魔法しか使えない世界 学校編9
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重たい教科書も俺の体内に存在する細胞の力を使えば簡単に持ち運ぶことが可能だった。今日は街の書店へと進級後に使う教科書を買いに来ていた。学校の図書室にはよく行くが街の書店には初めて来た。目的である教科書も無事購入でき俺は少しの間、書店の本棚に収められた本たちを眺めていた。本といっても種類は様々だ。異世界でも小説は存在するし絵本も存在する。漫画だって。街の本屋でしか教科書を購入できないため俺は今日ここへ来たがさすが街にある大きな書店なだけあって本の量は多い。物語だけでなく専門書なんかも多くの在庫があった。それは本当に多く政治なんかの本や鉄道や魔動車などの本。言語、料理、医療、宗教。たくさんの本がある。日本の本屋にもあるように大学受験に関するコーナーもあった。そして雑誌の置かれた場所を見るとオカルトと書かれた胡散臭い冊子が売られていた。日本にも似たような本があったし俺も読んでいたがここまで似てくると時々、世界の違いが分からなくなる。俺は地球ではなくこの世界で生まれ育ったのではないかと思ってしまう。勿論それは違う。事実、顔や体型は日本に住んでいた頃と変わっていない。俺は雑誌を手に取り目を通す。中身は日本の物と違い当たり前だが魔法に関することなど記述されていなかった。だが変わりに科学、電気が迷信として書かれている。俺からすれば常識的なことが載っているがこの世界の人間からはすれば信じがたいことである。この世界では魔法が真実で科学が嘘。まさに不思議な感覚。魔法が想像か科学が想像か。しかしその二つはどのように想像されたのか。人間の想像力は未知数。何もない無から何かを作り出す。科学しか存在しない世界から魔法を想像し、魔法しか存在しない世界から科学を想像した。俺は雑誌を本棚に返すとまた別の本棚へと移動する。魔法に関する専門書が置かれた本棚。俺はそこから気になった本を手に取る。錬金術に関する本もあったが俺はまた別の分野の本を手に取った。物体変換の専門書。錬金術に似ているようで似ていない魔法。これは例えば木の丸太を将棋版に変えるような魔法。質量や構成元素は変えずに形だけを変える魔法であるが錬金術が物質を元素こと変化させるのに対しこの魔法は元素を粘土のように変える魔法。仕組みで言えば錬金術が原子をぶつけ核反応を起こさせるのに対しこちらは原子間の結合を解除し再結合させること。昔はそれなりに研究されていたがその全てにおいて錬金術が優れていたために今現在は研究されているかすら不明。学校に図書室で以前読んだ本にはそう書かれていた。何故、俺がそんな本に気を止めたか。答えは簡単だ。
岸田先輩が扱っていた魔法だから。その存在すら俺は忘れかけることがある。俺の記憶力を使えば忘れることなど勿論絶対にないが。俺は書店に並べられた多くの本棚や本の山を見て以前通っていた学校のオカルト研究部の本棚を思い出した。あの部屋にも専門書が多くあった。懐かしい。あの部活は俺のことを受け入れてくれた。しかし半年前、俺と共に異世界転移を試みた岸田先輩は未だに行方不明だ。そしてその岸田先輩が扱った魔法がこの物体変換の魔法。この魔法を知れば何か分かるかもしれない。俺はそう思っていた。もう半年が経過した。俺は進級する。この世界のことは好きだ。だが、、、。
俺は本を会計へ運び鞄から財布を出すとお金を払った。イレーネの父親に頼んで貰った資金。そもそも買い物へ普段行かないため彼から小遣いを貰うことがなかったが今回は本を買うために初めて彼にそれをねだった。
家に帰るとイレーネがリビングでくつろいでいる。彼女は俺が帰ったのを見ると理由もなしに笑いかけた。
「ただいま。」
俺は彼女に笑う。彼女も特に用はないようでまたリビングでくつろぎ始めた。俺は自室へと入り鞄から受け取った教科書と購入した物体変換に関する本を取り出す。教科書の内容も気になり俺は教科書と専門書を両方、机の上に置いた。そして両方を同時に読む。天才である俺であればこんなこと容易い。だが一つ不満としては教科書は暗記的な部分が強く俺からすればつまらないと思う部分もあった。そして専門書はさすがの内容であり凡人では理解できないような内容も書いてある。物体変換の魔法の難易度は上級魔法と同等かそれ以上らしい。それほど難しいのかと思うが何かを作るには想像力が不可欠だ。そこは錬金術も魔法も変わらない。ただそれ以外にも魔法を難しくする理由があるようで岸田先輩のすごさというものが俺には感じられた。本に読みふけっていると俺の肩を誰かが叩く。振り返りそこを見るとイレーネが食事の準備ができたと俺を呼びに来ていた。
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