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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十話『陽蝗(ようこう)の勇者!』
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Bパート 8

 ――魔人将二人による合体!


 その衝撃は、王都全域にしん……とした静寂をもたらした。

 魔人王が生み出した黒雲(こくうん)の映し出す虚像……。

 それを通して戦局を見つめていた人々が、あまりの出来事に息を()んだ結果である。


 ――獣烈将と幽鬼将。


 ……こやつらの恐ろしさ、姿、能力は伝承を通じてつぶさに伝えられていた。

 だが、伝承のどこにも両名が合体し全く新しい一人の魔人戦士と化すなど語られていないのだ。

 本人らが語る通り、復活した魔人王によって与えられし新たな能力であること疑う余地もない。


 そのように、各所へ非難している市民たちばかりか上空を旋回する竜騎士たちですら呆然(ぼうぜん)とする中……。

 勇者の決断は、早かった。


「――アクセル!」


 フォームチェンジを決意したホッパーの両目が、白銀の輝きを帯びる!

 同時に、その胸部に銀色へ輝く球体が生み出され、そこから血流めいた銀光の奔流が四肢の末端に至るまでを駆け巡った。

 首に巻いたマフラーが、赤から銀へとその色を変える……。

 これこそが、大将軍ザギに対抗するべく生み出されたホッパー第四の(フォーム)


「おれは神速の戦士――アクセルホッパー!」


 神速の戦士が、獣烈幽鬼に向けて力強く名乗りを上げた。


「ザギ殿と渡り合った力か……。

 ――面白い! 我が新たな体の慣らし相手としては、丁度良かろう!」


 おそらく、なんらかの手段でかの戦地を偵察し、ラトルスカはアクセルホッパーに秘められた力を熟知している。

 しかし、大将軍と同質の力を備えし勇者を目にしてなお、その自信が揺らぐ様子はなかった。


「鳴らし運動で終わらせてやろう……」


 構えた勇者が、ゆらりと腰を落とす……。

 次の瞬間、アクセルホッパーの瞳が一際強烈な銀光を放った!

 そして――その姿がかき消える!


 アクセルホッパーに備わった力……。

 超加速を用いて、神速の領域へと踏み込んだのだ!


「――ぬうっ!?」


 獣烈幽鬼が、獅子の頭骨そのものな顔に苦痛の色を浮かべる!

 おそらくは、ホッパーによる攻撃だろう……。

 ラトルスカの頭からつま先に至るまで、全身をおびただしい量の火花が散らしたのだ!

 凶器のごとく研ぎ澄まされた骨片(こっぺん)によって形成される獣烈幽鬼の全身が、きしみ、たわみ……肉眼で捉えられぬ勇者の猛攻ぶりを見る者に伝える!


 だが……倒れぬ!

 おそらくは、一撃一撃が必殺の威力を秘めているだろうアクセルホッパーの猛撃が数百数千と無防備な全身を貫いているというのに、地に根を張った大木のようにその立ち姿は揺らがぬのだ!


「ぐ……っ!? くく……っ!?」


 漏れ聞こえる苦悶(くもん)の声を聞けば一切通用していないということではないようだが、しかし、致命傷を与えられていないのも火を見るより明らかである!


 そんな状態のまま、およそ十を数えるほどの時間が流れた……。


「――くっ!?」


 ホッパーが、元立っていた場所へ虚空(こくう)からにじみ出るようにその姿を現した。

 すでに胸部の光球は消失しており、目もマフラーも元の赤へとその色を戻している。


 ――十秒!


 アクセルホッパーとして力を行使できる限界まで攻撃を加え、通常形態たるブラックホッパーへとその姿を戻したのだ。

 その全身からはしゅうしゅうと湯気が立ち昇っており、無言のまま上下させる肩が深い疲労を感じさせる。


『主殿!? 大丈夫か!?』


「ああ……まだ、やれる!」


 心配して声をかけるドラグローダーに、勇者は(かぶり)を振りながらそう答えた。


「ク……クク……」


 そんな宿敵の姿を見ながら笑みを漏らしたのは、他でもない……怒涛の猛攻撃を無防備に耐え抜いた獣烈幽鬼だ。


「なんという……なんという力だ……!

 いや、我自身も驚いているぞ?

