魔法しか使えない世界 外伝5
外伝5
[クルス]
私の体には呪いがかかっている。時間魔法。物体の時間を自由に操る魔法。呪いは魔法の一種である。しかし、それは呪いとしても機能する。60年前、私は魔動具の中で誕生した。透明の入れ物の中には私の兄弟たちが何人もいた。しかし、おそらく今現在を私のような生活を行っているのは私1人だろう。ホムンクルスのことをニホンゴでは“クローン”と呼ぶとタケルは発言した。ホムンクルスは人間の細胞を錬金術を駆使し増殖させ完成させた人工の人間。そして私たちホムンクルスは60年前の戦争で魔王によって量産され戦地へと送られた。しかし当時の技術では私たちを長生きさせることは困難だったらしい。ホムンクルスは容器から出て外気のさらされれば死に至る。だから錬金術師たちは私たちに魔法。いや呪いをかけた。時間に関する呪いを。我々の身体の時間を止める。すると我々は容器の中で液体に浸かっていた時と同様に外気の中で生存することができる。そして私は戦地へ投入された。戦争では多くの同胞が戦死した。始めホムンクルスは母国の最大の主戦力だった。時間魔法は身体の一部を失っても機能する。たとえ頭を破壊されようと心臓を失おうと時間魔法は機能し続けホムンクルスは、体中の全ての細胞が消え去るまで戦い続ける。普通の人間にはそんなこと絶対にしない。しかしクローンであるホムンクルスは別だ。人権なんて考えられない。まして魔王にとっては。しかしホムンクルスも、細胞を全て失えば意味がない。だから戦況は次第に悪化した。そして私は旦那様に出会った。国は戦況の悪化に伴いそれまで出し惜しみをしてきた上級魔術師、エルフたちを戦地に送り込んだ。しかし戦争には負けた。所詮は植民地の反乱と思っていた政府は頭が悪い。数で戦いを挑んだ西国と違い東国には強い戦士が多かった。特に西国の政治体制に嫌気がさし亡命した人間も多かった。本国から派遣されら旦那様たちも十分に強かったが、それでも戦争に参加した時期が遅すぎた。すでに戦況は東国が優勢だった。そして西国は敗戦した。旦那様に出会ったのは終戦の少し前だった。敗走を避けるため、戦後の我々ホムンクルスの処理の困った西国は我々に突撃を命じた。まさに魔王だ。そして仲間たちが敵部隊へ突入して行った。その中で私は旦那様に助けられた。私が立ち上がった瞬間に私は旦那様に止められ。私の仲間が突撃する中で私は1人だけおいて行かれた。そして私はここにいる。他にも生き残ったホムンクルスはいた。しかし皆、魔術の発展や局地での労働に使われた。しかし私はアドラー家に仕えている。そして呪いによって未だに私は生きている。お嬢様に仕えることもできた。今までと違い上級魔術も旦那様から教授された。呪いだったものには私は今感謝している。そして今、新たな人間も増えた。ヤマトタケル。お嬢様が連れてきた謎の多い少年。彼は問題が多い。最近でも学校で事件を起こした。60年も生き私は人生に疲れていた。しかしそれも変わろうと今している。まだまだ私は現役を貫いていく。
クルス編