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第8話 偵察任務

「火星に不審な動きがある」

 艦隊旗艦の宇宙駆逐艦ゴブリンから通信が送られてきたとき、俺たちは中央制御室に戻っていた。

 正面スクリーンのクラーク中佐の気難しい顔が小さくサイズダウンして画面の右上に移動し、空いたスペースに火星方面の監視カメラがとらえた四隻からなる艦隊の画像が映し出された。

 一隻はサメのようなフォルムの宇宙戦闘艦で陽の当たっている部分は白銀に輝く一方、その反対側は周囲の闇を映していた。レーザー砲などの光学兵器を無効化する鏡面装甲だ。

 そして、超電磁砲や高出力レーザー砲の旋回砲塔が、これ見よがしに装備されていた。

 火星の標準的な宇宙巡航艦だった。

 残り三隻は円錐形で白く塗装され、特に武装は見当たらなかった。

 大きさは恐らく宇宙巡航艦よりも大きいだろう。やたらと馬鹿でかい推進機関の目立つ宇宙船だった。

 輸送艦のようにも見えるが、輸送艦にしては貨物室と思われるスペースが見当たらなかった。

「見慣れない艦ですね、何かの試作艦にしても三隻ですか……」

 アイザックが用途不明の宇宙船の画像を食い入るように見つめていた。

「この艦隊は火星軌道を離れ、メインベルトに向かって航行を始めた。我々メインベルト方面第八艦隊は敵新型艦の正体を探るため情報収集を行うことになった」

 画面が切り替わって太陽系の星々の運行を表した航路図になった。

 その上に火星の艦隊の予想進路が赤い点線で表示され、続いて我々の艦隊の進路が青い実線で表示された。

「これより1G加速で、この火星艦隊を追撃する。各員気持ちを引き締めて任に当たれ」

 クラーク中佐は眉間に縦じわを刻んだ厳しい表情のまま通信を切った。

 わが軍の慣習では敬礼しながら大声で命令を復唱するところだが、アイザックにそんなことをするそぶりは見られなかった。

「レイチェル、あの宇宙船、超高速航行と超重量物の運搬、どっちが目的だと思う?」

 考え込んでいたアイザックは考えがまとまったのか静かな笑みを浮かべていた。

「情報が不足しているので確定できません」

 レイチェルは少し首をかしげながら普段通りの笑顔で応えた。

「そう言うと思ったよ。でも、僕は重量物の運搬が目的だと思うな」

「その可能性が高いのは事実ですね」

 二人の会話はいろいろ前提や説明が欠落していて、理解力に乏しい俺には難しすぎた。

「すみません。教えてください」

 わからないことを放っておくと気持ちが悪いので俺は小学校の生徒のように手を挙げた。

「高速航行を目的とした試作艦なら三隻も用意する必要はないからね」

 アイザックはやはり説明を省いた。

「そして、僕の推理が正しければ火星の奴らは、ろくでもないことを企んでいるよ」

 背中に冷たい氷を押し付けられたような気がした。

 口調も表情も穏やかなままだったが、アイザックの目の奥に暗い炎を感じた。

「レイチェル、地球市民の安全のため、万全を期そうね。僕がいつも教えている通り、火星の奴らは卑怯で油断ならないから」

「もちろんです。アイザック」

 レイチェルに視線を向けたアイザックは、元の穏やかなアイザックに見えた。

 アイザックにどす黒い情念が見えたのは俺の思い過ごしなのだろうか。

 ちらりとアリスの様子をうかがってみたが『何か用か!』とでも言いたげな不機嫌な視線しか返ってこなかった。

 中央制御室の会話が途切れ、沈黙に息苦しさを感じた俺は無理やり話題を見つけようとした。

「あ、あの、アイザックは士官学校出身なんですか?」

 ろくでもない質問だったが、アイザックのまとう空気に違和感を感じていたのも確かだ。

「どうして?」

「いや、あまり軍隊の雰囲気に染まってないみたいなんで」

「僕はコンピュータープログラマーだったんだけど人工知能に能力を追い抜かれてね。父親も亡くなって困っていたところを軍隊に士官待遇で拾ってもらったんだ」

 士官として中途採用されたのだから、相当優秀なのだろう。

 アイザックに感じた違和感の正体と艦隊司令の不機嫌そうな態度の正体が、なんとなくわかったような気がした。

「そういう君も軍の文化に染まり切っていないみたいだけど」

 油断していたら矛先が俺に向いた。

 一瞬迷ったが、取り繕っても仕方がないので正直に話すことにした。

「積極的に軍人になりたくて軍人になったわけではないんです。本当は作家志望だったんですが、食っていけるレベルに達しなかったので、普通に就職することにしました。でも、どこも人間の採用が少なくて仕方なく軍人になった口です。人工知能管理法の関係で、軍には一定数の人間の需要がありましたから」

 案の定、アリスから軽蔑したような視線を感じた。

「これだけ人工知能が優秀になっちゃうと就職は難しいよね……アリスは?」

 アイザックは俺とは反対側に座っていたアリスを振り返って声をかけた。

「うちは父も祖父も軍人です」

 彼女はニコリともせずに即答した。

「艦隊行動を開始します。各員シートベルトの着用をお願いします」

 俺たちが無駄話をしている間、レイチェルだけが艦隊司令から送られたデータをもとに黙々と仕事をしていたらしい。人間の雇用が減っていくわけだ。

 俺たちはシートベルトを着用して加速に備えた。

毎週土曜日に更新予定です。

皆様に楽しんでいただける作品になるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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