さらわれた方が話が早い
重要なところを書き間違えました。
修正というか削りました
すみません……
結局料理を拝借していた店には、お世話になりましたと書かれた代金入りの袋を置いておくことにした。
「さて、じゃ話を作って行きましょう。始めと終わりがわかっているんなら、あとは繋げるだけです。」
「それが難しいんじゃないですか〜」
「グダグダいってると軌道修正しますよ。」
「いやだぁ……」
パシパシと槍の石突きを手のひらに叩きつけてみせるハリ。
ひいーと情けない声で鳴く紺。頭をかばう。
「ここ痛い!ってとこずーっと的確に殴ってくるんだもんなー」
「こんなの殴ってるうちに入りませんよ。はいはい考える考える。」
まるで木魚のごとくぽくぽくと紺の頭を叩くハリ。
悟りが開けるどころか痛みに思考が散らかってゆく。
「バカになる!」
「すでに下らないプライドで半分機能していませんがね。」
「ひどい……」
確かに話を面白くしたいというのは自分だけのワガママだ。
現実に帰るだけならば最悪、不思議な魔法で全てうまく行きました、でもいい。
ようはおしまい、の文字が書ければいいのである。
女神の襲来はあれ以降ない。
横槍を入れないところを見ると、紺がそれをできないのをわかっているのかもしれなかった。
「あ、ハリさんは私と別れてからの話は把握できてるの?」
「いいえ、見たまましか。それこそ力を使っちまえばいいんですよマスター。そういう権能的なのは後から生やしてもいいでしょう。」
なるほど。物語に関係ないところであれば、いくら設定を生やそうとも影響はないだろう。
「『ハリはどの状態においても物語の把握ができる』……うう、ん。」
「最後なんで照れたんです。」
「いや呼び捨てが気恥ずかしくて……あはは。」
「小学生ですか。だいいち2度目でしょうに。」
「その辺の知識もあるのね……」
返済を終えた紺たちは、マーシャの宿ではない宿泊施設に居を構え、どつき漫才よろしくいつもの光景を取り戻していた。
「登場人物を整理するとして、まだ出てきてない『ハイドゥク』『領主』あたりはでるんですか?」
「もちろん出すよ。というかハイドゥクはもうでてるっていうか……」
「は?」
「ディトォがいってたとおり、イタズラと人さらいは別口の犯行なのね。それである理由があって両者は対立してるの。」
「理由ですか。イタズラはどっちで?」
「イタズラはハイドゥクのほう。人さらいは新領主が手引きしてるの。敵対国に奴隷なんかにして『出荷』してる。ハイドゥクは力が足らないからそれを止められずに、ならむしろ、って領民が遠ざかる理由ができればいいと考えた。」
「それがイタズラですか?子供の発想みたいですねぇ。」
「実際子供なんだよ。構成員はみんな子供。」
「はあ?なんでまた。」
「新領主や貴族が、たわむれに手を出した町娘の子供たち。それがハイドゥクたちなんだ。」
「ご落胤ってやつですか。揃いも揃って保護しなかったんで?」
「そう。だからこそ、ハイドゥクって名乗って派手に反抗したんだけど、逆に隠れ蓑にされちゃってさ。それを証明しようにも、表立って対立すれば潰されるのは明らかだったから、コツコツイタズラに勤しんでるってわけ。」
「……なんか覚えがあるような?」
「うん。ディトォの生い立ちはまさにハイドゥクと一緒なんだよ。物語の最後は、ディトォ自身が母親との再会を望んで探し当てるの。だから、ここから繋げていかないと!」
「……」
「ん?どしたの?」
「自分が興味ある分野になると途端に口が回るようになるのってどういう人達でしたっけ。」
「……オタクでぇす!」
なんだよハリさんが言わしたんじゃんかと大げさにベッドに突っ伏してみせると笑う気配があった。
「いえね、ダメ人間といえど愛してもらえるのは
ーーーーー」
はた、と何かに気づくと口に手を当てて黙るハリ。
「うん?」
「いえ何も。ちょっと引いただけです。」
