魔法しか使えない世界 発魔所編2
4
あれは。俺がバスへと変える途中気になるものが視界に入ってきた。
「あれはこの世界の食事か?」
サービスエリア。そこには屋台が設置されおり食事の匂いが漂っていた。
「いわゆる庶民向けの食事だね。アドラー家ではああいった食事は出されないの?」
「アドラー家は貴族ではなくても国を支える家。だから食べるものも庶民的なものではなかったのだろう。」
「そういえばあなたの居候さきはエルフの代表家だったね。」
エーホンは俺に食べるかと聞いた。いやと俺が答える当たり前と言葉を返された。
そしてバスへと戻る。おそらく学校を出発してからこの世界での1時間と少し程度が経過したころだろう。バスの中、全員が集まったことを確認した担任はさらにあと1時間と少しバスに揺られれば目的地へ到着すると言った。
5
おそらく3時間は経っていないだろう。俺たちの乗るバスは何処かの駐車場に停車した。
「起きろエーホン。目的地に着いたらしいぞ。」
俺の隣でいつの間にかうたた寝をするエーホンを俺は揺すり起こした。
「結局何処が目的地だったの?」
「さあな。バスを降りれば分かるだろう。」
やがて担任に言われクラスの全員がバスから下車した。
「なんだあれは。」
バスから降ろされた場所には街が広がっていた。そしてその先に見えるものへ俺は驚きを隠せなかった。目の前にあるもの、それは巨大な煙突だった。
「まさか錬金術クラスの校外学習場所って火力発電所?」
電と思わず言ったがおそらく初魔だろう。エーホンは担任に聞いた。担任はそうだと答える。錬金術師たるものと担任は続けた。ここでは一次エネルギーの燃料を燃やし二次エネルギーの魔力を作り出す。つまりこの施設には錬金術師が作り出す魔法石が設置されているということだった。俺はそこでとある宝石のことを思い出す。トルマリン。通称電気石。熱を通すと電気を帯びる性質を持つ宝石。この世界の発電所の仕組みというのは一体どんなものなのだろう。俺の中にはその興味が湧きだした。
6
「この世界のことは全て知り尽くしていると思ったけど違うのんね。」
バスから降り少し待つとこの施設の担当者を名乗る人間が俺たちのもとに現れた。どうやらその人間がこれから発電所を案内するらしい。
「いや、そもそもこの世界に火力発魔が存在していること自体に俺は驚いている。たしか、特に西国では自然エネルギーなんかが主流なんだろ。だからここへ来るまでの道のりでも魔道車ばかりが道を走っていた。
「自然エネルギーといっても今使われているのは半分程度よああいう発電は人口密集地の近くには設置できないからね。それに初魔量も低いし。それにくらべて火力は街の中に設置できるのよ。炉の周りを宝石で覆ってしまえば99%のエネルギーを変換できる。それにここで使われる一次エネルギーには化石も含まれているけれど半分以上は都市から出される汚水よ。それを燃やしているから環境にも負荷はかからない。一応煙突はあるけどあれが使われることもほとんどないのよ。燃料のなかに有害物質が含まれていた時の最終手段。普通は初魔所専属の錬金術師が有害物質を無害化するから安心してね。」
まるで日本と、そして地球と違っていた。こういったところはやはり異世界というか異世界、魔法の使える世界ということなのかもしれない。エネルギー変換率が99%というのはまさにい今の地球人にとって理想のことだろう。それに内陸であっても変換率が高い分冷却水も必要ないらしい。逆に自然エネルギーが遠ざけられていることが違和感を感じた。恒星からの光エネルギーを変える装置は街に設置されているが大規模なものは森林を切り開く必要があるため行っていない。水力は川や海にダメージが与えられるため使われない。仮にダムとして使うとしても防御魔法を使うなりそれに似た魔道具の存在からダム建設も進められていない。風力は騒音。地熱は存在しても街から遠い。この世界には火力、正確にはバイオマスが正しいかもしれないが、それが丁度良い発電らしかった。ちなみに核に関しても研究はされているもののあと一歩の段階らしい。
7
