Bパート 6
フォームチェンジを決意したホッパーの全身が、変換能力によりまたたく間に構築し直されていく……。
ギガントの特徴であった紫の追加装甲は消えてなくなり……。
それどころか、肩当てに相当する甲殻は縮小し、上腕部と腰から太ももに至るまでの甲殻は皮膜状に変化を遂げる。
さらに、両目と胸部、そして両手甲と脛当てに該当する甲殻が海のごとく深い青色に染め上がった。
勇者の象徴とも言えるマフラーの色は――黄!
「おれは……輝きの魔術師……!」
ルスカが操る影の触手に抗うホッパーの手からギガントアックスが消失し、代わりに進化した聖杖――ルミナスロッドが姿を現す!
「……ルミナスホッパー!」
ロッドの柄に彫り込まれた魔法文字がまばゆく輝き、炸裂した閃光手榴弾もかくやという閃光を発した!
――ルミナスホッパー!
初代巫女の力を受け継ぎし輝きの魔術師が、その身に秘めた強大な光の魔力を放出したのだ!
拘束されていたため、ロッドに存在するレバーを動作させての技とはならなかったが、怪しくうごめく触手が消失したのを見れば効果のほどは明らかである!
「魔法戦ならば受けて立つぞ――幽鬼将!」
触手から開放されたホッパーが、ルスカに向けて勇ましく聖杖を突き出した。
「初代巫女の力か……忌まわしい……。
千年前……確かにこの手で仕留めたというのに……未練がましきものよ……!」
白骨遺体そのものと呼ぶべき不死生物に、表情を形作る筋肉は存在しない。
しかし、ギリリと奥歯を噛み締めているのを見れば、いかなる感情を持って相対しているかは容易に想像できた。
「その敵、ティーナに代わってこのおれが果たすまで!
――行くぞ!」
ロッドを手に距離を詰めるべく駆け出すホッパーであったが、むざむざと接近戦に応じる闇の魔術師ではない。
「ふん……少し前まで魔法のまの字も知らなかったくせに大口を叩きよる……!
こちらこそ、巫女めの未練を断ち切ってやるまでの話よ……!」
ルスカが素早く両手を動作させ、複雑怪奇な印を切っていく……。
すると、おお……これが魔界における魔法の第一人者が業前か……!?
先ほど、ドラグローダーを追い払うべく放たれたものよりも一回り大きい呪詛光球が、次々とルスカの周囲へ生み出され漂い始めたのである!
「――カーッ!」
そしてそれは一斉に放たれ、ルミナスホッパーに向けて殺到した!
目には目を! 歯には歯を!
魔法に抗するは――同じく魔法!
――ガキン! ガキン!
ホッパーが、ルミナスロッドに備えられしレバーを二回動作させる!
ここから発動されるのは、ルミナスホッパーが誇りし防御の術法!
「ルミナス――――――――――ガーディアン・クラスタ!」
聖杖の柄を走る魔法文字一つ一つから、光によって形成される無数のバッタが生み出された!
そして、ホッパーの周囲に飛翔した光虫たちは群れ集うと巨大な盾を形作り、幽鬼将が放った怪しき光球を阻んだのである!
しかも、これはただ防いでいるだけではない……。
まるで、大量発生したバッタが作物を食い荒らすかのように……。
光球を形成する呪詛の一片たりとてこの世に残さぬよう、これを吸収し浄化しているのだ!
まさしく光の飛蝗と呼ぶにふさわしい、ルミナスの防御魔法である!
迎撃に放たれた魔法は光虫たちによって無力化され、もはやホッパーを阻むものは存在しない!
……いや。
「オレを忘れてもらっちゃ困るぜ! ホッパー!」
ギガントバスターの圧縮空気弾を連続して喰らったというのに、なんたる肉体の頑強さか……。
早くもダメージから立ち直った獣烈将が、背後から勇者へ襲いかからんと追いすがる!
これは、ルスカとラトラがホッパーを挟み撃ちにする形だ!
