その15 決戦であるのだが、展開は一方的すぎてどうしようもなかった
迎えた激突の日。
大陸北側連合軍総勢32万。
対するトモヒロ、一人。
あまりにもあんまりな人数差である。
あらわれたトモヒロを見つめる北側の兵士は唖然とした。
「本当に一人なのか?」
「いや、まさか」
「他に伏兵がいるんじゃないのか?」
「隠れてる可能性はあるが……」
「でも、だからってそれほど数多くが潜んでるとは思えないぞ」
自分達の規模を考えれば、やはり同数の兵力を用意するのが普通だと考える。
トモヒロもおそらく見えない所に兵力を展開してるのだと誰もが思った。
だとしても、30万はいるであろう兵力を見えないように配置する事が出来るとも思えない。
「いったい、何が考えてる?」
話には聞いていてもいまだにトモヒロの力を完全には把握してない北側連合は、トモヒロの意図が全く読めなかった。
そんな敵に向かって、トモヒロは魔術で強化した身体能力でもって突撃していく。
「行くぞー!」
その声を聞いた兵士は即座に構える。
が無意味だった。
トモヒロに対抗できるような一般人はいない。
どれほど訓練を積み上げた兵士であってもそれは同じだ。
横方向にほとばしる稲妻を受けて前線が次々に崩壊していく。
そこに魔力の流れを感じた魔術師が対抗していこうとするが、すぐにトモヒロの力量に気付いていく。
「なんだこの魔力は?!」
数十人、数百人が合わせてもとうてい及ばない魔力の巨大さ。
それを実際に前にして、彼らはすくみ上がった。
各国から集まった1万を超す魔術師が。
それでも魔術師を束ねる者は、対抗するために魔術を集めるよう指示していく。
それを相手にぶつけるために。
彼らが用いる事が出来る最大の魔術を行使するために。
それを見てトモヒロは、最前線にいた兵士達を吹き飛ばし様子を見ていく。
周囲にいた兵士は、動きを止めたトモヒロを遠巻きに囲んで動かない。
突っ込んでもどうにもならないのが目に見えてるからである。
また、後方にいる魔術師が広範囲に影響を及ぼす巨大な魔術を用いようとしてるのも伝達されたからだ。
それに巻き込まれないように距離を置いていく。
「化け物が」
「だが、あれを食らったら終わりだ」
自分達の軍勢に加わってる魔術師達の攻撃を待ちながら、そんな事を呟いていく。
集まった魔力は巨大な力に変換されてトモヒロに襲いかかる。
純粋のなエネルギーの集合体であるそれは、光輝く巨大な弾丸となってトモヒロに襲いかかった。
トモヒロはそれに対して、己の魔力を集めて壁を作って対抗する。
両者の激突は衝撃を発生する事なく互いを打ち消し合っていく。
光となってあらわれた魔力は、同じく光となってあらわれた壁との接触面で蒸発していく。
北側連合の光の弾は、そうして消えていった。
後には少し付かれた顔をしているトモヒロが残っている。
「それじゃあ、こっちからも行くぞ!」
そう言ってトモヒロは、再び集めた魔力を前面に展開している敵部隊に向かって放射状に放った。
押し寄せる壁となって広がっていく魔力は、最前線から数百メートルほど進んでいった。
その間に存在していた兵士はすべからく消滅している。
「さあ、どんどん行くぞ!」
魔力で拡大された音声が戦場全域に、展開してる軍勢全体に伝わっていく。
それと同時にトモヒロは、魔力の衝撃波を次々に展開していく。
それに吹き飛ばされて、軍勢が壊滅していく。
あわてて魔術師がそれを遮ろうと魔力を集めてトモヒロにぶつけるが、全て無駄に終わる。
一万人の魔術師の力がたった一人によって退けられてしまっていた。
「バカな」
誰もがそう思ったが目の前の現実は変わらない。
無人のを行くがごとく歩くトモヒロを止められる者はいなかった。
それでも軍勢はまだ逃げる事をせずに立ち向かっていこうとする。
周囲を取り囲み、一斉に襲いかかっていく。
だが、それらは全て無駄に終わる。
魔力を次々に放射するトモヒロに誰もたどり着けない。
「こんなバカな!」
連合軍総司令官の絶叫が響く。
自分達が相手にしてる存在の、あまりにも隔絶した力を前にして。
それから三時間後。
大陸北側連合軍は壊滅した。
数千人という、全体からすれば少数の生き残りを残して。
それらは帰還して起こった事を伝え、最後の役割を果たした。
兵力の大半を抽出して事にあたった北側連合に、これ以上の作戦続行は不可能である。
国家はまだ残っているが、事実上抵抗の全ては終わった。
「それじゃ、今度はこっちから出向くから、待っていてね」
後日届いたトモヒロからの使者は、たったこれだけの伝言を持参して北側連合に出向いてきた。
それらを北側各国は泣きそうな気持ちで受け取った。
それからトモヒロが北側を平定するまで三年。
少しずつ削りながら無政府地帯を増やしていった。
その間、各国は和平を提案し、恭順を主張したがトモヒロは聞き入れなかった。
「倒して手に入れればいいから、別にあなた達は必要ない」
というのが返事だった。
そのことに各国首脳部は落胆した。
どうあがいても相容れないのだと。