魔法しか使えない世界 二年生編実験1
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学年が上がってから、この世界での一週間が経過した。ただここ数日の授業では前年度の復習ばかりでつまらなく感じた。とくに復習テストはつまらなかった。結果としては満点を取ったが。
ただ昨日の帰り、担任であるエーホンが言った。
「明日は実験を行う。」
と。
そして今日、俺は気持ちを浮わつかせ学校へ登校した。今朝の食事の時にはその笑顔からイレーネの顔が若干引きつっていた。
「そんなに実験が楽しみ?」
俺の隣ではホムンクルスの少女が声をかける。一週間前のあの時から俺は何度か彼女たちに質問をされた。そして彼女の口調はいつのまにか俺をさげすんだように聞こえる。俺は神、であるのに。
「さて今日錬成の実験で作り出す物は何だろうか。」
錬金科の教室の隣には実験室が常設されている。そもそもこの学校は大学のようで選択する科目によって塔がわけられているのだ。さらに錬金科の塔は二年生と三年生が使用するのであるが階層によって完全にわけられているため交流もなかった。
「命を作るんですか?」
ある生徒が質問する。俺もそこは疑問を持った。魂は存在している。それは確定した事実だ。特に魂を閉じ込める箱が存在しているあたりそれは確定事項である。
「その通りだ。そもそもホムンクルスがいる時点で命を作り出せることは確定しているだろう。君もホムンクルスは錬金術師によって作り出された人工生物であることぐらい知っているはずだ。」
生徒は少し焦りながら返事を返した。俺はその時となりに座る少女へと目線をやった。ちなみに実験室ではグループが設定されており俺と彼女は同じ班である。彼女は俺と目を合わせるとすぐにまた目をそらした。ホムンクルスにとって命の話題はタブーなのかもしれない。
「諸君。大丈夫だ。今日作り出すのはホムンクルスのような人間に近い複雑な生物ではない。スライムだよ。」
ここは異世界。中央国の動物園で見ることができたが当然魔物も存在している。そして魔物は作れるらしい。
「だが、一つだけ注意がいるとすれば万物の構成については考えないことだ。君たちは1年時万物は火、水、気、土でできていると教わりそれに関連した魔法を習っただろう。しかし近年になってその常識は変化してきている。それ以外の魔法も発見されている。一般的にこの学校の魔法技術科に行った生徒はこれらの発展魔法から二つ程度を選びそれを極めるが教師しだいではそれ以外の魔法も選択できる。そして魔法の常識が崩れれば錬金術の常識も崩壊する。そもそも現在の錬金術の本質とは魔子数の変化だ。その変化方法については教科書にも書いてあるはずだ。それと安心しろ。この授業は命について思考するというこの学校の上層部が考えた道徳授業であり今日の授業の評価は行われない。最も本当にスライムを作り出す者がいれば変わるが。」
つまり、今までに最初の実験を成功させた生徒はいないのだろう。これは錬金術に関する初歩的なことに興味を抱くための授業であり結果を問わない。結果が全てではないという日本とは違った考えの授業だ。だが、燃える。今まで1人もスライムを作り出せたせいとはいない。だから俺が仮にそれを完成させたら。この学校で初めて生徒が人工的に生物を完成させたら。ホムンクルスがいるのだ。生物を作ることが不可能であるという訳ではない。俺の心が燃えていた。
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「錬金術に関する供述は書いてあるがスライムの材料についてまでは書かれていないな。」
「そのようだね。」
一応グループは六人になって実験台を囲んでいる。しかし明らかに俺と彼女の2人。そして残りの4人という区別がその中にはついていた。無理もないのかもしれない。彼女はホムンクルスであり担任の一応の娘。前に話しを聞いた。中央国人は獣人を愛するが西国では差別されると。現在はそんなことはない。しかし彼らはあくまで学生。とくに錬金科に通う程度の学力を持ちプライドも高い。神である俺には到底及ばないが甘いプライドを持っている。それが別の種族を差別しているのだろう。全く人間というものは。どこの世界でも本質を変えようとしない。あくまでも自己中心的に行動する愚かな種族だ。
そして彼らはそんな卑下すべき存在であるホムンクルスが話しをしている俺のことも下に見たのだろう。神を侮辱するとは何と愚かなことだろう。そのうち天罰があたるかもしれない。
「スライム。玩具のそれはポリビニルアルコールとほう砂で作れたがそれは不可能だろう。」
意訳ではあるが似たような物質はやはりこの世界にも存在している。そうでなければクルスなど執事の着る服装には格好がつかないだろう。
「人体の中でスライムに近い物質。スライムは何でできているか分かるか?」
「分からないよ。生物の授業は国が魔法高校の生徒以外にも受講させているから知識はあるけど専門ではないからなあ。」
エリートでも分からないことはあるということか。広く浅くの知識か狭く深くでの知識かを選択するときに狭く深くを分野に関係なく選択してしまうことも人間として地球人と似ている。地球でも勉強のみ運動のみという人間は多くいた。そして奴らは決まって科学にい興味を抱いた俺を馬鹿にしていた。俺が広く深くということを貫いているとも知らずに。
「スライムも生物であるならば構成物質はタンパク質ではないか。」
ああ。と彼女は言った。タンパク質の概念は持っているらしい。というよりその程度は一般常識なのだろう。であるならば次に俺が発する言葉も一般常識として定着しているはずだ。
「コラーゲン。」
俺は言った。発想の勝利である。
「あの美容品!?」
今度は俺がああ、と言った。その通りと付け足して。
コラーゲンというものが美容品として宣伝されていることはこの世界でも常識のようだ。
「担任は四つの万物を考えるなと言ったがあれはフェイクかもしれない。これであればおそらく気から作り出せる。」
俺は教科書を見るとそれに関する記述を探した。俺の近くの生徒には一生懸命に教科書にヒントがないかと探している者がいたが答えも分からずに闇雲に答えを探しても意味はない。答えがあっても見のがしてしまうだろう。
俺はこれだなと言い、目当ての元素を取り出すための魔法を空気中にかけた。勿論使用したのはリミッターがかけられた生徒用の杖である。
pvaで人工生物を作りたい。