その24 悩みは尽きねど終わりはやってくる
順調とはいかなかったが、どうにか大陸一つを分裂させる事に成功した。
それを見計らって帰国したトモヒロは、二年ほど国内に留まってからまた別の大陸へと出向いていった。
この頃になると統治機関の者達も何も言わなくなってきた。
言っても無駄だったし、文句を言う必要性がないほど人員や機材の整備がすすんできたからである。
トモヒロの拡大拡張に、ようやく少しだけ統治機関などが追いついてきつつあった。
正確に言えば、拡張する事が出来た機能の範囲だけでどうにかするよう開き直った。
基本、手の届かない所は放置である。
今までもそうしてきていたのだが、この頃になると本格的にそうするようになってきた。
どうにかして混乱してる地域を吸収しようという意欲がなくなってきている。
混乱してる地域を放置するのも可哀想ではあるし、折角上手く分裂してるところが再統合されては機会を失ってしまう。
そういった様々な考えがありつつも、手の届かない部分はどうしようもないので後回しにするしかなかった。
その代わり、手に入る部分は確実に傘下におさめていった。
ゆるやかではあったが、トモヒロの国は確実に拡大拡張していった。
そしてある程度落ち着いてからトモヒロは再び他の大陸へと出向いていく。
その地にある国を崩壊させ、自分の勢力が広がる下地を作るために。
やる事は今までと変わらない。
障害になる何かが出て来る事もなく、今まで通りに物事は進んでいった。
各大陸の国境線が書き換わっていく。
技術の進歩も早く、既に産業革命の段階に突入している。
トモヒロがもたらした知識の検証も進み、様々な発明や発見も起こっている。
どうしても教えきれない部分を、この世界の人間が見つけてる。
その土台や基盤を与えたのはトモヒロであるが、この世界の人間が何もしてないという事は無い。
与えられたものを受け取り、身につけ、我がものとして駆使していっている。
それらがトモヒロが伝えきれなかった部分を補っていく。
この調子でいくならトモヒロがいなくなっても発展を続けるだろうと思えた。
既にトモヒロが知りうる限りの未来の知識も与えている。
それらが何をもたらすのかは未知数だが、この世界に大きな変化を与えるのは明白である。
存命中にトモヒロがそれを目にするかどうかは分からないが、このまま行くなら他とは隔絶した何かを手に入れていくだろう。
それを確信したトモヒロは、少しばかり安心した。
(これで生活水準は上がっていく)
かなり自己中心的なものであったが。
ただ、それでも無念に思う事もある。
(ネトゲまでは到達しそうにないな)
こればかりはどうしようもなかった。
生きてるうちに文明がそこまで到達するとはとても思えなかった。
例え知識があってもそれを形にするための技術がおいついてない。
急激な進歩をしてるとはいえ、どうしても時間がかかってしまう。
前世の世界において数百年をかけて発展したのだ。
この期間を縮めるのは容易ではない。
蒸気機関を実用化してるだけでも目を見張るものがあるのだ。
コンピューターまで到達するのはまだ先の事になるだろう。
(寿命もチートだったらいいんだけど)
そんな事も考えてしまう。
今の生活も同じ世界の他の多くと比べて格段に優れている。
だが、トモヒロの求める水準にはまだまだ遠かった。
それでも、現状にそれなりに満足しながら生きてはいける。
満足してるかと聞かれればそうでもないが、だからと言って不満があるわけでもない。
己の力を存分に発揮して好き勝手出来た。
事の善悪や是非はともかく、そんな事が出来る状況に文句を言うほど罰当たりでもない。
(まあ、これはこれで幸せか)
そう思って自分を誤魔化してるだけかもしれないとは思う。
だが、この状況を作り出したのが自分だという事も確かで、それがトモヒロの不満を大きく和らげていた。
高揚感をおぼえることもある。
チートな能力をたまたま得ていたから出来た事だが、間違いなく自分でやった事だ。
それが嬉しかった。
自分でも何かが出来るのだと思えた。
こうやって作り出したものが長続きするかどうかは分からない。
今現在でもかなりの無理やひずみが生じている。
急激な成長・拡大に伴う物資や人員不足は続いている。
組織や制度の熟成もまだまだなされてない。
全てがその場しのぎであり、問題の先送りしかしてないという事案もある。
これらが後々になって内部崩壊の原因になるかもしれなかった。
また、ハーレムでこさえた大量の子供達。
これらが継承者争いを起こす可能性もある。
外戚の干渉も復活するかもしれない。
トモヒロの死んだ後はどうなるか分からない。
外戚だけではなく、全てにおいてこれは言える。
トモヒロが無理矢理推し進めてきた事が全てご破算になる可能性は大きい。
何せ急造の組織だ、どこにだってほころびはある。
