その2 主人公、暴れる
さて、トモヒロの支配した(というか領主を物理的に排除しただけ)の地域がどれくらいの規模なのかを説明したい。
トモヒロが倒した地元の領主が、概ね町内会くらいの規模である。
これに一村十数戸の村が三つ四つついている。
更にその上の領主はこの規模の領主を数人従えている。
それらの中心地となる居を構えた町は、人口数百人となっている。
現代日本の市町村の数分の一という規模であろうか。
今、この規模の領地を更に幾つか手に入れ、更に上に位置する領主を倒そうとしている。
いわゆる市町村の規模に挑戦という事になる。
これくらいの規模の地域を支配して、ようやく貴族らしい貴族と言えるようになる。
今、トモヒロはここに挑戦し、そして勝利した。
「うーん、呆気ない」
呆れるほど簡単だった。
一応御家人や兵士が集まり、武装して待機はしていた。
起こってる事態への対処を考えての事だったのだろう。
なのだが、数十人程度の兵力ではトモヒロの敵にはならない。
ほとんど全てが一撃で吹き飛んでいった。
おかげでトモヒロは呆気なく市町村規模の地域を掌握する事となる。
「こんな簡単でいいのかな?」
そう悩んでしまうほどであった。
そんなこんなで支配地域が一気に拡大したのだが、ここで問題が出てくる。
手に入れた地域をどうやって統治するのかだ。
一応チート能力保持者らしく、それなりの知識は頭の中に入ってる。
何故か色々な方策が頭に浮かんでくるのだ。
(こういう部分でもチートなのかな)
だとすれば、単なる力自慢というだけではないようだ。
内政や科学的な発明でもチートを実現してしまうかもしれない。
この世界特有の魔術の分野でも大きな進歩を促すかもしれない。
だが、トモヒロはそれらについてある程度見切りを付けていく。
「税率30パーセントでやれる事をやれ。
とりあえず、街道や上下水道の保全はしっかりやれ。
治安も維持しろ。
それと、商人や職人が活躍出来ないんじゃ意味がない。
商売をしたい奴にはどんどんやらせろ。
職人も誰がなろうとかまわん。
やりたい奴が自分の用意できる元手で好きなようにさせろ。
問題を起こしたら責任はとらせるけどな」
そう言ってあとは生き残っていた役人などに丸投げにした。
一々統治まで口を出してるのは面倒である。
それに、トモヒロがやりたいのは統治ではない。
世の中に波乱を起こして活躍の機会を作る事である。
面倒な事は他の連中にやらせておけば良いと考えていた。
なので、こんな大雑把な指示を出して、あとは全て放り出した。
これらをまとめると、治安維持と職業選択の自由と楽市楽座。
だいたいこのあたりにまとまるだろうか。
それをどうやってやるかは役人に任せ、トモヒロは更に近隣の領主の所へと向かっていった。
残された役人は、
「どうするよ……?」
「まあ、言われたとおりにやっておこう」
と言って言われた事を忠実に実現していこうとする。
謀反人に従うのは気が引けるが、逆らう事も出来ない。
なので、言われた事を渋々ながら引き受けるしかなかった。
「さて、次は……」
領主のところで見つけた地図をもとに次の目標の所へと向かっていく。
とりあえずやるのは各地の領主を倒していくこと。
それで統治機構を破壊すること。
そうすれば世の中少しは波乱が起こるだろうという、言ってしまえばそれだけが目的での破壊活動である。
持てあましているチート能力を発揮するためとはいえ、その為だけに統治機構に喧嘩を売るのだからどうしようもない。
撃破される領主とその身辺警護などについてる者達が可哀想である。
しかし、そんな事はかまわずトモヒロは先へと進む。
正確さなど欠片もない地図を見て愚痴りながら。
「……この地図だけはちゃんと測量させてしっかりしたものを作らせないとな」
後日、チート能力のおかげであろう測量知識と技術を伝授する事になる。
おかげで、正確な地図が後年出来上がる事になった。
