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『レイズ』は兵庫県在住のロックバンドだ。
メンバーはヴォーカルの三坂逢子、ギターの羽島繁樹、ドラムの舞洲ヒロ。
そしてベースの佐藤亨一のフォーピースバンドだ。
彼らは神戸市内の中学校の生徒たちが集まって始めたアマチュアバンドだった。
ヴォーカルの三坂逢子がこのバンドの発足者で、彼女が佐藤亨一を誘って中学1年生の夏休みに結成。
その後、ギターとドラムを募集し彼らは活動を開始したのだ。
彼らとの出会いは私にとって大きな転機になった。
おそらく、健次にとっても――。
「なぁ月子? この前の佐藤ゆう男の連絡先知っとるか?」
通学中、私は健次にそう尋ねられた。
「知っとるよ? 佐藤君になんか用?」
「いやな……。俺ギターやっとるやん? 佐藤君楽器詳しそうやから教わりたくてなー」
「へー……。ほんまにギター練習しとるんやね。したら来週末、神戸行かへん? 実は佐藤君に誘われとるんや」
私は『レイズ』のメンバーと連絡を取り合っていた。
『レイズ』……。といっても主に連絡しているの相手は佐藤亨一だけだが。
「来週か……。ええで! したら行くか!」
「したらな。佐藤君にウチから連絡しとくわ。栞も誘う?」
これは私なりの気遣いだった。いくら幼なじみとはいえ、彼女抜きで2人で出かけるのは気が引ける。
「いや……。今回はええやろ。栞人見知りやから連れてっても、困るややろうし」
「……。ま、一応栞に言っといてな。あとからショック受けられても困るから……」
健次は「ああ」と軽く返した。
それにしても健次と2人で遠出するのは本当に久しぶりだ。
小学4年に大阪に遊びに行ったのが最後だっただろうか?
思い返せば、昔は健次とよく2人で出かけていた。
記憶に寄れば隣県は制覇している気がする。
その日の放課後、私はいつものように栞の隣でクラリネットの練習をしていた。
「栞ショートも似合うなぁ。ずっと伸ばしとったからすごい新鮮やわ」
「アハハ、ありがとー。もうすぐ夏だし邪魔くさいから切っちゃったよ」
例のライブの後、彼女は大きくイメチェンしていた。
彼女のか細くて繊細だったその黒髪は夏仕様に変わったようだ。
「栞髪の毛長かったもんなぁ。でもさっぱりしてええやん?」
「うん! 月子ちゃんはいつもショートだよね? 伸ばさないの?」
「せやね……。ウチってあんまりロング似合わんからな……」
栞は「えー! 絶対似合うよ」と言ってくれたけれど、私は苦笑いしかできなかった。
私の母親は長い黒髪をしていた。髪質は私と同じで太めだ。
母はいつも店に出るときは和装で、まとめた髪にかんざしを刺していた。
彼女は仕事が終わるとかんざしを抜き、その黒髪をほどいて疲れた顔をした。
私はその姿に未来の自分を見ないわけにはいかなかった。
残念ながら、私はこの女から遺伝的特徴の大部分を貰っている。
顔は言わずもがな、体型・声・味の好みまで私は母親に似ていたのだ。
ショートヘアにこだわるのはそこに理由がある気がする。
自分で選べるとこくらい、母親と別にしたい……。
そんな細やかな抵抗……。
きっと栞には理解できないと思った。
彼女は母親を慕っているし、目標に設定してさえいる。
部活動は終わり私たちは楽器を拭きあげてからバッグにしまう。
「せや? ひさしぶりに一緒に帰らん? たしかケンちゃん今日は帰り遅うなるはずやで?」
「いいよー。たしか3年生の引退試合だっけ?」
「せやせや」
栞と健次はいつも一緒に下校していた。
彼が居ないときぐらい私が栞と帰っても問題ないだろう。
私たちは帰り支度を終えるとそのまま学校を後にした――。
「なんか久しぶりやなー。こうやって一緒に帰るの」
「そだねー」
栞は当たり障りのない返事を返す。
「久しぶりついでに寄り道して帰らへん?」
「いいよー。河川敷?」
「せやせや。たまにはゆっくり話したいしな……」
私のその言葉に栞の表情が一瞬曇った。
「大丈夫や! 何もせーへんよ」
私は彼女を落ち着かせるように出来る限り柔らかい口調で言った。
本当に何もするつもりはない。
私はただ、彼女と昔と同じように帰りたいだけだ。
そして私たちは鴨川のほとりへと向かった――。




