その8 制圧した国を放置してハーレム作りに勤しむ
近隣諸国を崩壊させ、とりあえずトモヒロの国の周りは静かになった。
すぐに攻め込まれる可能性はほとんどない。
隣接国の更に向こうにある国々が動く可能性はあるが、すぐさま国境を越えてくる事は無い。
しばらくは落ち着く事が出来る。
ただ、統治を任されてる者達は頭を抱えていた。
「このままでは支配地を放棄するしかありません」
トモヒロが崩壊させた国々を治める人材がいないのだ。
これ以上人員を割いたら、トモヒロの膝元が崩れていく。
なので、
「じゃあ、放置しておけばいいよ」
と言った。
あまりにもあっさりと言われた統治機構の者達は呆気にとられた。
「とられて困るもんでもないし、なんならまた取り返せばいいし。
別に治める必要があるわけでもないしね」
トモヒロは別に世界を支配したいと考えてるわけではない。
多少は考えてるが優先順位は低い。
自分が楽しめれば良いのであって、別に占領や制圧を目的にしてるわけではない。
「治められる人間が増えたら行動すればいいから。
それまでは教育を頑張ってくれ」
そう言ってトモヒロはこの話を終わらせた。
言われた方は呆気にとられてるが、それを気にする事もない。
「それより、そろそろハーレムでも作りたいんだけど、やってくれる?」
こちらの方がより重要だった。
幸いと言うわけにはいかないだろうが、トモヒロのハーレムに入りたいという者はそれなりにいた。
トモヒロに恐れをなして、取り入ろうとしてる者は多い。
本人にその気がある場合もあれば、本人は乗り気ではないが家の者ががんばってる場合もある。
トモヒロの非道とも言える侵攻を止めようと、説き伏せようというものもいる。
その力を利用しようとする者も、あるいはそう考えてる家が送り込んでくる場合もある。
その強さの根源は何なのかを調べようとする者もいる。
トモヒロの意向を知ろうとする諜報員のような者もいる。
成り上がりのためにやってくる者もいる。
そこまで考えてなくても生活の為に近づこうとする者もいる。
とにかく様々な理由でトモヒロの所にやってくる者がいる。
それらの中から好みを選んでハーレムに入れれば良いだけである。
何も考える必要はなかった。
なお、好みに合わない者達も召し抱えた。
ハーレムの運営用の人員が必要だからである。
炊事・掃除・洗濯などなどをまさかトモヒロの相手をする女にさせるわけにもいかない。
それはそれで専属の要員が必要になる。
応募してきたが好みに合わなかった女にはそういった役目を担わせた。
こればかりは男にさせるわけにもいかない。
ハーレム要員に手を出されてはたまらないからだ。
急造のハーレムはこうしてとりあえず形になっていく。
出自も様々な女達が、突如あらわれて周辺国を崩壊させていくトモヒロのもとに集まった。
(しかし、運命的な出会いとかそういうのって無いもんだな)
前世の様々な創作物では、それこそ主人公に好意を寄せる女があらわれて自然とハーレムを形成するのだが。
トモヒロの場合そんなものはなかった。
まあ、トモヒロに何らかの思いを抱いてる者達がやってきてるのは確かではある。
それが好意であると言い難いのが違うところであるだけだ。
(そうそう上手くはいかないか)
チートを持ってて世界を揺るがすような活躍をしてる。
にもかかわらず女運はついてきそうにもなかった。
実に残念な事だった。
そんな事をしてる間にも、崩壊した国々の隣接国が無主地に進出していく。
理由も不明確なままに崩壊した国に乗り込み、領土化しようとしていた。
避難していた王太子や貴族がいるので完全な無主地ではないのだが、統治能力の崩壊は確かである。
なので、この機会に奪ってしまえとばかりに乗り込んできていた。
それを、本来の主である残存王族や貴族はあえて見逃していた。
仮に手に入れたとて、またトモヒロがやってきて全てを崩壊させるのが目に見えてるからだ。
各国の生き残りの王族達は、今はまだその時期ではないと考えて息を潜めていた。
対抗手段がないのだから無理は出来ない。
下手に意地を張ったら死ぬだけである。
そうなれば完全に亡国となる。
それだけは避けねばならなかった。
進出してきた国々は、確かに数ヶ月ほどは国土を広げる事が出来た。
しかし、三ヶ月から半年の間隔でやってくるトモヒロによって完膚無き前に崩壊させられていく。
それらを横目に、残存王族達は水面下で各地と連絡をとりあい、静かに統治をしていく。
まだトモヒロの勢力の手が伸びてないから出来る事である。
そうやって機会を見てあるべき地位に返り咲こうとしていた。