こんな調子で半年ほど暴れ回った結果、現代日本でいう都道府県の一つが手に入る事になった。
その間、トモヒロのやった事といえば、暴れ回って領主を吹き飛ばし、大雑把極まる指示を出した事だけである。
追加で、
「俺の生活費は確保しておけよ」
というのも加わった。
だが、言ってしまえばそれだけしかない。
制限は、税率30パーセントと治安維持と街道や上下水道などの社会基盤の整備だけ。
あとは任された役人の好き放題に出来るという事でもある。
締め付けがなく恐ろしく自由が大きい。
ならば横領や着服、賄賂に収賄、汚職でもしようかとなるが、それがそうもいかない。
これもチート能力なのか、魔術やもってる技術を駆使して悪さを正確に見抜いていく。
そして悪事の首謀者は、倒されていった領主と同じく地平線や空の彼方へと吹き飛んでいく。
「職権濫用するんじゃねえっての」
そんな事を言って汚職役人などを倒していった。
こういった活動のおかげで、トモヒロの領地では汚職などが少なくなっていった。
また、商人などからの付け届けに対しても、
「おう、ありがとう。
でも、便宜をはかったりしないから!」
と言って貰えるものだけをもらって見返りは与えなかった。
賄賂を理由に投獄もしなかったが、利益がないと分かると商人達は付け届けをしなくなった。
見返りがないのでは金を出す意味がない。
トモヒロの配下に送っても同じ事だった。
それで便宜を図るようならトモヒロは容赦なく制裁を下していく。
なので、役人も付け届けによって有利な条件を作ったりはしなかった。
言うまでもないが、役人などの方から賄賂を要求したら、トモヒロが容赦のない制裁をする。
なのでこのあたりは商人も気楽であった。
商人もだんだんと商売の事だけを考えるようになっていく。
純然たる商売活動だけがトモヒロの領内で勢力を伸ばす手段となっていった。
ありとあらゆる産業においても同様だった。
賄賂などで何かが有利になることはない。
賄賂を要求されることもない。
なので自分の仕事に専念していれば良い。
これはこれで心地よい状態だった。
「前より良くないか?」
そんな声もちらほら上がっていた。
ただ、既得権を得ていた者達は、自由参入が可能になった事で大分痛手をくらいはした。
そういった者達からの評判はかなり悪かった。
おかげで、秩序の破壊者などと呼ばれてもいる。
このあたり利を得たか損を被ったかで評価が分かれるのだろう。
当の本人は、そういた事を考えず、己の思うがままに動ければそれで満足なだけであるのだが。
ただ、トモヒロも現状で満足してるかというとそうでもない。
何せ生活水準が低い。
この世界では高い方ではあるのだが、現代日本に来ればればどうしても物足りない。
ありとあらゆる部分で不満が出て来る。
その為、ここを改善するために持てる知識を惜しげもなく拡散していった。
科学知識に技術的な見解などなど。
提供して困るような事は何一つない。
トモヒロの強さとそれらは特に関連性はない。
隔絶した身体や魔術の能力が強さなのだから。
むしろ知識や技術がひろまって生活が便利になってくれた方がありがたい。
「早くネットゲームが出来上がらないかな」
日本で言えば平安から室町あたりの技術段階の世界に、とんでもなく高い水準を要求していく。
確かに知識や技術は一気に高まったが、それらが実を結ぶのはまだ先の話である。
そんなトモヒロのやってる事に、さすがに国の方も動き出す。
都道府県が一つ支配下を離れたのだから当然だろう。
国はすぐに情報収集につとめ、万が一に備えて軍勢の動員も始めていく。
既にあちこちから情報が流れ込み始めてる。
トモヒロも特に防諜体制をしいてるわけではない。
自分が何をしてるのかは他に流れるようにしている。
でなければ面白くないという理由による。
「少しは騒々しくなってきたかな」
そう思いながらトモヒロは、これから行われるであろう大きな騒ぎを想像して笑みを浮かべた。