 まさか、勇者渾身の連続攻撃を浴びてこゆるぎもしないとはな!」


 そして獣烈幽鬼は、マントを翻すと天に向けて高々と両手を掲げたのである。


「偉大なる陛下! ご照覧あれ!

 あなた様から授かった力をもって、これより勇者を仕留めてご覧にいれます!」


 その姿は、黒雲(こくうん)を通じて全市民へ余すところなく伝えられており……。

 アクセルホッパーの限界ぎりぎりまで攻撃を加えてなお、無傷の姿を保った新たな魔人戦士に誰もが息を()んでいるのが伝わった。


「――放て!」


 動いたのは――騎士団長ヒルダ率いる竜騎士隊だ!

 上空を旋回しながら引き絞っていた複合弓の(つる)を、それぞれが解き放つ!

 竜の素材を用いたそれから放たれた矢の数々は、恐るべき速度でラトルスカに向けて殺到したが……。


「ふん……下らぬ」


 獣烈幽鬼はそれに対し、視線を向けることすらなかったのである。

 代わりに動いたのは、こやつがまといしマントだ。

 元々は幽鬼将が羽織っていたローブが変化したそれは、そのものが意思を持つかのように怪しくうごめくと、ゴムのように伸び広がり迫りくる矢群(やぐん)をはたき落としたのである。

 たかが布一枚の、なんという力と精密性であろうか!


「……貴様らは、大人しく見ているがいい」


 ――パチリ!


 ……と、ラトルスカが右手の指を鳴らす。

 印と呼ぶにはあまりに些細(ささい)な動作から繰り出されたのは――闇の魔術だ!


「うっ……!?」


「くうお……っ!?」


「も、持ちこたえられない……っ!?」


 竜騎士たちが……。

 そして彼らの騎乗する飛竜たちが、苦悶(くもん)の声を漏らす。

 一見すれば、彼らの身に何か変化が生じたようには見えぬ。

 しかし、誰もが重い荷を背負っているかのように歯を食いしばっており、中には誇りそのものと呼べる複合弓を取り落とす者の姿すら見えるのだ。


 ――ズン!


 ……と、一般的な品に比べ重量があるとはいえ、弓が落ちたとは思えぬ音が広場に響く。


「だ、駄目だ……このままでは竜が耐えられん……っ!?

 ――総員、着陸せよ!」


 ヒルダの指示に従い、竜騎士たちは広場の片隅へ次々と愛竜を降り立たせ……。

 着陸と同時にうずくまった飛竜の背で、身動きすることもかなわない有様となっていた。


 これは――重力だ!


 獣烈幽鬼は重力を操り、竜騎士たちへ見えざる重荷を背負わせたのである!

 重力そのものすら操るとは……合体して強化されたのは、肉体の頑健さのみではない。

 内に秘めし闇の魔力もそれを行使する技術も、幽鬼将単独とは比べ物にならぬ領域へ押し上げられているのだ。


「――ローダー!」


『――おう!』


 バイクモードへ変形したドラグローダーに、ブラックホッパーがすかさず飛び乗る!

 そのままわずか十数メートルの走行距離で最高速に達した両者が放つのは、竜翔機(りゅうしょうき)最大の一撃……!


「ローダー――――――――――」


『――――――――――バーニング・ストーム!』


 伸縮していた首を戻し、部分的に機械竜本来の姿を取り戻したドラグローダーが次々と火球を吐き出す!


「――ふん」


 だが、獣烈幽鬼はつまらなそうに鼻を鳴らし……。

 そのマントが怪しくうごめくと、殺到した火球のことごとくが叩き落とされたのである。

 竜騎士の矢のみでなく、竜翔機(りゅうしょうき)の火球すらも寄せ付けぬとは!?


「……くっ!」


『うおおおおおっ!』


 牽制の火球は無駄に終わったが、勇者を乗せたドラグローダーは構わず最高速での体当たりを敢行した!

 しかし……、


「――ぬるいわ!」


 まるで、羽虫でも振り払うかのように……。

 マントを戻したラトルスカが、無造作に腕を横なぎへ振るう。

 ただ、それだけだ。

 それだけだというのに……。


「――ぐうううううっ!?」


『――ぬわあああああっ!?』


 体当たりを試みた勇者と竜翔機(りゅうしょうき)は、横合いに弾き飛ばされることとなったのである。


 ――強い!


 獣烈幽鬼ラトルスカ……その強さは、これまでの敵と次元が違う!

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