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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第十話『陽蝗(ようこう)の勇者!』
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Bパート 4

 この男……。


 ――モノが違う!


 ……それが、初めて生の目で勇者を見たラトラとルスカ共通の感想であった。


 その両目は、相対する二人の魔人将をただ睨みつけているだけではない……。

 獣烈将の筋繊維一本一本から、幽鬼将を不死生物(アンデット)たらしめている邪悪な力のわずかな揺らぎに至るまで……。

 全てを見透かし抜いているのだ!


 そして、武人というものは足運びを見ればおのずと力量を知れるものであるが、こやつのそれときたら……。

 勇者の指示に従い退避する騎士たちを、瞬時にかばえるように……。

 あるいは、こちらがスキを見せたならばたちまち間合いを詰められるように……。

 柔と剛とが絶妙な配分で足底に課されているのだ。


 二本の足で地を踏みしめる……。

 霊長類としてはあまりに基本的な動作であるが、それがゆえに、こやつが生物として他の人間を隔絶した次元に達していることがうかがえた。


 なるほど、敬愛する主がかつての姿を捨て、戦闘形態を模倣したのもうなずける……。

 こやつの爪牙(そうが)は、魔人王の喉元へ届き得る鋭さなのだ。


 騎士たちが無事に大神殿へ撤退するのを背で感じた勇者が、こちらを見やりながらその口を開く。


「獣烈将ラトラ……。

 幽鬼将ルスカ……。

 こうして、実際にまみえるのは初めてだな?」


「ああ……。

 てめえとやり合いたくてうずうずしていたぜ!」


「……イズミ・ショウといったな?

 まずは堂々と挑戦に応じたこと、褒めてやろう……」


 ラトラが、魔界随一の力自慢らしく胸を反らし……。

 ルスカは、普段から猫背気味の背をさらに折り曲げ屈みこむ……。

 対照的な姿勢から、両将軍は勇者の言葉に応じた。


「堂々としていると言えば、それは貴様らも同じだ。

 おれが到着するまでの間、人々を手にかけることなど造作もなかっただろう……。

 あえてそれをせず、待ち受けていたのはさすがザギと並び立つ魔界の将軍たちよ」


「――ハッ! 礼でも言おうってのか?

 だったらそれには及ばねえよ……。

 今日、ここにオレたちが来たのはあの人のかたき討ちでもあるからな。

 大将軍の名に泥を塗るようなマネはしねえさ」


「それに、手順が逆になるだけのこと……。

 今日、この地にて貴様を血祭りにあげた(のち)……。

 全ての人間は、我ら魔人族の支配下に置かれるのだからな……」


「そうか……」


 両将軍の言葉を聞き、勇者が静かに両目を閉じる。

 戦闘時においては、一瞬のまばたきですら時に命取りとなるものだ。

 それをあえて勇者がしたのは、この距離ならば視界が塞がっても十分に対処可能だからであり、これから始まる壮絶な戦いに向けて極限まで戦意を高めるためであるに違いない。


 事実、次の瞬間にくわと見開かれた目に宿る迫力は、二人の魔人将ですら背筋を震えさせてしまうほどだったのである。


「――ならば、戦うのみ!」


 両足を広げた勇者が、およそいかなる武術流派にも存在しないだろう構えを取った。

 そこから繰り出される動きは奇妙にして流麗であり、身の内に存在する不可思議かつ圧倒的な力が見る見る内に充実し膨れ上がっていくのを感じられる……。


「変ンンンンン――――――――――身ッ!」


 そして勇者の体が、爆圧的な光に包まれた!


「――ヘッ!」


「……望むところよ」


 光が霧散した後、両将軍の前にたたずむのはもはや人間の青年ではない。


 その前身は昆虫じみた漆黒の甲殻に覆われており……。

 関節部からは剥き出しの筋繊維がミリミリと音を立てている……。

 何よりも特徴的なのは――頭部だ。

 まるで、人間の顔とバッタのそれをデタラメに貼り合わせたかのような……。

 見ようによっては頭蓋骨のようにも思えるそれは、さながら地獄の底から現出し、魔界の将を討ち果たさんと真っ赤な目を輝かせる死神のごときであった……。

 風に揺れる真紅のマフラーこそは、この者の象徴!


