その10 ハーレムで欲望を満たしてる間は少しだけ平和だったが、他国は対策をあまり進めてなかった
それから二年ほど平穏な日々が続いた。
表だってトモヒロが暴れなかったので、騒乱はひとまず収まっている。
それがもたらした問題は片付かないまま残ってはいるが、それでも少しずつ落ち着きを取り戻そうとしていた。
トモヒロの統治機構は少しずつではあるが周辺地域を取り込み、規模を拡大していく。
トモヒロの肝いりで設立された学校が、これに必要な人材育成を助けていた。
「国民が読み書きと計算が出来ないんじゃ駄目だろ」
と言って出来るところから普及を始めていった。
最初は町に学習塾程度の規模の物を作り、数十人くらいの子供を集めて教育をしていった。
あちこちに点在する村からは数人の子供を集めて町の学校などに送り込んだ。
それらが寝泊まりする宿舎なども用意して。
どこの村も三男四男以降は穀潰し扱いだったりするので、集めるのはそれほど難しくはなかった。
それらに基本的な教育を施していき、それなりに使えるようにする。
一年二年ではどうしようもないが、これが五年もすればそれなりになる。
そこからさらに上等教育、高等教育を施せばかなりのものになる。
大学まで入ってくれるならなお良しである。
このあたりは現代日本の教育制度などを参考にして育成をしていた。
とはいえ、義務教育にまでは至ってない。
義務に出来る程の余力がないのだ。
庶民の生活水準が上がらなければ、子供を教育する余裕も出てこない。
「教育って、裕福になって出来る贅沢なんだな」
自分がやってる時には苦痛でしかなかったが、施す立場になると見方が変わった。
実際、子供達全員に教育を施すのは難しい。
徴収する税からどうにかして費用を捻出してるが、結構ギリギリになってしまっている。
他にも社会基盤の整備や治安の維持、国民の名簿登録(戸籍)などと合わせて考えると、意外と余裕がない。
更に科学研究なども進めさせており、こちらにも金を始めとした資本(原料に人員など含む)をとられもする。
何処に何を投入するかは頭を使っていた。
そんなわけで、下手に拡大拡張に走るわけにもいかず、ハーレムで欲望を満たすに留まっていた。
下手に国を滅ぼしても、そこを統治する為の人員が足りないし、それらを保つための余裕が無い。
おかげで世界はとりあえず平和であった。
トモヒロが再び何かを始めるまでは、余裕が出てくるまでは。
おかげといって良いかどうか分からないが、トモヒロはこの二年で8人の子供を得る事となった。
妊娠中の我が子は11人である。
なお、ハーレムに入ってる女の家族や親戚が大きな顔をしないように、家族は全て公職などに就けないようにしてあった。
外戚による国政壟断という恒例行事はすべからく排除していかねばならなかった。
折角軌道にのってきてる国の運営を、くだらない横やりで失うのもバカバカしい。
トモヒロとしてはこのまま順調に発展していって、ネットゲームが出来るようになるまで頑張りたいところだった。
それが無理でも、伝えておいて活版印刷による文物の大量発生と、それにともなうラノベや漫画の普及まではもっていきたかった。
それを邪魔するあらゆる存在を寄せ付けない、排除出来る状況はほしかった。
なので、特権意識をもったり、特権になるようなものを可能な限り排除していこうとしていた。
トモヒロの子供の母親──その家族という立場だけでも特権になりかねない。
だからこそ、それらが立場を利用して強気に出るのを阻止していった。
実際、そういう事をしでかす輩もいた。
その時にはトモヒロは容赦なくその家族を殲滅した。
ハーレム要員と生まれた我が子も含めて。
絞首台に吊されて公開されたそれらを見て、他のハーレム要員やその家族は考えをあらためた。
トモヒロにとりいっても、それほどの特権はないのだと。
トモヒロによる、
「俺に取り入ったつもりかもしれんが、それを笠に着るバカはこうなる」
という発言も大きな衝撃をもたらした。
ハーレムに入って保証されるのは、ハーレム要員の生活くらいであるとこの一件で理解せざるえなくなった。
そして、二年の月日は他国にそれなりの協調関係(打算と妥協の集合体)をもたらし、トモヒロに対抗する体制の構築をさせていった。
ともかく一国だけで対抗するのは不可能である、という認識のもと、どうにかこうにか合同して事に当たろうという所までは到達していた。
それでも足並みを揃える事は出来てないが、一応とはいえ強力関係が作れたのは大きい。
ここに至るには残存王族達の活動があった。
実際に被害にあい、何があったのかを断片的にでも実体験した者達である。
その言葉と必死さには説得力があった。
「このままでは世界が滅びます!」
「あれこそ、おとぎ話の魔王そのものです!」
トモヒロに対する適切な評価は、最初は一笑に付されていたが、実際に行われてる破壊と殲滅を見れば考えも変わる。
変わらざるえなかった。
突如として地方が崩壊し、国が崩壊し、周辺国まで崩壊していく。
おびただしい軍勢を動員したのならともかく、そんなものが出回ってる気配もない。
