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栞と会った翌日。佐藤亨一と会うことになった。どうやら彼も新宿にいるらしい。
「三坂さんはまだ来てへんのか?」
「みたいやね。逢子ちゃん宿泊費ないから当日来るんやて」
今回、『レイズ』で上京するのは三坂逢子、羽島繁樹、佐藤亨一の3人だ。舞洲ヒロは家の事情で来られないらしい。
「なんや……。舞洲さん来んのか」
「そうみたいやね。まぁ、来ても逢子ちゃん以外やることもないから問題ないんやろうけどな」
充は舞洲さんに会いたいらしい。彼にとってはライバルであり、目標なのだろう。
逢子伝手で聞いた話だと舞洲さんと亨一は付き合っているらしい。私も言われるまで気が付かなかったけれど、言われてみればそんな風にも見えた。2人とも良い意味で変わり者だし、お似合いだと思う。
「亨一くんだけなんで前乗りしたんやろな?」
「ああ、それはウチからお願いしといたんやで。オーディション前に1回セッションしたかったからな」
「お前……。さすがにそれはまずないか? 亨一くん『レイズ』のメンバーやのに」
「んー……。たしかにな。でも亨一はOKしてくれたで?」
健次の言うとおり『レイズ』側からしたらあまり快くは思わないだろう。羽島くんと舞洲さんは置いておいて、逢子は怪訝な顔をするかもしれない。
それでも私は彼にお願いしたかった。オーディション前にコンディション整えておきたかったし。それに……。邪な考えもあった。
私はどうにかして佐藤亨一を引き抜きたかった。私のバンドのベースは彼以外あり得ないと思ったし、それ以外ならやらない方がマシだとさえ思った。このことに関しては健次は何となく察しているようだ。充は知らないと思うけれど。
私たちは新宿駅前のデニーズで待ち合わせした。安定と実績のファミリーレストラン。
「やぁ」
亨一は先に来ていた。横にはベースケースと大きなリュックが置かれている。
「お疲れ、悪いな来てもろうて」
「大丈夫だよ。俺も前乗りするつもりだったしね」
亨一の前にはフレンチトーストと紅茶が置かれていた。いつも思うけれど亨一は小食なのだ。
それから私たちはファミレスで簡単な打ち合わせをした。自然と逢子の話になる。
「にしても逢子ちゃん頑張っとるね。今年に入ってから毎週何かしらイベントしとるんちゃう?」
「うん。『レイズ』外での活動含めたらかなりやってると思う。ほら、あの子ってなにがなんでもプロになりたいみたいだからさ。オーディションだけでも10件近く受けてるんじゃないかな?」
私が言えた義理ではないけれど逢子は承認欲求が強かった。とにかく誰かに認められたいようで、節操なくイベントに参加しているようだ。おそらく逢子がいなければ『レイズ』はここまで精力的に活動はしていないはずだ。
「ほんま尊敬するで。ウチなんか全くイベントしとらんよ? 逢子ちゃんから誘われんかったら今回も来てないと思う」
「まぁそれは人によってペースがあるからね……。繁樹はともかく俺とヒロはいつも振り回されてるよ」
「そうやろね。舞洲さん元気しとるか?」
「うん。まぁ平常運転かな」
私が亨一と舞洲さんの関係を知っていることを亨一は知っていた。それでも彼はそのことに触れようとはしなかった。慎ましい話だ。
「亨一くん今日はほんまに良かったんか? 三坂さんにしても舞洲さんにしても気にするやろ?」
健次は恐る恐る亨一に尋ねた。健次の中で羽島くんのことは問題ないらしい。
「……。隠しても仕方ないから言うけど、逢子にはかなり文句言われたかな。まぁ気にしないでいいよ。いつものことだし」
いつものこと。その言葉が妙に引っ掛かった。亨一の中では逢子はいつも私を敵対視しているのだろうか?
「なぁ、亨一……。もしあんたが嫌やったらウチら手伝い断ってもええんやで? さすがに他人様のバンドに迷惑掛けてまでしたくはないしな」
「いや。大丈夫だよ。迷惑じゃないし、むしろ俺は鴨川さんたちと一緒に演奏するの楽しいからさ」
複雑な心境だ。楽しいなら私のバンドのベースになれば良いのに……。そんなモラルを無視した言葉が口から出そうになる。
実際、私は半分冗談で亨一を何回か引き抜こうとした。彼は「俺のバンドは『レイズ』だから」の一点張りで取り付く島もなかったけれど……。
ファミレスでのミーティングを終えると、私たちは新宿の音楽スタジオを借りて何曲か練習した。そして改めて思う。やはり私たちのバンドには亨一が必要だと。
それはまるでパズルのピースのように。生き別れの兄弟のように思えた。
私は昨日思ったことと真逆のことを思っていた。久しぶりに神様を恨んでいた。
なぜ神様は逢子より先に私に亨一を与えなかったのだろう……。
幸か不幸か、私の恨みが神様に届いたのは翌日のことだった――。