「おれは勇者――ブラックホッパー!」


 ――ウオオオオオオオオオオッ!


 王都中から……。

 直近では広場をのぞむ大神殿から……。

 人間共の湧き立つ声が響き渡った。




--




「行くぞ! ローダー!」


『おう!』


 ブラックホッパーがラトラに向かって跳びかかり……。

 ドラゴンモードの竜翔機(りゅうしょうき)がそれを支援するべく(あぎと)を開く……。


「ルスカ! 後ろは頼んだぜ!」


「……存分にやるがいい!」


 対する魔人将たちは、獣烈将がホッパーを抑えるべく前進し幽鬼将がそれを支援する構えだ。

 図らずとも、互いに前衛と後衛が分かれた形である。


「――むん!」


「――ふんっ!」


 前衛たる勇者と獣烈将の対決は、無手での格闘戦だ!

 跳びかかりざまに放たれたホッパーの鉄拳を、ラトラが右腕で防ぐ!

 しかし、単純なテレフォンパンチが防がれることなど百も承知!


「――おおおっ!」


 上段から中段へ……。

 中段から下段へ……。

 バッタの脚力を活かした踏み込みで防御の内側へ踏み込んだホッパーが、ラトラの正中線を抜くように連続拳を打ち放つ!

 急所という急所を的確に射抜く連撃は、ホッパーが得意とする殺法であったが……。


「――ふんっ!」


「――何っ!?」


 獣烈将はこれに耐え抜いたばかりか、全身の筋肉を瞬時に膨張させインパクトの瞬間ホッパーをはじき返したのである。

 その肉体の、なんという強靭(きょうじん)さか!?

 間違いなく、こやつこそは魔界随一のパワーファイターであるに違いない!


「このオレこそ! 魔界一の力自慢……。

 ――獣烈将ラトラよ!」


「――ぬうっ!?」


 はじき返され後退する勇者のスキを見逃すラトラではない……。

 ホッパーのそれに勝るとも劣らない踏み込みで迫ると、両手を掲げ掴みかかってきたのである!

 これには、ホッパーも両手を差し出すことで応じるが……。


「そらそら、お前の力はそんなもんか!?」


「ぬ……うううううっ……!?」


 最強の改造人間であるブラックホッパーが、まるで子供扱いだ!

 互いに両手を掴みながらの押し相撲は、拮抗するどころか一方的に勇者が押され、その背を逆側へ折り曲げさせられている形なのである!


『主殿!』


 これを黙って見ているドラグローダーではない……。

 ホッパーへ覆いかぶさんんとするラトラの顔面めがけ、得意の火球を撃ち放ったが……。


「……させんよ」


 弾着の直前、火球と同等の大きさを持つ漆黒の霧が生じ、聖竜の炎を飲み込んでしまったのである。


 見やれば、後衛に立つ幽鬼将が右手で印を結んでいた。

 ローブ内に充満する漆黒の霧がますますその色を濃くし、紫電光(しでんこう)すらまたたかせているのを見れば、闇の魔力を全開にしていることは明らかだ!


『おのれ! 邪魔をしおって!』


「それはこちらの言葉よ……。

 ――ほれ!

 ――ほれ! ほれ! ほれ!

 ……ボーッとしていてはいかんぞ?」


 幽鬼将の周囲に、強大な呪詛を秘めた怪しき光球が大量に生み出されていく……。

 これは、かつてブロゴーンが死力を尽くしてルミナスホッパーに放った攻撃術!?

 魔界一の魔術師ともなれば、小技のごとき感覚でこれを行使することが可能なのか!?

 そして当然ながら、無数の光球はただ漂っているだけではない……。

 矢弾のごとき勢いで、ドラグローダーへ殺到したのである!


『う……おおおおおっ!?」


 両翼から光の粒子を放ち、竜翔機(りゅうしょうき)が上空へ逃れた!

 しかし、光球はそれを的確に追尾し、ドラグローダーをどこまでも追い立てるのだ!

 こうなっては、もはや主の支援どころではない!


「ぬうううううっ!?」


 孤立無援のまま、獣烈将に押し込まれていく勇者は絶体絶命であるか……?


 ――否!


 ……断じて、否である。


「――ギガント!」


 勇者の両目が、紫の輝きを帯びた。

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