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出会いとヒビ

アルファポリスの方にも掲載させてみてもらってます。

もし良かったら感想などいただけたら嬉しいです(強請ってゆくスタイル


少し加筆しました。大きな内容の変更はないと思われますが、よろしくお願いします。





握った拳から肘くらいまである串焼きを、なんとか一本食べ終わる。胃袋に空きがなくなったので、結局ハリがもう一本を完食した。


「食休みに作戦会議といきますか。」


「はい、ハリさん。」


「なんですかマスター。」


「怒らないで聞いてください。」


「事によります。」


「絶対怒るやつ……。」


「話してみたらいがいと怒らないかも知れませんよ。」


爽やかな笑顔。

私は学んだ。あれはきっと作り笑いだということを。

しかし話さないと進まないのでここは怒られておこう。笑顔を作りながら言った。



「この話、あらすじと導入だけしか思い出せない。」



「…………」


「そのスンッて無表情になるのやめてったらあ……」


やっぱり怒った、と頭を槍から守りにかかる。

身構えたが、口元に手を当て何か考えているようなハリ。


「いや殴りませんよ。むしろ想定内ですからね。」


「えっ?」


「どうあれ未完結なのは変わりないですから、どこから始めるかの違いでしょう。」


マスター飽きるの早いですからねと小言も添えられはしたが、怒っているようではないらしく安心する。


「問題はここからどうするかですが、なんか当てはあるんですか。」


「当てかー……あ、ある。」


「驚いた。マスターなのに。」


「ひどい」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






ここは湖の観光地、シニヨン。

赤煉瓦と白い石畳の街。

だがディトォは知る由もないことだった。


何故ならフラスコから生まれて暫くは森をさまよい、人に会ったと思えば避けられたからである。


流れ着いた街がここだった。

ディトォの美貌に目を引かれるものの、泥だらけの衣装の異様さに誰も話しかけない。



その中で一人だけ、その少女だけは違った。



「あらあなた!お腹空いた顔してるわね。うちなら食べてる間に洗濯もしてあげられるわ。寄っていかない?」


客引きだろうか。そう言う役目のある人間がいることは知っていた。軒下から声をかけている。


「……僕に言ったの?」


「ふふふ。お腹空いた顔してお洋服を泥だらけにしてるのはあなたしかいないわ?」


いいからいらっしゃいと背中を押して室内へ招かれる。

看板があり宿屋、と書いてある。

うち、とは宿屋のことらしい。

赤いターバンとエプロンがふわりと舞った。


「はい着替えよ。こっちが靴。うちの弟のだから少し小さいかも知れないわ。今ご飯用意してくるから着替えててね。」


従業員の使う部屋らしきところに入り服を手渡された。

少女をみる。


「いいの」


にこりと笑う少女。後ろで一つにした薄い金髪がふわふわと広がる。

服を持たされた手をポンポンと叩くと、きゅっと握られた。


「いいのよ」


案内された部屋で着替えをし、汚れた服を持って扉を開けると、香りがしてきた。

なんの香りがわからなかったが、嗅いだ途端腹から音がした。


「やっぱりお腹減ってたのね。」


「これがお腹が減っている状態。」


「いい音が聞こえたもの。……まさかお腹減ったことがないなんて言わないわよね?」


「知識としては知っていたけど体験するのは初めて。」


「まあ!もしかして貴族の方かしら。ここじゃ珍しくないもの。お腹減る暇がないくらいに食べていたの?さ、ここに座って?」


宿屋の一階は受付をするカウンターと、食堂のようになっていた。

その一角に腰を下ろすと、目の前に皿に盛られた茶色の何かを差し出される。


「皿。これは知ってる。皿に載せるのは料理。これは料理?」


「ええ。ここの名物牛の煮込みね。食べたことあるかしら?美味しく召し上がって。」


「食べるのは初めて。」


牛の煮込みを、ではなく、食べること自体初めてだったが少女にそれを知るすべはない。


「そうだ。食べる前に儀式があるんだった。ここはなんの神様を祀っているの?」


「ああ、食べる前のお祈りね?他の国から来たの?ここはわりと色んな人がくるから大体『神様』でいいわ。作法というか、私が『美味しく召し上がって』っていったら『ご飯をありがとう』って言うの。」



「『ご飯をありがとう。』」



またにこりと笑顔になる少女。



「『貴方の為になりますように。』」



「なるほど。次からそうするね。……僕はディトォ。君の名前は?」


「私はマーシャよ。よろしくね、ディトォ。」


「よろしく、マーシャ。」


「ふふ。熱いうちに食べて?」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「なるほど。あの子は登場人物なんですね?」


