↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルテミスデザイア  作者: 海獺屋ぼの
PR
32/63

3-2

 数日後の放課後。

 私は音楽室へ向かう前に校舎の1階にある多目的室に向かった。

 多目的室。臨時文芸部の部室。

「栞おる?」

「あ、うん。いらっしゃい! 珍しいね。ここに来るなんて」

 多目的室の引き戸を開けると中で栞と数名の生徒が作業していた。

 彼らは一様に作文用紙に向かい合っていた。シャーペンのカツカツとした音だけが響いている。

「いやな……。久しぶりに栞の顔見たくなってな……。文芸賞順調か?」

「うん。今んとこ半分くらい書けたよ。あとは最後まで一気に書いて、それから校正・校閲って感じ」

「そうか……。大変やね」

 健次の言うとおり栞は少し元気がないようだ。

 別に彼女の口調が暗いとか、愛想が悪いわけではない。

 うまく言葉には出来ないが、所作が普段の彼女とは違うように感じる。

「あんま無理せんといてな……。せや、今年は堀川どうする? ケンちゃんは合宿でいかれへんらしいけど」

「ああ、そんな時期だったね……。月子ちゃんは行くの?」

「せやな……。なぁ栞が良かったら今年も一緒に行かへん? ウチら毎年、短冊に願い書いとるやん?」

 堀川の七夕。私たちの年中行事だ。

 私たちは小学5年のときから毎年七夕祭りに参加していた。儀式的に。儀礼的に。

 短冊に書く願いは毎回同じだったけれどそれが良かった。

 年イチで互いの夢を確認する日。神様への中間報告。そんな感じだ。

「そだね……。うん! 大丈夫だよ! じゃあ7日の夕方一緒に行こ!」

「ありがとな。したら準備しとくわ」

 それだけ話すと私は多目的室を後にした――。

 期末テストの返却も終わり、そろそろと夏休みの足音が聞こえる。

 あと3週間もすれば通知表が配られるだろう。

 私の各科目の成績は悪くないと思う。体育と美術を除ければだけれど。

 ただ、通信欄に書かれる内容は酷かった。

 どの担任も同じようなことを毎回書くのだ。示し合わせたように。差別的に。

『勉強は頑張っています。もう少しだけ協調性があるといいですね』

 毎回そう書かれていた。

 幸い、父も母もそれに関しては何も言わなかった。

 父は理解があるし、母は評定にしか興味がないから。

 父と祖父母は素直に評定平均4.7の通知表を喜んでくれた。

 母に関してだけはそれを自慢の材料に使っていたけれど……。

 中学2年になってから私は母をますます嫌いになった。

 母は私を都合の良いときだけ褒め、そうでなければ屁理屈で蔑んだ。

 彼女は評定平均4.7の愚女として私を近所に吹聴していた。

『女の子なのに勉強しかできんのよ』

 母がその言葉吐くのをいったい何回聞いただろうか?

 本当にウンザリする。

 きっと母にとって私は道具なのだろうと思う。マウンティングするための道具……。

 こんな女には絶対なりたくない。私はいつもそう思った。

 こんな女だけには――。


 七月七日。栞との約束の日。

 その日、私は部活を早退して家に帰った。堀川は遠いし、少しでも早く着替えだけはしておきたい。

 私は久しぶりに浴衣に袖を通した。紺色で七宝柄のシンプルなデザインの浴衣。

 私が浴衣姿で一階に降りると祖母に声を掛けられた。

「月子大人っぽくなったなぁ」

「そう? まぁもう14やしな……」

 祖母は私の姿を上から下まで舐めるように見た。

「そうやったね。もう少し髪長かったらかんざしを挿せるのにな……」

「ウチはショートヘアが好きやねん。じゃあ行ってくるで!」

 私は祖母に見送られながら家を後にした。栞を迎えに行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。