Bパート 6
「はあああああっ…………………………!」
ザギが深く息を吐き出すと、全身を血流めいて走る二筋の光に変化が現れた。
――黄から銀へ。
光の奔流が放つ色は、徐々に徐々に変化を遂げていったのである。
それ以外、これといった身体上の変化は存在しないが……。
魔人としてのザギを象徴するそれの変貌は、これまで見せていた戦いぶりが小手調べの類でしかなかったことを直感させた。
「待たせたな……」
黄光剣魔というよりは銀光剣魔と呼ぶべき姿に変わったザギが、そう告げる。
「それが貴様の本気か……!」
『ふん、黄色く光ったり銀色に光ったり、いちいちハデなやつじゃのう!』
車上で油断なく身構えるホッパーとローダーが、口々にそう言い放つ。
「我が真の姿……晒すのは、果たしていつ以来になるか……」
こきり、と……。
首元をほぐしながら、ザギが主従をねめつける。
「せいぜい、気を張ることだ。
さもなくば……一瞬で終わってしまうぞ!」
「!? ――ギガント!」
ザギが言い終えたのと、ホッパーが鋼鉄の重騎士へとフォームチェンジしたのとは同時のことだ。
そして――一体何があったのか?
「――ぐうあっ!?」
『――ぬあああああっ!?』
次の瞬間、勇者とその主従は全身から火花を散らしながら街道に倒れていたのである!
見れば、つい今しがたまで立っていたその場所に――ザギの姿はない!
剣魔が立っているのは、勇者たちが身構えていたその背後だ!
「ふうううううっ……!」
呼気を整えながら、ザギが残心する。
果たして、まばたきする暇すらないこの一瞬に何があったのか!?
その答えは――超高速での攻撃だ!
ザギはそれまで見せていた動きの数十倍……いや、数百倍にも達するであろう速度で主従に接近すると、手にした魔剣で無数の斬撃を浴びせたのである!
「ぬ……う……っ!」
『一体、何が……!?』
ギガントホッパーが身を起こし、自力で動けぬローダーが疑念の言葉を口にした。
「ふ……あの一瞬で、防御に適した姿へ変わったか。
さすがは勇者、と言っておこう」
――余裕綽々。
この四文字にふさわしい態度でそれを見やりながら、大将軍が賞賛の言葉を放つ。
「我が動き……見て取れたわけでもあるまいが、それでも反応し致命傷を避けてみせる……。
――見事!
――実に見事だ!
だが、果たしてそれがいつまで続けられるかな……?」
「くっ……!?
――ギガントバスター!」
ホッパーが、砲撃形態へと変形した聖斧をその手に出現させ構える。
しかし、その砲口が向いた先に――ザギの姿は存在しない!
「――!?」
ギガントバスターを握ったまま、ホッパーは両手を交差させ防御の構えを取った。
「くう――ううおおおっ!?」
防御体勢となったホッパーが、宙に跳ね飛ぶ!
紫色の追加装甲から火花を散らし倒れるホッパーの背後に、虚空からにじみ出るように残心姿勢のザギが姿を現した。
「さて……久しぶりにこの姿となって、私も少し自分の早さに振り回されたが……」
ぶらりと魔剣を下げ、空いた手で首元をほぐしながら剣魔が立ち上がるホッパーを見据える。
「体も温まってきた。
ここからは少し――速度を上げるぞ!」
「――くっ!?」
もはや、こうなっては反撃に転じるどころではない……。
変換能力により一度バスターを消したホッパーはがしりと両腕を組み合わせ、ボクシングでいうところのブロッキング姿勢を取った!
全身を分厚い追加装甲で覆われたギガントホッパーがそうすると、それはもはや人の形をした要塞である。
「――ぐあっ!?」
その要塞が――跳ね飛んだ!
宙空に跳ね飛ばされ……。
その背後から一撃をもらい地に叩きつけられる……。
かと思いきや、またも宙空に跳ね飛び……。
今度は横合いからの一撃で吹き飛ばされる……。
「――ぐうおおおっ!?」
これはまるで――蹴鞠だ!
ホッパーは鞠がごとく、上下左右あらゆる方向へと跳ね飛ばされ続けているのだ!
恐るべきは、この攻撃を加えているザギの姿が一切見えぬことである。
これこそまさに――神速!
真の力を発揮したザギの攻撃はもはや、何もなき虚空から放たれているかのようであった。
「ぐう……ああっ……!?」
全身から火花を散らし、鋼鉄の重騎士がまたも倒れる。
「――ふん」
そして同じく、残心姿勢のザギが宙空からにじみ出るように姿を現した。
「今ので仕留めるつもりだったのだがな……。
面白い……実に面白いぞ……!
防ぎ切ることもさけることもあたわずとも、致命の一撃だけは避け切ってみせるか!? ホッパー!」
ザギの賞賛は余裕からくるものであったが、同時に真実の言葉でもある。
仲間たちと共にショウがおこなった特訓……。
あれは、無駄ではなかった。
目で追えずとも、感じることはできる……。
ホッパーは攻撃を受ける瞬間、それを身にまとった装甲の分厚い部分で受け続けていたのである!
かつて、装魔砲亀バクラの砲撃すら受け切ったギガントだからこそ可能な芸当であると言えよう。
もしも他の形態であったならば、圧倒的な切れ味を誇る大将軍の魔剣によりすでに致命傷を負っていたはずだ。
『おのれ……調子に乗るでないわ!』
ドラゴンモードへ変形した竜翔機が、必殺の火球を口腔から撃ち放つ!
「――ふん」
だが、鼻息を鳴らしたザギの姿は瞬く間に消え失せ……。
『――ぐわあああああっ!?』
次の瞬間には、全身から火花を散らし倒れるドラグローダーの背後へ残心姿勢で立っていた。
――強い!
――あまりにも、強い!
勇者とその従者は、真の力を見せた剣魔の前になすすべもなかったのである。