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バッタの改造人間が勇者召喚された場合  作者: 真黒三太
第八話『大将軍ザギの挑戦』
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Bパート 4

 それから二日後……。

 タチアナ街道を舞台に、二つの軍勢が向かい合った。


 攻めるは、大将軍ザギが率いる魔人軍!

 軍を構成するのは、かつて青銅魔人ブロゴーンが合戦を挑んだ時と同様、キルゴブリンたちである。

 しかし、この陣容を見て同じキルゴブリンによる軍勢だと誰が思えるだろうか……。


 まず、最大の違いはこやつらが手にする武具である。

 キルゴブリンと言えば、その手にしているのは鍛造のたの字もなき粗雑な得物であると、これまで相場が決まっていた。

 だが、布陣しているこやつらが手にしている武具はと言えば、これは……。

 いずれもが、人界のそれと比べてもそん色ない出来の代物であるのだ。


 先頭を形成しているのは、長槍(パイク)を手にした部隊である。

 この一事をもってしても、かつてのブロゴーン率いる軍との戦いとは、大きく戦況が変わるであろうと想像できた。


 かつて……ブロゴーンが率いるキルゴブリンたちは、王国騎士による騎馬突撃でひと息に蹂躙(じゅうりん)された。

 しかし、此度(こたび)はそのようにいくまい。

 なんとなれば、騎馬兵にとって長槍(パイク)というのは天敵であり、これに対して無策で突撃を敢行すればただイタズラに兵力を消耗することになるのである。


 後衛を構成するキルゴブリンらも、手に手に長弓を構えており、またある者は大盾を構えていた。

 戦場において最も恐ろしいもの……それは降り落ちる矢を除いて他になく、それを備え、あるいは対抗する手段を手にしたこの軍勢は、王国軍に比べても見劣りするものではない。


 何よりも恐ろしいのが、先陣のさらに先……軍の先頭に立ち、これを指揮する大将軍ザギの存在だ。

 果たして、どこで手に入れたものか……。

 いかにも立派な馬体をした黒毛の馬に騎乗し、威風堂々と王国軍を見据えるその姿は、敵ながらあまりに勇壮であり、将としての風格に満ち満ちている。


 本能のまま襲いかかることしかできぬはずのキルゴブリンたちが、各々兵種としての役割を持って陣を形成できているのは、間違いなくこの男の統率力とカリスマによるものであろう。


 ――敵ながら見事!


 口にはせずとも、誰もが同じ思いを抱きながら王国軍も展開していく……。

 先陣を切るのは、やはり騎乗した正騎士たちであり、後詰めとして長弓を備えた徒歩(かち)の騎士や見習いたちが布陣する。


 さらにその後方では巫女姫率いる神官団が展開し、上空には魔人軍に対して最大のアドバンテージである竜騎士らが滞空していた。


 そして、先頭で姿を晒す大将軍の心意気へ答えるかのように自らも先頭に立つのは、勇者イズミ・ショウと、彼がまたがりし竜翔機(りゅうしょうき)ドラグローダー……そのバイクモードである。


 ――勇者と大将軍。


 ――王国軍と魔人軍。


 決して相容れぬことのなき両者が、睨み合った。

 張り詰めた緊張と共に、しばしそうしていた両軍であったが……。


 やがて、ドラグローダーが……そしてザギを乗せた馬がゆるりと歩み出し……。

 それに追従した両軍が進軍を開始することで、戦端が開かれた。




--




 ショウとザギが、示し合わせたかのごとく真っ先に激突しようとしているのには、二つの理由があった。


 理由の一つ目は、勇者を止められるのは大将軍だけであり、大将軍を止められるのもまた勇者のみだからである。

 一騎当千とはよく言ったものであるが……。

 騎士やキルゴブリンがどれだけ束になろうと、彼らにしてみれば路傍(ろぼう)の石も同然の存在でしかないのだ。


 ――むやみにもったいぶり、兵力を消耗させる必要はない。


 両者が同じ結論に達するのは、しごく当然のことであったろう。


 理由の二つ目は、彼らの勝敗がそのままこの(いくさ)における勝敗へとつながるからである。

 両軍の規模はほぼ互角!

 その質もおそらく――ほぼ互角!

 開けた街道が舞台であり、地形的な有利不利も存在せぬ。

 こうなってしまえば、兵たちの抱く士気こそが重要となる。


 勇者と大将軍……両軍における旗頭たる両者のうち、いずれかが倒れれば、どうなるか……?

 それを失った側はたちまち瓦解し、堰を切ったように押し切られるに違いない。


 ――ショウが!


 ――そしてザギが!


 所属する陣営の命運を背負い、決着を付けるべく騎乗した相棒の速度を徐々に上げていく。

 そしてショウは、走行するドラグローダーにまたがりながらも見事に直立し、力を解放するための構えを取った。


「変ンンン――――――――――身ッ!」


 その身が爆圧的な光に包まれ、今代の勇者――ブラックホッパーが戦場に姿を現す。


 全身は昆虫じみた漆黒の甲殻に覆われており……。

 関節部では剥き出しとなった筋繊維がミリミリと音を立てていた……。

 頭部はバッタのそれと人間の物をデタラメにつぎはぎしたかのようであり……。

 見ようによっては頭蓋骨のように思えるそれを備えた異形の戦士が、真紅のマフラーをなびかせながら、これも異形の二輪を備えし鋼鉄竜にまたがり戦場を突き進む……。

 その姿は、さながら地獄の底から好敵手の首を求めて馳せ参じた死神のようであった……。


「――はあっ!」


 対するザギも腰の魔剣を抜き放ち、片手で手綱を握りながら本来の力を開放していく……。

 胸部に生まれ出た核を中心とし、その全身を血流じみた黄色(おうしょく)の光が駆け巡ると、次の瞬間には魔界最強の戦士――黄光剣魔(おうこうけんま)ザギが馬上に座していたのである。


「ローダー――――――――――」


『――――――――――バーニング・ストーム!』


 勇者と竜翔機(りゅうしょうき)……両者が一体となって放たれる必殺技が、ザギとその騎乗する馬に襲いかかった!


「――はあっ!」


 これに対し――ザギは馬上で跳躍すると、身一つで大地に降り立った。

 そして、敵の動きを封じるべくドラグローダーが放った無数の火球を、次々に魔剣で切り払ったのである!


「――ぬうん!」


 ウィリー走行で迫ったホッパーが、浮かせていた前輪をギロチンのごとくザギ目がけて打ち下ろす!


「――はあっ!」


 これをザギは、魔剣の腹で受け止めた!


 ――車輪と魔剣。


 恐るべき破壊力を備えた両者の(つば)迫り合いが、ばちばちと火花を散らし……。


「――いやっ!」


 ザギが渾身の力でこれを跳ね返すと、ホッパーは横滑りにローダーを停車させた。


 睨み合う両者の周囲で……。


 ――騎乗した騎士が!


 ――長槍(パイク)を構えたキルゴブリンが!


 次々と激突していったのである……。

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