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数日後の放課後。
私は音楽室へ向かう前に校舎の1階にある多目的室に向かった。
多目的室。臨時文芸部の部室。
「栞おる?」
「あ、うん。いらっしゃい! 珍しいね。ここに来るなんて」
多目的室の引き戸を開けると中で栞と数名の生徒が作業していた。
彼らは一様に作文用紙に向かい合っていた。シャーペンのカツカツとした音だけが響いている。
「いやな……。久しぶりに栞の顔見たくなってな……。文芸賞順調か?」
「うん。今んとこ半分くらい書けたよ。あとは最後まで一気に書いて、それから校正・校閲って感じ」
「そうか……。大変やね」
健次の言うとおり栞は少し元気がないようだ。
別に彼女の口調が暗いとか、愛想が悪いわけではない。
うまく言葉には出来ないが、所作が普段の彼女とは違うように感じる。
「あんま無理せんといてな……。せや、今年は堀川どうする? ケンちゃんは合宿でいかれへんらしいけど」
「ああ、そんな時期だったね……。月子ちゃんは行くの?」
「せやな……。なぁ栞が良かったら今年も一緒に行かへん? ウチら毎年、短冊に願い書いとるやん?」
堀川の七夕。私たちの年中行事だ。
私たちは小学5年のときから毎年七夕祭りに参加していた。儀式的に。儀礼的に。
短冊に書く願いは毎回同じだったけれどそれが良かった。
年イチで互いの夢を確認する日。神様への中間報告。そんな感じだ。
「そだね……。うん! 大丈夫だよ! じゃあ7日の夕方一緒に行こ!」
「ありがとな。したら準備しとくわ」
それだけ話すと私は多目的室を後にした――。
期末テストの返却も終わり、そろそろと夏休みの足音が聞こえる。
あと3週間もすれば通知表が配られるだろう。
私の各科目の成績は悪くないと思う。体育と美術を除ければだけれど。
ただ、通信欄に書かれる内容は酷かった。
どの担任も同じようなことを毎回書くのだ。示し合わせたように。差別的に。
『勉強は頑張っています。もう少しだけ協調性があるといいですね』
毎回そう書かれていた。
幸い、父も母もそれに関しては何も言わなかった。
父は理解があるし、母は評定にしか興味がないから。
父と祖父母は素直に評定平均4.7の通知表を喜んでくれた。
母に関してだけはそれを自慢の材料に使っていたけれど……。
中学2年になってから私は母をますます嫌いになった。
母は私を都合の良いときだけ褒め、そうでなければ屁理屈で蔑んだ。
彼女は評定平均4.7の愚女として私を近所に吹聴していた。
『女の子なのに勉強しかできんのよ』
母がその言葉吐くのをいったい何回聞いただろうか?
本当にウンザリする。
きっと母にとって私は道具なのだろうと思う。マウンティングするための道具……。
こんな女には絶対なりたくない。私はいつもそう思った。
こんな女だけには――。
七月七日。栞との約束の日。
その日、私は部活を早退して家に帰った。堀川は遠いし、少しでも早く着替えだけはしておきたい。
私は久しぶりに浴衣に袖を通した。紺色で七宝柄のシンプルなデザインの浴衣。
私が浴衣姿で一階に降りると祖母に声を掛けられた。
「月子大人っぽくなったなぁ」
「そう? まぁもう14やしな……」
祖母は私の姿を上から下まで舐めるように見た。
「そうやったね。もう少し髪長かったらかんざしを挿せるのにな……」
「ウチはショートヘアが好きやねん。じゃあ行ってくるで!」
私は祖母に見送られながら家を後にした。栞を迎えに行こう。