「あっぶねー……もう出会ってたー。間一髪だったー」


「でもこれで警戒対象が増えましたね。あと何人くらいいるんです?」


「…………」


「マスター?」


「あっ、石突きでこんこんしないで?忘れましたごめんなさい」


「あんまり喋ると変人に思われちゃいますよー」


「こんこんするのやめてやって?」


紺たちは今、ディトォとマーシャのいる宿屋の斜め前の路地から顔を出している。

会話は思い出すことができたので、ほどほどに距離を置いていた。

道幅が広いので声は届かないが、あまりに騒いでいれば不審者で通報案件である。

他人から見れば盛大な独り言なので控えたいところ。


「あらすじはわかるけどなーどんなキャラがどんな順番で出たかがわかんないんだよなー」


「割と全部ですよね。愛がないよなあ。」


「愛はあるんだけど数が多すぎて時々忘れちゃうだけ。」


「すごい最低なこと言ってる自覚あります?」


こくりと頷くと石突きが降って来た。

ぎりぎり痛い、だか言うほどではないレベルの打撃をこつこつ当ててくる。


「そのあらすじってやつを、まだ共有してないですよ。」


「そかそか。そうだった。いてっ」


最後にこんっと突いてから、あらすじの共有をする。


ハリは私の頭の中と同期しているわけではないから、判明しているこの世界のルール以外のことは、いまのところ口頭で情報を交換するしかない現状だ。


「そんな感じ。……どしたのハリさん。」


「どしたも何も……あらすじが荒すぎてほぼ現状と一緒じゃないですか……まあエンディングが分かっただけでもいいか……」


「説明下手くそだからー」


「それ以前の問題でしょう。なんやかんやあってってのが多すぎるんですよ。なんですかそれ。」


「あとでキャラが増やせるかと思って」


「この後付け作者。」


「やだ……ぐうの音も出ない……」


「ふざけてると女神がまた催促に来ますよ。それもペナルティつきで。」


「ひぇ」


言われて思い出す。そういえばそんなことをいっていたっけ。

恐ろしいことに女神はペナルティの内容を何も告げて行かなかった。

想像だけが独り歩きをして動悸までしてくる。十分効果のある警告だった。

一体何をされるというのだろう。


「待ってね。真面目にやります。この後ね、あの宿屋で三ヶ月くらい置いてもらえるはずだからディトォは。私らも近くに拠点作った方がいいと思うのよ。うん。」


「……拠点はいいですけど、時間経過なんかはマスターの文章力でいくらでもイジれるんじゃないですか。」


「そっか、そっか、よし。えーと……キャラクターは何人まで出していい?」


「………………三人くらいまでなら。」


「すっくねえ!七人!」


「四人。」


「六人!」


「四人。」


「あれぇ??普通ここは間とって五人くらいになる流れじゃない??」


値切り交渉のようになったが、ハリはお約束に乗ってくれなかったようだ。


「もしかして、反省って言葉をご存じない?」


「いてててててて」


ここここここんとドラムロールが如くリズミカルに石突きで紺をどつくハリ。


「あててて!じゃ、じゃあモブは?!数に入らないよね??」


「まー感心しますねまだ食い下がる。あれですか、性癖?」


ちなみにモブとは、漫画やアニメの中で名前が明かされるキャラクターの背景に描かれる、偶然そこに居合わせた通行人達などの人物のこと。モブキャラクターの略語である。by Wikipedia 調べ。


「私マゾじゃない……でも最低四人は確定してるんだよー……あ、敵、敵は?!」


「敵はオヤツに含みません。ん?敵?」


「うん。敵出てくるよ。」


「……ちょっと出演して捌ける、てわけじゃないんですか?」


「やられキャラもいるけど〜そんなこといったら十じゃ効かなくなっ……」


「アウト〜〜〜〜」


「えっえっ」


間延びした平坦な声でもって否定された。

呆れを通り越してさらに呆れた顔をしている。それでいてやっぱりな、と納得しているような。

人はそれを失望という。

何故言われたのか見当もついていない紺。

ぐるぐるしている紺を尻目に居住まいを正すハリ。



「アンタどこまで話広げる気だ。元いたところに戻りたくないのか?」



真剣な表情をしている。

飄々とした態度は鳴りを潜め、まっすぐこちらを見ている。

雰囲気が変わったことに驚いてしまう。


もといたところ。すなわち現実の私の家。そこに帰ることを思う。

しかし上手くできず、しかもいきなり真面目に叱られたので、ふざけて事を曖昧にしたがる気持ちが沸き起こる。ごまかしたい。


ふと思うとここが夢だと思わなくなっている自分がいた。元いたところとは現実で、ここはファンタジーの中なのだ。こちらに馴染みかかっている自分を感じた。

私は帰りたいのだろうか。答えはなぜか出ない。

……それでも、どう思おうとネバーランドからはいつか帰らなくてはならないのだ。きっと。



「……帰る。戻るよ。」



「ならアンタのやることは一つだ。最短で話をまとめてエンディングに導けばいい。それでアンタは帰ればいいんだ。」


「……そうだね。」



ハリはきっと、正論を言っている。

なにも女神に付き合って真面目に話を書き上げなくてもいいのだと。

でも。



「なら」


「でもそれじゃ面白くないよ。」



声を呑むハリ。



「私も面白くないし、話も面白くないままならキャラクターたちはどうなるの?不幸になっちゃわない?……今更、だけど。」


何かが引っかかっていた。その正体はたぶん、他人が見れば鼻をかんだティッシュ並みに価値の無いように思えるものかもしれないもの。

趣味人なりの、物書きとしてのプライド。


「そりゃあ、そうでしょうが。でもそれ気にしてるうちに帰れなくなっちまう可能性だって充分あるんですよ。」


「……いいよ、別に」


「な……」


「……嘘だよ。女神怖いし真面目にやる。でも今日は、疲れたから、どっか宿でも取って寝るよ。」



踵を返して大通りを進み出す紺。振り向かない。

ハリには表情がわからない。


「マスター、アンタは……」


「また明日からがんばるよ。よろしく。」


話はこれで終わりと身振りで断じて終わらせる。




本当は現実に帰りたくないのか?




背中に投げかけたその問いに、紺が答えることはなかった。






日々じゃなくて罅のほう。

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