その5 王城は崩壊し、主人公は国を平定し、ハーレムを作ろうとする
その日、王城は呆気なく吹き飛んだ。
「こんにちはー!」
前線からひたすら走り続け、途中で遭遇した部隊を吹き飛ばしたトモヒロは、そう叫んで飛び込んでいった。
魔術で空に舞い上がり、そこから更に加速を付けて落下していきながら。
更に防御魔術で自分の周囲に魔力の壁を作り硬度をあげていく。
重力と魔力による加速を加えたトモヒロは、自身が質量弾となって王城に突撃した。
爆薬などによる炸裂はないものの、速度と硬度による破壊力は下手な爆弾などよりも大きな物になっていた。
それを受けた王城は、衝撃だけで吹き飛んだ。
城壁も含めて衝撃波が王城を吹き飛ばし、周囲にそれらを形作っていた石壁などを散乱させていく。
これによって城下町も被害を受けた。
だが、王城よりはましだっただろう。
事が終わったあとのそこには、最も深いところで10メートルはある陥没になっていたのだから。
轟音と共に崩壊した王城。
それを見る事となった首都の民は、その直後に空中にあらわれた巨大な姿を目にする。
魔術によって空中に映像を浮かべたトモヒロは、黒いフード付きマントを身にまとって宣言する。
「首都の諸君。
今日、この国の王城は見てのとおり崩壊した。
王家も見ての通り消滅した。
これよりこの国は、この俺の支配下におかれる事になる。
諸君はそのつもりでいてもらおう。
なお、抵抗するなら歓迎する。
是非、全力で立ち向かってきたまえ。
俺は俺の居城で君らを待とうではないか」
映像に驚いていた者達は、次にその内容に驚いた。
王城が破壊され、王家が消滅した。
それは国の崩壊を意味する。
しかも、映像であらわれた男が国を支配するといっている。
ざわめきがそこかしこから上がっていく。
そんな民の狼狽を無視してトモヒロの声は続く。
「なお、ここにやって来るまでの間にいた軍勢は全て倒した。
あの程度では俺を止める事は出来ないぞ。
もっと強力な軍勢をよこしてこい」
その言葉に視聴者は更に驚く。
「嘘だろ」
「でも、あれだけの事をやるなら、もしかしたら」
「ばかな、軍勢を蹴散らす事なんて出来るわけがない」
「いや、お城をあんだけ簡単に吹き飛ばしたんだ。
やってやれない事はないだろう」
今度は疑問と否定と肯定が入り乱れていく。
「それと、首都に集まっている軍勢はこれから蹴散らす。
軍隊の諸君、出来るだけの努力をしたまえ」
そう言って映像のトモヒロが両腕を広げた。
魔力が集まり光となって周辺に飛んでいく。
それらは軍勢の集結地に降り注いで衝撃を与えていく。
一つ一つが人一人をわけなく倒すほどの威力をもってる。
それが雨のように降り注いでいくのだ。
集まっていた軍勢は数分で消滅した。
それを見ていた首都の民は顔面蒼白になっていった。
首都陥落の報は各地にすぐに拡散していった。
トモヒロは軍勢は排除したが、それ以外はほとんど手を付けなかったからだ。
王城と国王が吹き飛んだので政治中枢は混乱状態に陥ったが、それでも最低限の活動は行われた。
首都にかろうじて残存した役人や貴族が、応急処置的に対応を開始したのは幸いであった。
それでも爵位で言えば男爵がせいぜい、役職でいえば課長が最高という状態である。
現状をどうにか維持するのが精一杯だった。
それでも周辺に事態を伝え、より上位の貴族に連絡をとろうとしたのは及第点を与えられてもよいだろう。
少なくとも叱責を受けるような事は何一つない。
おかげで国は混乱の中で潰える事を避ける事が出来た。
これだけの事をやらかしたトモヒロは、そのまま家まで直行、無事に帰宅した。
現在の居城となってる庭付き一戸建て(現代日本の住宅地にあるような大きさ)の中に入り、風呂に入る。
魔術を用いた湯沸かしが可能なそれは、水をすぐにお湯にかえてくれる。
「あー、いい運動した」
湯船につかりながらそんな事をいって背伸びをする。
久しぶりに体を動かしたという事が、疲労をともなった爽快感になっていた。
持てあまし気味の力をそれなりに解放できたのも大きい。
普段は下手に力を出さないようそれなりに気を使ってるので結構神経がすり減る。
今回、余計な心配をせずに思いっきりやれたので、精神的な開放感が大きい。
「たまにこれくらい暴れられればなあ……」
不穏な事を呟きながら湯船につかっていく。
今回、国一つ(正確には首都とそこに至る地域のみ)を壊滅させてようやく多少は気が晴れたという程度である。
この調子で暴れたら国が幾つか滅亡する。
それでようやく気が晴れるのだ。
そんな風に暴れないでもらえるのが、周辺国の多くの者達にとってはありがたいだろう。
なのだがトモヒロは辞めるつもりがない。
また今度、徹底的にやってみるかと思ってる。
「ようやくそれなりのものが手に入ってきたしなあ」
求めた栄達の入手も目的である。
異世界、転生ときてチートな能力を持っている。
ならば派手に功績を立てて栄達でもしてみるか、と思っていたのだ。
なのだが脅威となる存在もおらず、ほとんど何も出来ずに人生を費やしていた。
そんな状態を打破するために活動しているのだ。
倒すべきものが、何故か存在しない魔王やモンスターではなく、国王や軍隊となっているだけである。
そうして脅威(?)を倒して、今それなりの生活を手に入れている。
今回、国一つを手に入れたので更なる富が手に入るはずだった。
「そうなれば、もっと色々と出来るよなあ」
金銀財宝に権力は思いのままである。
何より、是非とも成立させたいものもある。
「ここで一気にハーレムを……!」
可愛い女の子から綺麗どころのお姉さんまで取りそろえたかった。
さすがに相手のいる女を無理矢理つれてくるつもりはない。
それに本人が拒絶するならその意思も尊重しようと思ってる。
無理に連れてきても良い結果になるとは思わない。
散々自分勝手をやっているが、何故かこのように別の面では控えめな事を考えてもいる。
その控えめな部分を自分達にも適用してくれと、今まで倒されてきた貴族や軍勢、そして国王などは思うだろう。
なのだが、世界への侵攻という事については分別らしきものを何一つ持ち合わせていない。
「次はどこに行くかな」
これからの侵攻方向を考えていく。
この世界にとっての受難はまだまだ続く事になる。