魔法しか使えない世界 二年生編実験2
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魂はどうしよう。コラーゲンによってスライムのような物体を作ることには成功した。しかしここからどう生物にすれば良いのか。原核生物でも魂は持っている。でなければ生物として機能しない。生物は神がつくりだした。だから脳がなくても生物は生きられる。スライムは作られたがそれはスライムに似たものだった。ロボットよりも酷い。仮に俺の魂の一部をこれに移植したら。
「良くできているではないか。」
担任は俺たちのグループを見に来た。
「錬金術師たるものホムンクルスのように魂を持たせてもらいたかったがここが限界のようだな。」
俺の目の前にいる彼女にしろアドラー家のクルスにしろ人造生物ではあるが魂を持っている。ホムンクルスのようにほとんどが人間と同じ構造をした生物を作るための前段階。入門的な形でのスライム作成。天才である俺にとって初めての挫折。いや挫折ではない。起点となった。俺の頭には電球発明家の言葉がよぎっていた。
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「そういえばお前って名前がないのか?」
クラス名簿を見ると彼女の名前はエーホンとしか記されていない。それはこの世界での苗字である。クラスでは基本苗字でしか呼ばない。それに担任もエーホンではなく先生と呼ぶため障害はないが名前には力があることから少し気になっていた。それに彼女はホムンクルスとして生存しているために時間魔法がかけられているのだろうと考えられる。彼女は今何歳なのだろう。それに彼女の年齢が高いのであれば今日の授業に関しても何かしらの答えをしっていたのかもしれなかった。
「私の年齢に関しては秘密よ。それに呪いのことも秘密。でも今までは父親の雑用しかしてこなかったから錬金術の授業は初めて受けるかな。」
名前も彼女はエーホンで良いと言った。ホムンクルスに関する闇は深い。俺も容姿からクラスの中で浮いている。いや神として崇められているのかもしれない。とはいえ彼女との話もつまらなくはないため俺は今のクラスには満足していた。
「タケルじゃないか。」
俺の耳に慣れ親しんだ声が届く。しかしそれは横などではなく上からだった。
「ここだよ。」
俺は上を見る。そこには声の主であるアクトゥルスが浮いていた。
「見ろよ空飛ぶほうきだぜ。上級魔法として教わったんだ。魔道具なんかじゃなくしっかりとただのほうきを浮かせてるんだ。」
確か一般人、魔術学校に通っていない人間が乗るのは魔道具となった“ほうき”だったはずだ。しかし今彼が乗っているのは普通の“ほうき”。これが上級魔法というものらしい。
「なあアクトゥルス、その魔法の術式はなんだ?」
「おい。」
彼は断った。
「それより。」
無理矢理にでも術式を聞き出そうとする俺に対してアクトゥルスは話題を変えた。
まあいい。術式なんて知らなくてもきっと俺は空を飛べる。
「今度の校外学習、お前の学級は何処へ行くんだ?」
校外学習?なんだそれは。
「学級の仲を深めるためのものだよ。一応自分たちの専攻している学問について興味のある場所へ行くらしいが聞いてないのか。」
俺は隣にいるエーホンの顔を見た。神である俺であるが、知らないこともある。
「父のことだから研究に没頭して忘れているのだと思うよ。家に帰ったら確認する。」
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「確かに毎年二年生は校外学習に行っているみたいですね。」
帰りの魔動車。それではと2人に別れを告げた俺はイレーネと共に車に乗り下校した。
「それで、先ほどの女性は誰です?」
頬が少し膨らむ。
「エーホンのことか。彼女はホムンクルスさ。俺の担任が作り出したらしい。安心しろ。俺は彼女に好意は寄せていない。むしろ奴隷的だ。」
イレーネはそこで少し背もたれへと身体を預けた。校外学習、イレーネも錬金科の学生が何処へ行くのかまでは知らないらしい。ただ、アドラー家や学校の屋敷周辺。そして中央国の一部へしか行ったことのない俺からすればとても楽しみなことだった。
いつのまにか一周年