見学のコースは初めから用意されているらしく俺たちはその順路にそって案内役の人間についていった。巨大な炎やそれに照らされた宝石たち。暑そうに見えて効率のお陰で暑さは感じられなかった。そして会議室へと全員が通される。どうやら係員がこの施設についての説明を今からするらしかった。
何人かの人間が冗談交じりに文句を言った。幼いころにここへ来た人間も多いらしい。ただ俺はと言うと地球の学校で教員をなめていた時とは違い背筋を伸ばしてその話を聞いていた。
有害物質の浄化というだけでも錬金術師には職があるらしい。やはりこういったところに俺は魔術学校らしさを感じた。魔法にも多くの種類がありそしてそれをそれぞれ生かすことができる仕事場がある。異世界というのは良いものだ。才能に見合ったことができるのだから。もしも俺があのまま日本で学生生活を送っていれば俺は神に再びなることはならないだろう。しかし俺はこの世界に来たからこそ神に再びなれるのだ。
「怖いよタケル。」
俺の笑顔に対してエーホンが引き気味にそう言った。
8
説明のあとは質問の時間だった。地球での小学校に当たる時期にも校外学習でここを訪れた人間がほとんどのためか質問は俺と係員の1対1の話へと発展いた。エーホンですらテーブルに頬杖を突き何か考え事をしている。担任は俺が立って係員へ質問するところを何枚か写真機のようなもので撮影していた。
そして俺たちは社員食堂へと入る。簡単に言えば今日のこれは職業見学なのだ。大人の錬金術師、特に研究などではなく受け身の仕事をする彼らについてを調べる。さらに言えば学校と会社との接続のお陰で学校の就職率が上がる寸法だった。就職率が上がれば学校の評判も上がるのだろう。学生にしてもこれから先生きることに困らないことは良いことだ。コネか。俺はそもそも会社なんぞに入りたくはないが。
「タケルはあの人たちみたいに社員の錬金術師の人の隣で食事をしないの?」
社員食堂だ。当然ここで働く人間もここで食事をとる。媚を売るためかクラスメイトたちはみなそんな錬金術師たち、特に偉そうな人間の隣へ行き食事、そして会話を行っていた。
「ああいうのは嫌いなんだよ。何故神である俺が人間へ頭を下げなければならない。」
エーホンは呆れた。それにしてもこの食堂の食事は上手い。俺は媚なんかよりも食事へと専念した。魔法使いというのは全体的にエネルギーの消費量が多いためにカロリーの多い食事を徹底しているらしい。だからか小食でも多く食べることができるようにと食事も工夫されていると担任が俺の前へきて教えてくれた。
9
午後はプロの錬金術師の仕事を体験することになった。この発魔所には俺たちの学校から就職を行った先輩がいるらしくその人間が俺たちの前に来て有害物質浄化の実演を行った。
「やってみろ。」
やりたい人と先輩が言ったがこういうところは躊躇するらしい。先輩は杖を持って手を振ったがクラスメイトは誰一人手を挙げなかった。だから担任が指名を行う。呼ばれたのはクラス内でいつも調子に乗っている男子生徒だった。
「だいたい今タケルが考えていることが分かるんだけど。」
案の定彼は有害物質を浄化することができなかった。ただそれでもクラスメイトは馬鹿にする態度をとらなかった。それは奴がこのクラスでリーダー的存在でもあるため。しかし、地球で言う欧州の人間に近い西国人がこういう時に手をあげないのはどうしてなのだろう。それほど物質の浄化というのは難易度の高いことなのか。いや確かに地球でも煙突から出る煙を浄化する装置など存在していないが。
「俺がやる。」
俺はそこで堂々と挙手をした。クラスメイトたちが目を見張る。
「君は、たしか午前中に担当の者を質問攻めにしたという。」
「ヤマトタケル。神だ。」
俺の隣に座るエーホンが顔を抑えた。こういう時に顔を抑えるのは異世界でも共通らしい。
前に出て杖を借りる。今日は杖を持っていない。ただプロの錬金術師が使う杖だ。担任のものとは違えど十分に良いできだった。有害物質といえど原子の一つ。ようは水素にしてしまえばよいのだ。原子核の分裂をイメージする。さすがわ俺だ。普段の勉強からして彼らとは違う。ここまでの道のりでも俺は本を読んでいたのだから。有害物質は俺の力で一番の原子へとなった。俺の勝利だ。チート。理由なんかいらない。これは俺の才能だ。