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サイネージ・エモーション

作者: ハルカ カズラ

 久しく、喜怒哀楽を思い出すことがなくなっていた。自分という存在が生きているこの時代には、便利という二文字で片付けて良いのか分からないが、感情を自由に購入できることが可能だ。電子上に映し出されているのは、喜び、悲しみ、楽しさ、怒り……どれも一律5千円くらいだ。もっとも、程度にもよるが人として必要な感情は、いつ何時なんどきも使用するわけではない。


 例えば別れの時には、悲しみであったり怒りなどの感情を購入しておけばいいだろうし、誰かに久しぶりに出会った時には、喜びの感情をストックしとけばいい。


 人が人で無くなった。これは表現すべき場所がネットワークでしか無くなってしまったからだと自分は考えた。もっともこれは人間だけの話。言葉を使用しない動物においては、購入しなくても喜怒哀楽を自在に出し続けている。いつから人は自らの感情を捨て、全てを機械に任せきりになってしまったのか。自分もその答えは分からないままだ。


「久しぶりだな。お前は今、どんな感情を出そうとしている?」


「久しいが、長い付き合いでもないお前には軽めの楽しさを出している。安い買い物だった」


「そうか、安めの楽しさか。俺も似たような物だ。しかし、サイネージに売り出されている感情には4つの種類しかない。そこが不便で理不尽だ。そう思わないか?」


「ふ、必要以上の感情を購入する奴がいるとでも?」


「曖昧な感情……これを購入したい。まさに今がその時だからだ。お前もそうだろ? C53殿」


「B319も同じか。しかし、名前も売ってほしいものだな。人間が人間らしく生きて行くには、愛称だとか、可愛らしさだとかを名前として呼び合いたいものではないのか?」


「同意する。俺たちのこの世界、どこから間違って、どうなっていくのか……サイネージに出されていく情報を元に購入していくしかないな」


「そうだな、それじゃあまたどこかで会おう」


「今の表情は嬉しさか?」


「さぁな。ストック切れだ。B319こそ、何故怒っているのか後で聞かせてくれ」


 感情を自分では自由に出せなくなった世界。自然のままで生き抜く動物たちが羨ましいとさえ感じるが、この羨ましさの感情はどこに行けば買えるのだろうな。一先ず、サイネージに頼るとしようか。

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