第一、軍勢との対決ならばそれなりの時間がかかる。
何より、同程度の装備や能力であれば、戦って完全に敗北するという事もありえない。
文字通りの全滅などそう簡単に発生しない。
数において圧倒する大量の軍勢が相手ならともかくだ。
それらが動いたという形跡もない。
もしあったならば、合戦跡地に大量の死体が転がるだろう。
そんなものがそもそもない。
それに、大量の軍勢が動くとなっても、それらが展開出来る範囲が限られる。
大勢の軍勢と言えども一度に展開出来る数には限りがある。
さすがに一国の軍勢が即座に壊滅するほどの数を一度にひろげるのは無理がある。
それらが移動した形跡も発見されない事から、大量の軍勢があらわれた、という可能性は否定せざるえない。
単純に考えて、それだけの人間なり騎馬なりが移動するなら、足跡が絶対に残る。
道の整備も必要だ。
それを保つための兵糧などの物資と、それを運搬する手段も必要になる。
とてもじゃないが、それだけのものがどこからともなく現れるなんて考えられなかった。
これらの情報が並ぶ事で、残存王族の発言にも信憑性を感じるものが現れていった。
とんでもない一人によって国が滅んだという、どう考えても信じがたい話がだ。
そうでもなければ説明がつかないような事態が目の前にあるのだ。
もしや、まさか、と思いつつも、危機感をおぼえた者達が手を取り合っていった。
最初は小さな協調関係だったそれらであるが、そこに参入する者があらわれていく。
それなりの大きさの集まりになった時、大国と呼ばれる者達も動き出していった。
それは、出来上がってきた協調関係を自国の利益にとりこむためであったが。
そういった思惑を退け、単純にトモヒロへの対抗手段として結束するという方針を貫き続けた協調各国は立派であった。
既にこの頃には大国と同等なまでの規模にまで協調関係が育っていたからでもある。
ここに大国達もやむなくではあるが協調関係との連合を模索していく。
トモヒロとの対決姿勢を、ようやく作るに至った。
いまだに前途多難な状態ではあったが。
そんな各国の流れをよそに、トモヒロは生まれた我が子と、生まれてくる子が宿る大きなお腹を眺めていた。
特段子供達を可愛がるというところを見せないトモヒロだが、それらを見ていると考えるものはある。
(こいつらがまともに生きていける状態は作っておきたいもんだ)
内部崩壊も外部からの侵略もはねつける事が出来る状態。
それをどうにかして作りたかった。
その為にも、国内の制度などを整備し、適切な考え(思想)をひろめていかねばならない。
制度を保つのは人であり、人が腐ってしまえば制度を悪用される。
そして、制度を悪用しようとするものをどうにかおさえつけるのもまた制度である。
優先するべきは人であるが、それを揃えるためにもやらねばならない事がある。
(とりあえず、他の国をもう少し削っておくか)
各国の協調関係についてはトモヒロの耳にも入っている。
これらをまずはどうにかして、時間を稼がねばならない。
人も制度もまだまだ完璧ではない。
これらを少しでも機能させるまでの時間を得るために、邪魔者を排除せねばならなかった。
国内の亡国奴も含めて。
チートな力をもっているとはいえ、こういった問題を解決するのは手間がかかる。
それでもトモヒロは、国内の問題へと向かっていく。
国を食い物にしようとする連中は後を絶たない。
それらを殲滅しない事には落ち着いて行動も出来ない。
足下の安泰こそが、外に向かっていくために必要な条件になる。
何はともあれ子供がまともに生きていける状況作りのためである。
これから一ヶ月後。
トモヒロは国内における内憂を掃除した。
政府権力を用いた利権・汚職をはかった者達は、家族ともども絞首台に吊されて公開された。
賄賂などで利権を確保しようとした商人も一族皆殺しとなった。
トモヒロが提供した知識を独占し、これを利権としていた学者や研究者も同様である。
技術提供をしていた工房も、同様の事をしてれば同じ目にあった。
魔術を用いて心のうちまで見透かすトモヒロを騙す事は誰にも出来ない。
利権の独占により優位性を確保しようとしていた連中は、軒並みつるし上げられた。
それを見た他の者達は、利権の確保の為に権力を利用しようとするのをやめた。
その結果が一族もろとも縛り首では割に合わない。
処刑対象に、いまわの際の老人から生まれたばかりの赤子まで含まれてる容赦のなさを見れば、嫌でも馬鹿げた考えを放棄せざるえなかった。
その中には、かつての功労者も含まれていたのだからなおさらだ。
功労者当人は誠実であっても、その子や一族がバカをやれば連帯責任でつるし上げである。
例外がない事をこの一事をもって理解していった。
結果として、家族や一族の中に不心得者がいないか、いたら即座にトモヒロ(の直属機関)に訴えるようになった。
事前に訴えれば当該者以外は免除としたのが通報を促していた。
全てが片付いたわけではないが、国内の問題はこれで概ね沈静化していった。




