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その7 主人公の脅威は隣接国におよび、隣接国はそのことを周辺国に伝えるが信じてもらえない

 国を一つ壊滅させ、更に周辺国も崩壊させていく。

 トモヒロが生まれ育った国の周囲に存在する国々は、首都直前まで壊滅していた。

 そこまでやってトモヒロは手を止めて家に帰っていた。

 おかげで周辺国は生きながらえていたが、それも風前の灯火である。

 もう一回トモヒロがやって来たら確実に潰える。

 それが分かっているので、各国は早急な対応をしていった。

 軍の動員と他国との連絡、共同戦線の打診。

 トモヒロの国と隣接してる、トモヒロより被害を受けた国々は一も二もなく共同歩調をとっていく。

 直接トモヒロの国と接してない他の国にも状況を伝え、同盟の必要性を説いていく。

 とにかく出来る事を全て実行していっている。

 なのだが、トモヒロの国を囲むように存在する隣接国はともかく、その外側に位置する国々の反応は芳しくない。

 実際に攻め込まれてないからなのだろうが、反応が鈍い。

 やむを得ないものはある。

『たった一人のべらぼうに強い存在に、国境から首都直前までを壊滅させられました』などと言ってすぐに信じる者はいないだろう。

 それは分かるのだが、被害に遭ってる国からすればたまったものではない。

 一体何を言ってるのだと呆れられてしまい、話がほとんど進まないのだ。

 同盟を結ぼうといっても簡単にはいかない。

 国家同士の条約でもあるので簡単にいかないのは仕方ないのだが、緊急事態である事を骨身にしみて理解してる周辺国達からすればたまったものではない。

「とりあえず不可侵条約でどうでしょう」などと言われて終わるのだから泣くに泣けない。

 必要なのは不可侵という消極的な協調関係ではない。

 こんなんな状況にあって共に戦線を構築する同盟である。

 簡単に成立するものではないが、最低でもそれがないとどうにもならない。

 それどころか、国がまずい状況だと聞いて牙をむく国すらあらわれる。

 国力の均衡で得られていた平和だっただけに、どこかが衰退すれば周囲は平然と襲ってくる。

 一方はトモヒロが、もう一方は他国によって侵略を受けて滅亡を早めた国も出てしまった。

 そんな事態を見て、ほとんどの国が王位継承者の王太子と有力貴族とその子弟を比較的安全な地域に非難させていった。

 国が潰えても、血筋を残す事で今後の復活の可能性に賭けていく。

 それがどれほど先になるのか分からない。

 数年以内にどうにか出来るのかもしれないし、数十年後かもしれない。

 何世代も後の子孫が再興を起こすだろう事に期待するしかないかもしれない。

 だが、王家が生き残れば国を再興する事は出来る。

 王家にまつわる様々な権利の継承・相続を主張できるものがいれば正統性を主張出来る。

 だからこそ、各国は王族とそれを守る貴族の避難や脱出をはかっていく。



 そんな隣接国とは反対に、絶好の機会と攻め入った国々はある意味不幸であったと言える。

 トモヒロのおかげで国力ががた落ちした国に攻め込むのは容易く、首都まで無理なく突撃出来たのだ。

 あとは首都を陥落させて征服をすれば良い。

 それで国土を広げ、国力を増大させる事が出来る。

 平和ではあるが発展もさほどない状況を覆せる。

 攻め込んだ方はそう思っていた。

 だが、その場にいた国王や残留する事になっていた有力貴族などは、攻め込んできた者達をため息を吐いて迎える。

 敗戦と亡国による落胆とは違った、何かに呆れてるような態度だった。

「いったい何なのだ?」

 攻め込んだ者達は一様に不思議に思った。

 抵抗がそれほど大きくもない、一応略奪や強奪を防ぐために軍隊は行動していたが、必死の抵抗というものはなかった。

 また、首都を守る親衛隊や近衛などもさほど積極的に活動してなかった。

 そこに国王以下首脳のこの態度である。

「わざわざ来たのか、ご苦労な事だな」

 侵攻軍の司令官である将軍にそう言う国王は、心底あきれ果てた様子だった。

「使者を送って伝えたはずだが、まさかこのような事をするとはな」

「あの与太話か?