それを動かしながら修理して使ってるのだ。
長持ちするとはとても思えない。
何より、中に居る者達がどれだけ誠実に働いてくれるか分からない。
譜代の家臣などいないのだから、忠誠心は求められない。
たとえ何代にもわたって仕える者達であっても、上司がろくでもない奴なら愛想を尽かすだろう。
とりあえず配下の者達がトモヒロについていってる間はまだよい。
巨大な力を恐れて離反しないものもいるだろう。
トモヒロについていく事でえら利益が目的なものもいるだろう。
他に仕事もなく、やむなく続けてるものもいるだろう。
これらが悪いというわけではない、人として当たり前の態度と言えるのではにだろうか。
そんな彼らに、末代までの忠誠を求めるのが無理というものである。
まずもってそんな忠誠が当たり前という事もない。
これも不安要因だった。
時が経ち、何代も積み重ねて全てが安泰になるまでは不安が残る。
(それになあ……)
家でくつろぎながら思う。
最大の不安要素として浮かび上がるもの。
(俺みたいなチートがまた生まれるかもしれないし)
これがもっとも大きな懸念材料だった。
自分のような存在が再びやってくるかもしれない、というのは常につきまとう不安だった。
トモヒロが最初で最後の唯一無二の存在であるかどうかは分からないのだ。
そいつがトモヒロの作ったものを壊す可能性はあった。
(でもまあ、その時はその時だよな)
自分がやった事を他の誰かがやらかし、それによって作り上げた国が崩壊するかもしれない。
だとしても、それも仕方ないと思って受け止めるしかない。
生きてる間にそういった存在が出現したなら対処は出来るかもしれない。
だが、死後に出現したらどうにもならない。
その時は運命を受け入れるしかないだろう。
その時の子孫が可哀想だとは思うが、助ける事は出来ない。
(俺も散々やったしなあ)
そんな思いもある。
他の誰かが同じようにチート能力をもって同じような事をしでかしたとして、トモヒロに糾弾する事は出来ないだろう。
目の前にあらわれれば、開き直って対峙するだろうが、やってる事を非難する事は出来ない。
少なくともトモヒロから相手の行動にとやかく言う資格はないだろう。
(そうなったら、諦めて逃げろって伝えておくか)
遺言状に書くべき事が決まった。
そんなこんなであれこれやらかしたトモヒロは、その後134歳まで生きて没した。
平均寿命が50歳という時代において、化け物じみた長寿と言えた。
その間に九つある大陸の全ての国を崩壊させ、七大陸を支配下においた。
残る二つも、死後に後継者達が支配にのりだす。
しかし、国を支えていた最大の理由であるトモヒロの怪物としか言いようが無い力が消えた事で、土台が瓦解していく。
後継者達が自分の取り分を求めていったのも理由の一つである。
何より大きかったのは、もともと存在していた国がトモヒロの死を契機に独立運動を開始した事である。
これにより各地で様々な戦乱が起こっていく事になる。
それでも、一国にまとまってる事により利点を感じていた地域はトモヒロの国の中に留まろうとはしていた。
おかげでどうにかこうにかトモヒロの国はまとまっている事が出来た。
かなりもろくなってはいたが、どうにか国としては成り立っていた。
しかし時間の経過と共にこれらは綻びを大きくし、ついには崩壊をする。
代を重ね、後継者達の子孫も権勢を求めるのではなく、一致団結してまとまる事を選ぶようにはなっていた。
しかし、子孫間での絆があっても、それだけで国を保つのが難しくもなっていた。
やがてトモヒロの国は四つの大陸を維持するまでに後退していく。
それでもまだ大きな国ではあるのだが、それ以上の規模を維持するのが難しくなっていった。
まだ国としてどうにかまとまっている事が奇跡と言ってよい。
だが、支配下から離れた大陸では騒乱が起こっていく。
なまじ発展した科学がもたらす破壊力の高い武器が戦争を悲惨なものにしていった。
そんな大陸にトモヒロの国は介入し、平定と再支配を求めていく。
その合間の小康状態のような平穏と、次にやってくる騒乱を繰り返しながら、この世界は断続的な戦争を続けていった。
それらがある程度収まるのは、再びチート能力をもった転生者があらわれ、この世界を統一していくのを待つ事になる。
チートによって起こった混迷は、チートによって統べられていった。
何も考えずに適当な事をしようと思って書いた話はここで終わり。
本当に中身がなかったなと自分でも思う。
その場の勢いだけで書いたらどうなるのかがよく分かった。
そして、チートなまでの高い能力があるだけでは話が何一つ盛り上がらないというのもよく分かった。
これはこれで盛り上げるのが難しいもんだと痛感する。
ただ、とりあえずチートな強さをもつキャラを動かしてみて勉強にはなった(と思いたい)。
次に上手く活かしたい。