った剣道の技を最大限に引き出せる形でもあった。


『剣には剣じゃ!』


 ドラグドライバーがそう宣言し……。

 陽蝗(ようこう)剣を正眼に構えたホッパーと、大剣を片手で掲げたラトルスカが向き合う。

 無言で見つめ合う両者の間で、無形(むぎょう)の殺気がぶつかり合い……。


「――だあっ!」


 先に動いたのは――獣烈幽鬼だ!

 渾身の力を込めた袈裟(けさ)切りは、ただ一太刀で勇者を裂断せんという気迫が込められていたが……。

 攻撃は、それのみではなかった。

 ラトルスカのマントが意思を持つ生き物のようにうごめき……。

 斬撃に先んじ、その反対側から黒雷(こくらい)をまとって襲いかかったのである!


 まるで、先の三点連続攻撃に対する意趣返しのような……。

 大剣とマントを用いての連携攻撃だ!


「――むん!」


 だが、これしきの工夫で動じるサンライトホッパーではない。

 まずは聖剣を振るい、マントによる一撃を流水のようにやわらかくいなし……。

 勢いのまま回転し背後を向くと、しゃがみながら剣を肩に担いだのである!

 すると、おお……これは……!

 まるで、そこに振るうよう申し合わせたかのように……。

 獣烈幽鬼の大剣が担がれた陽蝗(ようこう)剣の刀身に打ち当てられ、そのまま刀身を滑るように受け流された!


 自身の動き……そして対手の動きを完全に見切り、掌握しての見事な防御だ!

 そして取り回しの悪い大剣を受け流され、死に体となったラトルスカの懐でホッパーが爆発的に立ち上がる!


「――はあっ!」


 同時に振り向きながら振るわれたのは、下段からの切り上げだ!


「――ぐうおっ!?」


 まともにこの斬撃を浴びた獣烈幽鬼の胴から、おびただしい量の火花が散る!

 これによって生じるスキを見逃す、勇者ではなかった。


「――むん!」


 切り上げから即座に放たれた袈裟(けさ)切りが……。


「――ぬん!」


 苦しまぎれになぎ払われた大剣をかいくぐりながら放たれた横なぎの一閃が……。


「――せいやっ!」


 主を防御すべく襲いかかったマントの動きよりなお早く、踏み込みながら繰り出した渾身の突きが……。

 ラトルスカの全身を切り刻んだのである!


「ぐうっ……はあっ……!?」


 そして今、獣烈幽鬼の真芯に突き立てられた陽蝗(ようこう)剣が、ますます刀身の輝きを強くしていた……。


「ぬうううううん……!」


 握り込んだ聖剣を、勇者が渾身の力でさらに深く突き刺す!

 これなるは、ただの刺突ではない……。

 見よ! サンライトホッパーの全身から燃え上がる炎のように立ち昇る力を!

 それは陽蝗(ようこう)剣の刀身に収束し、ラトルスカの頑強な体を内部から焼き尽くしているのだ!


「ぐぅ……っ!? おお……っ!? おおおお……っ!?」


 苦悶(くもん)の声を漏らす獣烈幽鬼が、たまらず大剣を取り落とした。

 禍々(まがまが)しい骨片が集合することで形成された体の内側から、光条が漏れ出し、全身で火花が散る!


 これこそは――サンライトホッパー最大の必殺技!


「ホッパー――――――――――」


『――――――――――フレア・ブレイク!』


 ラトルスカの体内に注がれた太陽の力が最高潮に達し、もはや収まりきらなくなったそれが背中側から花火のように噴出していく……。


「――ふん!」


 そしてホッパーは陽蝗(ようこう)剣を引き抜き、残心しながら強敵に背を向けた。


 サンライトホッパーの勝利だ。


「見事……だ……勇者……サンライトホッパー……!」


 よろよろと後ずさりながら……。

 獣烈幽鬼が、己を上回ってみせた陽蝗(ようこう)の勇者に賛辞の言葉を送る。

 そしてそのまま、仰向けに倒れ……。

 勇者の背後で、爆発し消滅したのであった。


「ラトラ……そしてルスカ……!

 敵ながら、見事な男たちだった……!」


 背後を振り向かぬまま、ホッパーもまた賞賛の言葉を送ったのである。

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