挟み……あるいは囲い込む……。
これなるは古今東西に共通する戦いの必勝形であり、この戦形を作れたならば個々の相対的な戦力は数倍にも跳ね上がる。
いかなルミナスホッパーとて、対応することは不可能だ!
だが、忘れてはならない……。
勇者の周りには、常にその戦いを支える者たちが存在することを!
「――うおっ!?」
突如として上空から降り注いだ火球に! そして無数の矢に!
さしもの獣烈将がたたらを踏む!
『主殿! 今度こそ支援するぞ!』
「皆の者! とにかく獣烈将の足を止めるのだ!」
ドラグローダーが……。
そして騎士団長ヒルダ率いる竜騎士隊が……。
上空から援護攻撃を加えているのだ!
「ちい!
――しゃらくせえ!」
足を止めた獣烈将が剣を振るって火球を切り払い、さらにこれを風車のように回転させ矢群を吹き飛ばす!
ただの矢ではない……。
竜の素材を用いた複合弓から放たれし剛のそれであり、貫通力は地球のライフル弾にも匹敵する。
これを枝きれのように吹き飛ばすとは、おののくべきラトラの膂力であるが……足を止めるという目論見は果たされた!
「うおおおおおっ!」
「くっ……!?
――阻めぬか!?」
この機を逃さず突撃するホッパーに、ルスカががむしゃらに繰り出した呪詛光球が襲いかかる!
が、これらはホッパーの周囲を飛翔する光のバッタたちにたちまち食い荒らされ、その効力を発揮するどころか足を止めることすらあたわなかった。
「――とおっ!」
「――ぬううっ!?」
跳躍して最後の距離を詰めたホッパーが、槍術めいた突きでルミナスロッドを繰り出す!
これを阻んだのは――影だ!
幽鬼将の足元から出現した影の触手が、ロッドによる打突を逸らしこれを絡め取らんとうごめいたのである!
「――はあっ!」
ホッパーが光の魔力を高め、ロッドの魔法文字をますます激しく輝かせた!
するとこれが影の触手を侵食し、打ち払ったのである!
「――くっ!」
ルスカが両手を素早く動作させ、次から次へと触手を生み出していく……。
しかし……、
「――無駄だ!」
まるで、流れる水のような……。
流麗な動きでロッドが振るわれ、その石突きで! あるいは柄で! 生み出された触手のことごとくをなぎ払っていく!
しかも、ホッパーの周囲で飛翔する光虫たちがこれに加勢し、触手へ食らいついていくのである!
「――はあっ!」
「――ぐうおっ!?」
そしてついに、ルミナスホッパー渾身の打突が幽鬼将のみぞおち目がけ放たれた!
瞬時に呪詛光球を生み出し、これを盾のように扱うことで直撃を避けたのはルスカもさるものと言えるだろう……。
だが、衝撃の全てを殺し切ることはかなわず、邪悪なる不死生物は大きく突き飛ばされることになったのである!
「――ルスカ!」
この状況に、獣烈将が吠えた!
そして、迫りくる火球や矢の迎撃を止め、それらを一身にその身へ受けながら猛烈な勢いでホッパー目がけ突撃したのだ!
魔界一の屈強さを誇るラトラとはいえ、無防備にこの攻撃を受け続ければ痛痒を感じぬはずがない。
それを押して駆けられるのは、いかな生物にも共通する友情の発露であった。
「――ブラック!」
そして、目では見ずとも、これを察知し損ねるホッパーではない。
フォームチェンジを解除し、通常形態へ戻ったブラックホッパーが振り向かぬまま腰をわずかに落とす。
「――でいやっ!」
そのまま身を捻って背後から迫る凶刃を回避し、カウンターの後ろ回し蹴りへと繋いだのである!
ホッパーの脚力のみではない……。
ラトラ自身の勢いを上乗せし、下アゴへ叩き込まれた一撃なのだ。
「――がはあっ!」
いかな獣烈将と言えどこれにはたまらず、剣を手放しながら大きく吹き飛ばされることになったのである。
――優勢!
……二人の魔人将を相手取っての戦いは、勇者側の優勢だ!
本作と関連する内容ではありませんが、思い付きで短編を書いたのでよかったら読んでみてください。
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