その21 暴れるだけではすまされない立場である
新大陸平定まで三年。
細切れに分裂した様々な勢力がひしめくようになった大陸で、トモヒロの国が最大規模にまでなっていた。
あとは時間をかけて統一していく事になるだろう。
それを見て、トモヒロは次の大陸を目指す……その前に一度自分の家へと戻っていた。
「ただいまー」
この三年の間に何度も帰ってきては繰り返した言葉である。
それを迎えるハーレム要員の女達と、その間に出来た子供達。
かなり増えたそれらは、一団となってトモヒロを迎える。
「おかえりなさい」
重なる声の多さに圧倒される。
まだ一歳にも満たない下の子から、そろそろ成人が近づいてきた者まで様々な年齢の子供がずらっと並ぶ。
こうして集まってくると、生まれてきた子供がどれだけ多いのかがよく分かる。
(我ながらがんばったもんだ)
こちらの方面でもチートなのか、無尽蔵といえるほどに励める自分が凄いと思った。
その成果と、その成果の協力者を眺め、今生における成功の一端をかみしめていった。
大陸二つを制圧したトモヒロの国は確実に巨大化していった。
地元の大陸も、北側の大半を掌握している。
新大陸の方はまだ全てを治めてるわけではないが、全体の30パーセントは支配下に入っていた。
順調にいけば、いずれ全てがトモヒロの領土となる。
その間にまた別の大陸に出向いて、領土を広げる下地を作るつもりだった。
波乱を起こして楽しむという当初の目的が薄れてきてるが、こればかりは仕方ない。
かつての日本のような生活水準を取り戻したいという目的もあるのだ。
それを推進しようとしたら、文明そのものを発展させるしかなくなる。
その為には国家規模で全てに取り組まねばならない。
日本でいう平安時代後期から室町時代後期、どんなに頑張っても江戸時代初期になるかならないかという段階を向上させるのは並大抵の努力ではどうにもならない。
個人がいくら知識を拡散しても追いつかない。
だからこそトモヒロは、自分の生活を保つためだけに無理矢理作った統治機構を、世界支配のための機関にせざるえなかった。
ただ、それでも努力の成果は少しずつ見え始めてきてはいた。
求める段階にはまだ遠いが、急速な進歩を見せてるのは確かである。
魔術によって見つけた資源を採掘し、それらを加工していく体制がととのってきている。
以前に比べれば莫大といってよい産出量が生み出す工業化は、国を確実に変えてきていた。
何とか実用化された蒸気機関が、あちこちで用いられ始めている。
初歩的ではあるが、機関車による鉄道も作られていく。
鉄鋼を使った高層建築(とはいえ五階建てが今のところ限界)も生まれ始めている。
わずか十数年でここまで到達出来たのはなかなかの成果と言えるだろう。
技術開発に投じた予算と人員が報われる。
特に、開発に尽力していた者達の血と汗とブラック企業ばりの奮闘ぶりは、涙無くして語れないし聞けない内容になっている。
そこまでやらせたトモヒロはたいがいであろう。
だが、結果は満足出来るものとなっている。
トモヒロの国は確実に産業革命を迎えていこうとしている。
技術の普及はこれからだが、それも時間が解決していくだろう。
産業技術だけではない。
農薬や品種改良などで農業生産の向上も目指している。
こちらもまだまだこれからだが、いずれどうにかなるだろうとは思われていた。
伝えるべき知識は既に渡されてるので、あとは研究体制がととのうのを待つ状態でもある。
その為の基礎研究も進めている。
他の分野でも同じように様々な知識を提供している。
チート能力がもたらす情報は多岐にわたる。
それらをこの世界の人間が本当に解明して理解するまで時間はかかるが、いずれ達成するだろう。
(それまでは、もう少し付近を荒らしておくか)
物騒な事を考えながら、トモヒロは家の中に入っていく。
しばらくは結果を待ちながらのんびりしようと思いつつ。
実際には、のんびりするどころか、内政関係であちこちに呼ばれたりするのであまり落ち着いてもいられなかった。
何せ知識についてはトモヒロが提供してるものだから、一般人からすれば理解が及ばないところがある。
研究や実験などもなされてるが、それらの正否を判定してもらう必要があった。
それらにはさすがに顔を出さねばならず、トモヒロも寝転がっているわけにもいかなかった。
領地の統治もある。
いくら統治機構が実際に治めてるとはいえ、それらからあがってくる報告を受け、指示を出す必要もある。
相談される事も多く、全てを任せるというわけにもいかなかった。
他国を滅ぼして世界を混乱させてるのはトモヒロだし、それらを回収して統治しろと言ってるのもトモヒロだ。
それを全て統治機関に丸投げするわけにもいかない。
好き勝手やってはいるが、本当に全てを自分勝手にやれるほどトモヒロは我が儘にはなれなかった。
やった以上は出来る範囲で責任をとろうと思う程度の気持ちはあった。
手の届かないところはどうにも出来ないし、そういった物事を切り捨てるくらいの冷淡さもあったが。
その大半は、崩壊した統治体制のせいで悲惨な境遇に陥ってる地域などであった。
必要な物資が届かなかったり、治安が悪化したりして生活環境が最悪のところまで落ちてる地域は多い。
有力者がまとめあげてどうにかなってる所もあるが、統一を目指しての小競り合いも起こっている。
その為に兵隊として男手がとられ、未亡人や身寄りのない子供が増えたりもしていた。
これらをトモヒロは『手が届かない』という事で見捨てていた。
いずれ統治機構がそこまで手を伸ばすだろうが、それまでは放置される事になる。
トモヒロの努力はそこまで及ばない。
手の届く範囲というのが示すのは、こういう事であった。
そして統治機構によって掌握された地域であっても、必要な措置がとられるというわけでもない。
どうしても後回しにされる地域は出てくる。
単純に人手も物資も足りないからなのだが、実質的に見捨てられる地域は出てくる。
それらが以前の水準を取り戻すまでには、やはり時間がかかってしまう。
待たされる方はたまたったものではないだろう。
それでも、いずれ救われる可能性がある者達はまだ良い。
何時終わるともしれない無法地帯に放り込まれてる者達よりは。
救いのない悲惨な状況で、明日を迎えるどころか今日を無事に終えられるかどうかも分からない者達よりは恵まれている。
何にしろ、トモヒロがやった事でこうなってるのだから不幸というしかない。
トモヒロが忙しいのも、やった事の当然の報いなので同情の余地は無い。
「今日は何があるやら」
やらねばならない仕事がどれだけたまってるのか考えて、トモヒロは気持ちが落ち込んでいく。
好き勝手やるつもりがそうでもない状況になっている。
やむなき事とはいえ、おかしなものだと思ってしまう。
それでも再びネトゲなどで遊ぶために今日という日に立ち向かっていく。
理由としてはいかがな物なのかというところだが、何であれ目的があるから頑張れるというのもある。
世の中を崩壊させてるという大問題はあるが、壊したままにしないというのがせめてもの救いにはなるだろう。
それに、今までより発展もさせようとしてるのも確かである。
あくまで自分の欲望のためであるが、他の誰かの利益にもなるのだから、多少は評価出来るだろう。
「良い報告があがればいいけど」
実験の成功とかそういったものであればと思いながら、仕事場へと向かっていく。
おそらく山積みになってるだろう仕事を想像しながら。