「思ってても言っちゃいけないんじゃないのそれ。」
閑話休題ですよ、いいから進めてくださいと流されてほんのり傷つきながら考える。
要はディトォが母親に会いたいと望まないといけないのだ。
それには母親がまだディトォが生きていることを知らないこと、そもそもお互いの存在を認識していない問題があった。
母親に至っては死んだと思っているはずである。
「孤独の人造人間が母親を望む時、かあ」
「あのロボットみたいな状態からそうなるとは思えませんけどねー」
「なんかの雛みたいにマーシャについてってるよね。」
「ああ、じゃあマーシャを攫わせたらどうです?」
「は?」
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人攫いへの警戒は、ひと月もすればしなくなっていた。
なぜならシドンの足が完治したので、宿屋を再開させたからである。
開店したとたんなかなかの繁盛ぶりでにぎわいをみせ、すなわちそれどころではなくなったのだった。
マーシャに付き従って仕事を手伝うのだが、食堂も兼ねているので昼時の忙しさには目を瞠るものがあった。
「こっちワイン追加ねー!」
「はい!ただ今お持ちします!」
「俺ぁツイカもってきてくれぇー」
「はあい!少々お待ちください。」
机の間をひらひらと舞でも踊るように行ったり来たりしている。
ディトォの知識の中にあったのは、不気味な儀式に用いられる舞であったがそんなものよりもマーシャを見ている方がいい気がした。
「ディトォ!裏に塩をとってくるから、これをあっちのテーブルにお願いね!」
持っていたワインの乗ったトレイを渡すと素早く裏口に向かっていく。
言われた通りにして裏口に向かうと悲鳴が聞こえた。
ひと月前の出来事が脳裏をよぎり、駆け足で向かう。
裏口を出ると、予想通りの光景に出くわした。
舌打ちをする男の肩口には麻袋をかけられ、ぐったりと動かない白い足がのぞいている。
ディトォには目もくれず、裏手に停めてあった馬車に乗り込むや否や馬がいななき走り出した。
「……!」
人の足では到底追いつかない。力を使おうにも手に触れないといけないので何もできなかった。
急いで厨房にいるメディアに伝えに行こうとすると、生垣から三つ子鎧のうちの二人が飛び込んできた。
「ああくそやられた……!」
「間に合わなかったか!」
彼らも出し抜かれたらしい。
肩で息しながらこちらを振り向いた。
「時間がない、説明は後で全部する!ついてこい!」
「メディアたちには?」
「それも後だ!」
常と違う様子の二人に気圧されて、走る二人を追いかけた。
だいぶ人家がまばらになってきた郊外まででた。
そのうちのボロ屋に飛び込んだ二人に続く。
中にある部屋の扉を独特のリズムでノックする。
中から「眠れぬ仔羊は?」と聞こえると、「狼に」と答え、同時に扉が開いた。
扉をくぐると中には10人ほどの少年少女たちが地図の前に集まっている。
「そいつ、この前言ってた錬金術師?」
「そうだ、役に立つかもしれない。マーシャさんがさらわれた。」
「あの子まで……!」
「多分いつもの三番道路の倉庫だよ、今日の夜だね。」
「ねえ」
10人の目が一斉にディトォを見る。
少し怯んだが、言葉を続けた。
「マーシャはどこに連れていかれたの?」
「俺らが誰か聞かないんだな。」
三つ子鎧の一人が聞く。
「マーシャの方が大事。」
「はっはは。確かにそうだな?俺の名前はイリョ、もう一人の鎧の方はヤンク。偽名があるんだがそれはもういいか。」
「マーシャは。」
「急かすなよ、少なくとも今日の夜までは三番道路の倉庫にいるはずだからさ。」
「……君たちは、何?」
「やっと聞いたな。」
にやりと笑って兜をとった。
短く切られた銀髪を、耳の横だけ編んでたらしている。
「俺たちはハイドゥクだ。」
締め切って埃っぽい部屋に風が吹いた気がした。
ハイドゥク参上