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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第九話『彼女たちの戦い』
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Aパート 3

 一九七一年四月三日。

 戸浦埠頭五一号倉庫外部。


 望まず与えられた姿……ブラックホッパーに変身したおれは、殺された竹本教授のご息女であるミドリさんを背後にかばいながら、恐るべき悪の軍団と対峙していた。


「……」


 秘密結社コブラの戦闘員――マスクソルジャーたちが、無言のままに長杖(ちょうじょう)を構える。

 強化培養された肉体をタイツに包み、目元をマスクで隠したこいつらを率いるのはおれと同じ改造人間――テラースパイダーであった。


「ホッパー……今度こそ息の根を止めてやる!」


 全身の姿から、否が応でもおれと同じ技術を用いて改造されたと分かるスパイダーが、そう叫びながらおれを指差す。

 それが、戦闘開始の合図だ。


「お嬢さん、下がっていてください!」


 おれは背後のミドリさんに叫ぶと、彼女を巻き込まないようにマスクソルジャーたちへ向けて駆け出した!

 たちまち、ソルジャーたちがおれを包囲し、一斉に長杖(ちょうじょう)を突き出す!


「――とおっ!」


 おれは素早くしゃがむことでそれを回避し、


「――とおうわあっ!」


 ソルジャーたちが虚を突かれた一瞬の内に、大きく跳躍した!


 ――これが、本当におれの体なのか!?


 バッタの脚力を与えられた肉体は、信じられぬほどの力強さで空を跳び、間合いを確保することに成功する。


 しかし、敵もさるもの……。

 ソルジャーたちは猛然とおれに追いすがり、たちまちの内に再び包囲してしまった。

 のみならず、長杖(ちょうじょう)を構えたこやつらはおれの周囲を風車のように回り出し……見事な連携で幻惑してきたのだ!


 ――惑わされるわけにはゆかぬ!


 改造されたことにより研ぎ澄まされた五感が、ソルジャーたちの殺意を汲み取る。


 ――背後!?


 ――いや、正面だ!


 大胆にも正面から初手を仕掛けたソルジャーの動きを完全に見切り、逆に長杖(ちょうじょう)を奪い取ったおれはそれで周囲の敵兵を滅多打ちにしていく!


「――とおっ!」


 奪い返すべく両側から長杖(ちょうじょう)を掴んできた二人のソルジャーは、掴まれたまま全力の跳躍をすることで空中旅行に招待し、そのまま自由落下を味わわせた!


 なおも襲いかかるソルジャーらへ、拳を、膝蹴りを、次々に叩き込み、さらに一人を背負い投げで投げ飛ばすと倉庫の階段へ駆け出す!


 ――地の利を得た!


 無表情に追いすがるソルジャーたちだが、階段上では一列にならざるを得ず、数の優位をいかすことができぬ!


「――はあっ!」


 ソルジャーたちを次々に蹴り飛ばし、階下に残っていた一人の腕を捻り上げてその首を絞め落としにかかる。

 殺気を感じたのは、その時だ。


「――むうっ!?」


 絞め落とそうとしていたソルジャーを盾にし、物陰から放たれた毒針を防ぐ。

 おれが手を放すと、絶命し倒れたソルジャーはそのまま全身を泡と化して消え去った。

 先ほど竹本教授を殺害した、テラースパイダーの吐き出す毒針だ!


「ふうぬうううううっ!?」


 必殺を期した攻撃が空振りに終わり、焦るテラースパイダーへ向け一直線に駆け出す。


「――たあっ!」


 掴みかかるべく跳躍したスパイダーを、おれは土下座のようにしゃがみ込むことで回避した。


「――とうっ!」


 そのまま背後に転がるスパイダーを組み伏せつつ、その顔面に拳を見舞う!


「――とあっ!」


 さらに、おれの手から逃れ立ち上がったスパイダーに追撃の拳を打ち据えた!


「ぬうううううっ……!」


 間合いを取り、互いに睨み合う。

 敗色が濃厚であることを悟った敵が次に見せた行動は――逃走であった。


「――ぬん!」


 テラースパイダーは口からクモ糸を吐き出して倉庫の屋根に貼りつけ、さらに背中のマントを滑空翼のように操ると、糸を伝い見事なクライミングをしてみせたのだ。

 たちまちの内に屋根へ登り去るスパイダーだが――逃がすわけにはいかぬ!


「――とおっ!」


 おれは改造されて得た脚力を最大限に発揮し、スパイダーの眼前へ先回りするように着地した。


「――たあっ!」


 なんとか逃れようと右へ左へフェイントをかける動きには惑わされず、そのあごへ蹴りをくれると背後のマントを掴み、一気に引きちぎった!


「――だあっ!」


 次いで放たれたバックドロップは着地されたが、体勢を崩したスキに拳と蹴りを叩き込む!


「――ちぇいあっ!」


 ひるむスパイダーに掴みかかって跳躍すると、そのまま無造作に投げ捨てた!


「うう……!?」


「とお――――――――――うっ!」


 うめくスパイダーに向け、最大跳躍からのドロップキックを見舞う!


「う……うう……あ……うう……」


 これが致命傷となったのだろう……。

 力尽き横たわるスパイダーの全身が、泡となって溶け去った。

 おそらくは、自らの毒が全身を回ったに違いない。


 ――もしも。


 ――もしもおれが、竹本教授に助け出されずそのまま脳改造を受けていたならば……。


 おれもこいつのように、悪の尖兵(せんぺい)となっていたのだろうか……?


 初めての戦い……。

 初めての勝利……。


 しかし、この胸に高揚感は去来せず、代わりになんとも言えぬ虚しさと哀しさとが満ち溢れていたのをよく覚えている。


 これは、夢だ……。

 過去の、過ぎ去りし戦いを幻影として見ているのだ。

 眠りながら、そうと自覚できる。


 そしておれの意識は、再び闇へ落ちていった……。




--




「ショウ様、うなされてらっしゃる……」


「のう、ティーナよ? 本当に主殿は大丈夫なのか?」


 運び込まれた寝台の上へ寝かされ……。

 うなされ吹き出た寝汗を巫女姫にぬぐわれる勇者を見ながら、その従者たるレッカは心配そうにそう尋ねた。


「ショウ様が負った傷は全てわたしが治しましたし、体の方は問題ありません……。

 医師たちの見立てでも、極度の疲労で眠っているのだろうとのことです」


「ふうむ……」


 レッカが、眠り続ける主の額に手を当てる。

 戦場で倒れた直後に比べれば、ずいぶんとマシになっていると感じられたが……。

 それでも勇者を巡る血流はかなりの高温を維持しており、いますぐ起き上がることはないだろうと思えた。


「大将軍ザギ……あやつは恐るべき敵で、ワシはその撃破に何も寄与できなんだ……」


 眠る主の夢に届くことを願いながら、独白のようにそうつむぐ。


「主殿……今はゆっくり休んでおってくれ。

 もしも、寝ている間に何か変事があったならば、きっとワシが解決してみせるからのう……」


「ワシたちが、ですよ?」


 レッカの髪をすくうように撫でながら、ティーナがそう付け足す。


「そうじゃったな。

 ワシたちが、必ずなんとかしてみせる」


 ティーナと微笑み合いながら、レッカは眠る主にそう告げるのであった。

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