皮肉な事に、そうしているとトモヒロが暴れ回るのが実に都合が良かった。
トモヒロが暴れて統治者がいなくなった地域に、残存王族達は手を伸ばす事が出来た。
それは、元々の領地だけでなく、新たにトモヒロが足を伸ばした地域も含まれる。
そういた地域を取り込む事で、残存王族達は勢力を伸ばしていった。
その範囲はかつての自分達の領土に匹敵するまでになった。
これには水面下に潜んでいる者達も驚き呆れた。
まさかこんな形で国土を増やせるとは思ってもいなかった。
そして、ひたすら時期が来るのを待つ。
来るかどうかもあやしいが、待つ以外に彼らに出来る事はなかった。
亡国の王族達が必死になってる時、トモヒロはひたすらに周辺国へ進撃をしていた。
周辺国の周辺にある国々を壊滅させ、更にその隣にある国へと向かっていく。
さすがにこの頃になると魔術で強化した身体能力を用いても行き来するのが面倒になっていた。
なので、転移魔術を用いてあちこちに出没するようになった。
その為の機構も用意していく。
特定の場所に門となる魔術装置を設置しておく事で、かなりの長距離の移動が可能になるのだ。
転移魔術単体ではさほど長い距離を移動出来ないが、場所を特定させることでこれを飛躍的に伸ばす事が出来る。
おかげでトモヒロの侵攻範囲は格段に広がった。
周りの国からすれば迷惑きわまりない。
だが、トモヒロは己の力の全て……とまではいかなかったが、存分に発揮して侵攻していった。
統治機構がその後にゆっくりと平定していく。
トモヒロの侵攻に比べてあまりにも襲い進出だが、競合相手がいないので問題はなかった。
むしろ、その方が都合が良かったと言えた。
侵攻からしばらく放置された者達は、どうしても孤立していく。
町も村も、互いにそれなりの距離があいている。
それらをつなぐ連絡網はほとんど存在しない。
貴族であれば、定期的な連絡を伝令で行っていたのである程度の情報交換は出来ていた。
その為、何かが起こった場合に互いに助け合う事が出来た。
これが崩壊してしまったので、各地の集落は規模の大小を問わず自力で活動せねばならなくなった。
町ではこれが致命的になりかねない。
一応周囲に田畑が広がってるのである程度の自給自足は出来る。
しかし、生活の全てをまかなう事は出来ない。
鉄などの資源は外部から持ち込まねばならず、それは他の様々な物品についても言える。
特に規模が大きくなれば町を維持するためにより広範囲に存在する様々なものに依存せねばならない。
これは町が脆弱というわけではない。
一定以上の規模になったり、文明がある程度の段階に到達したら避けられない事である。
人工を維持するには農作物が必要で、それを大量に得るためには広い耕作地が必要になる。
それは町の周囲だけでは絶対に足りず、より広く求められる。
必然的に周辺に点在する農村などから作物を取り入れていかねばならない。
また、様々な物品によって生活水準を上げる為には、必要な材料を入手せねばならない。
これもまた町の周辺だけで手に入るわけもないので、産出地からの輸送に頼るしかない。
これらを成立させてるのが文明であり、様々な手段での相互の連絡であろう。
この連絡が途切れた瞬間に町や村は孤立し、存続が危うくなる。
トモヒロに襲われた国々はこの状態に陥り、壊滅していく町や村がちらほら出て来ていた。
必要な物が何時やってくるのか分からないというのは、それだけで恐怖となる。
トモヒロが襲いかかってきた直後に統治機構がやってきたなら問題はなかったのかもしれない。
しかし、人員の拡充が全くおいついてない統治機構は、どうしても行動が遅れてしまう。
この時間差が人々の不安を嫌でも増幅させていった。
そして、遅れながらもやってきた統治機構に全面的に依存するしかなくなる。
一応残存王族などが連絡手段を構築しようとしているのだが、まともな組織を持たない彼らにそれを成し遂げる事は出来ない。
多くの民は、自分達が生き残る為にトモヒロの統治機構にすがるしかなくない。
トモヒロへの恐怖はある。
しかし、それでもトモヒロ(の配下の統治機構)にすがらねば生きていけない。
泣く泣くではあるが、多くの集落・人里がトモヒロの支配下に入っていった。
水面下では各国の王族と繋がってるとはいえ、実質的な支配者としてトモヒロの下に屈するしかないのだ。
これらがトモヒロへの悪評を高め、同時に服従しなかった場合の恐怖も抱かせる。
そんなつもりではなかったのだが、トモヒロは恐怖をもたらす魔王と言われるようになっていった。