 そんなもの信じるとでも思うか」

「信じる信じないはそちらの自由だ。

 だが、現実を直視しないととんでもない事になるぞ」

 そんな事を言う国王のあとを別の者が次ぐ。

「まあ、折角やってきてくれたのだから、否応なく巻き込まれるだろう。

 いつ頃こっちにやってくるかは分からないが、運が良ければあれに遭遇出来るぞ」

「むしろ運が悪いと言うべきかもしれぬがな」

 別の貴族の、こちらは苦笑しながらの言葉に将軍は更に首をかしげる。

「いったい何を言って……」

 途中まで言ったところで室内にいた魔術師が声をあげて将軍の言葉を妨げる。

「来ました」

「そうか」

 諦めの顔で国王は頷いた。

「おい、いったいどういう事だ」

「なに、すぐ分かる。

 それよりも、配下の兵士に指示を出したらどうだ。

 もうすぐ敵が来るぞ」

「敵?」

 訳が分からないという顔で将軍が首をかしげる。

「どこにいるのだ。

 お前らなら、もう制圧してるぞ」

「誰が我々と言った。

 我々の敵だ。

 お前ら以外のな」

 国王がそう言った直後、外で派手な音が鳴った。

 轟音というのだろうか。

 その音だけで建物を振るわせるような衝撃を伴っている。

「なんだ?!」

「来たか……」

 派手に驚く将軍と、生きる気力を放棄したような国王。

 起こった事態への反応は対照的だ。

 何も知らない者と、既に知ってしまった者の差であろう。

 そして何も知らない者は、とるべき対応をとれないまま時間を浪費する。

 その間に、首都にまでやってきた配下の軍勢をほとんど失う事になっていく。

 それを知らないまま将軍は、外から聞こえてくる盛大な音に気を取られていく。

「いったい、何が?」

「己の目で見るが良い。

 その前に、あれが来るかもしれないが」

「あれとは何だ?」

「だから、使者をよこして伝えただろう」

「与太話の事などしてない!」

「そう思うなら勝手にしろ」

 国王は投げやりだった。

 というより、話す気にもなれなかった。

 伝えるべき事は包み隠さず伝えているのだ。

 だが、受け取る側が理解しようとしないのであれば何の意味もない。

「どうしようもないな」

 憤懣やるかたない、だがどうしようもない事に国王以下残留した主要貴族はため息と諦め、開き直った笑みを浮かべるしかなかった。

「せっかく連合軍になり得ると思ったのだがな」

 攻め込んできたのは許せないが、何はなくとも軍勢を送ってきたのだ。

 ここで共に行動できれば、もしかしたら何かをどうにか出来たかもしれない……そういう思いがある。

 しかし、

(ここまで指揮官が愚鈍であればどうしようもないな)

と嘆くしかなかった。

 弁護するならば、この将軍は特別無能というわけではなかった。

 歴史に名を残すような名将ではないにしても、やるべき事をしっかりとこなす能力は持ち合わせている。

 凡百の指揮官ではあるかもしれないが、そもそも指揮官をこなせるだけでもかなり有能だ。

 だが、余りにも現実にとらわれ過ぎていた。

 軍人は徹底した現実主義者であるべきで、理想や夢想にかまけてはいけないだろう。

 だが、常識や想定内だけで事を進めようとするのも間違っている。

 予想外の出来事の可能性を常に考えておく事も大切だ。

 この将軍にはそれがなかった。

 だから、起こってる事態に何も対処出来ない。

 ただ、無駄に時間を浪費していく。

 最後には自分の命すら無駄に消費していく事になるだろう。



「さーて、こんなもんか」

 久しぶりに首都までやってきたトモヒロは、展開していた軍勢を壊滅させていた。

 攻め込んできた数千はいた兵士のほとんどが死んでいる。

 数える程度の人数は取り逃がしただろうが、それで状況が悪くなるという事もない。

 トモヒロの事が他国に伝わる可能性はあるが、それでもかまわなかった。

 それはそれで面白くなってくれそうなので、歓迎する事にする。

「さて、それじゃあ王様に会いにいきますか」

 そう言って王城へと飛び込んでいく。

 入り口からなどと面倒な事はしない。

 国王の居そうな場所に目星を付けて、そこへ飛び込んでいく。

 魔力をまとって壁に突撃したトモヒロは、途中の経路を全て無視して直接国王の謁見の間に飛び込んだ。

「こんちはー」

 適当な挨拶をその場にいた者達にする。

 そんなトモヒロに、国王と側近達はため息を。

 将軍は口を大きく開いて見つめた。

「な、なんだ」

 それが将軍の最後の言葉になった。


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