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もふ契約  作者: 美緒
2/3

にぃ

説明文が多すぎる回です……。

 四神相応(しじんそうおう)の地というものを知っているだろうか?

 北に玄武(げんぶ)、南に朱雀(すざく)、東に青龍(せいりゅう)、西に白虎(びゃっこ)。それぞれの聖獣達を象徴する自然を四方に配置する事で、その中にある地は太平を得る。

 一説には、中央は四神達の(おさ)と言われる黄龍(こうりゅう)が天より下り、平和を象徴する麒麟(きりん)となってその地を守るなんて事も言われてたりする。


 ある種、万能に見えてしまう四神相応の地の弱点は、象徴するものが自然(・・)であるという事。

 例えば、南の朱雀を象徴する湖水なんかは干上がってしまえばその力を失う。北の玄武だって、山が低くなれば意味がない。東の青龍は河川。西の白虎は大道。やはり、力の向きが変わったり、消えたりすれば四神の守りが失われる。

 そして、この守りが失われれば、魑魅魍魎にとっては蹂躙し放題な場所となる。

 何故こんな説明をしたかというと、あたしの住む京の都も、元々は四神相応の地だったんだけど……現在はこの守りを失っているからだ。


 始まりは天候不良による干ばつだった。

 それは少しずつ影響を広げ、朱雀の湖や青龍の河川は水嵩を減らし、吹きさらしの風は強まり、玄武の山と白虎の道を削り取っていった。

 そんな守りの力の減退は魑魅魍魎を活発化させ、その害を維持する為なのか力の強い怨霊が四神に関連する場に陣取る様になった。

 だが、それを良しとする訳ないのが陰陽師。調伏の為に様々な研究を重ね、五行の相生(そうじょう)(力を強めること)や相剋(そうこく)(力を弱めること)を上手く利用すれば怨霊を弱体化させ、調伏を容易にする事を発見した。

 そこで問題になったのが五行の相性。


 生き物はみんな、五行を持っている。

 人間は生年月日や生まれた星等で変わってくるけれど、那斗や風柚の様な(あやかし)系はその色でだいたいの判別が付く。

 那斗は真っ黒い毛並みである事から北方玄武を守護に持つ水属性。意味は命の泉、象徴は冬。

 風柚は真っ白い毛並みである事から西方白虎を守護に持つ金属性。意味はは冷徹、堅固、確実、象徴は秋。

 ちなみに、青や緑だと東方青龍で木属性。意味は樹木の成長、発育、象徴は春。紅や赤は南方朱雀で火属性。意味は灼熱、象徴は夏。

 黄があたしと羽琉の属性である中央黄龍の土。意味は万物の育成、保護、象徴は季節の変わり目。


 この五つの力は其々相生と呼ばれる強弱の関係を持つ。

 木生火(もくしょうか)、木は燃えて火を生む事から木は火の力を強める。その代わりに、木は弱くなる。

 火生土(かしょうど)、モノが燃えた後には灰が残り土に帰る事から火は土の力を強め、それにより火は弱くなる。

 土生金(どしょうごん)、土の中より金属を得る事から土は金の力を強め、それにより土は弱くなる。

 金生水(ごんしょうすい)、金属の表面には水が生じる事から金は水の力を強め、それにより金は弱くなる。

 水生木(すいしょうもく)、木は水によって育つ事から水は木の力を強め、それにより水は弱くなる。


 ここで注目するのがあたし、那斗、風柚の関係。

 あたしと風柚で土生金、力の強くなった風柚と那斗で金生水。つまり、那斗は土と木属性以外なら普通よりかなり有利に立てるという事。

 ただ、気を付けなければならないのが、戦いになった時の並び方。それが相剋に関係する。

 土剋水(どこくすい)、土は水を濁らせたり、吸い込んだりする事から土は水を弱める。あたしは戦いの時、那斗の隣に立ってはいけない、という事になる。

 そして、水剋火(すいこくか)、水は火を消す事から、敵として相手にするならば那斗は火属性だとほぼ無敵っぽい感じ。風柚が隣にいれば力は強まるしね。

 後は、五行的に那斗が相生となってしまう木属性は風柚の担当。金剋木(ごんこくもく)、金属は木を切り倒すって訳。ただし風柚の場合は火属性がダメ。火剋金(かこくごん)、火は金属を熔かす。まあその場合は火が得意な那斗が飛び出すんだけどね。


 長々と説明したけど、そんな訳で、あたしの課外授業として火属性、木属性、水属性あたりの魑魅魍魎がいる場所へと遣って来た。

 遣って来たのは良いんだけど……。


「ねぇ、羽琉……ここって、玄武に該当する土地だよね……?」

「……そうだな」


 小型化した風柚を抱っこしてもふもふしているあたしの目の前には……何故か全属性の魑魅魍魎や怨霊がてんこ盛り。地平線も見えない。

 四神を象徴する土地はその重要性から、戦う力を持つ陰陽師が交替で調伏に当たる事になっている。その為、本来ならこんなてんこ盛りでいる筈、ない。

 え? 担当の陰陽師が手抜きでもした? まさか……サボり?

 真横――羽琉の居る方から妙な気配を感じる。「ふざけんなよ」という呟きを耳が拾う。うん。あたしの予想は当たっていそうだ。ここは、触らぬ神に祟りなし。羽琉には触れないに限る。


 それにしても……本当に多い。

 調伏の為の戦いになったら混戦は確実。相生とか相剋とか考えている暇はほぼないだろう。

 こういう時は、弱点を補い合える那斗と風柚が組んで、同属性であるが故に連携を取りやすいあたしと羽琉が組む事になる。

 えーと……こんな数と戦いになるとは思っていなかったから、武器も補助になる道具も持ってきてない。でもまあ、真言や印は覚えているし何とかなる、かな?

 取り敢えず、先制攻撃しよう。両手で印を結ぶ九字護身法(くじごしんぼう)だと面倒だから、刀印(人差し指と中指を組み、他の指は握る形)を切る早九字護身法でいこう。あれは四縦五横符(しじゅうごおうふ)道満印(ドーマン)で済むから楽。

 風柚を地面に下ろすと、彼女は普段のサイズ――立つとあたしの腰近くに頭が来るくらい大きい――になり戦闘態勢に入る。勿論、那斗も同様に戦闘態勢に入っていた。


「那斗! 風柚! 先制攻撃、行くよ!!」

『トチるなよ、あき!』

『うむ。存分に力を振るっておくれ、主よ』


 あたしが声を掛けると、那斗と風柚が尻尾を振りながら空を駆け出した。

 本邦初公開。うちの子達は伸縮自在なだけではなく空も飛べるのだ!

 もふもふが空を飛ぶ……ふわっふわな毛皮が風になびき揺れ――って、見惚れてちゃダメ!

 右手で刀印を結び、九字を切る準備をする。


「あき、行くぞ」

「うん!」

「「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 急々如律令!」」


 真言と共に九字を切り、印を解く。

 すると、道満印(ドマーン)に乗った力が前へ通し出され、最前列にいた魑魅魍魎に当たり弾ける。

 もっとも、あたしと羽琉の力はそのくらいで消えはしない。表層にいる他のモノも巻き込み、実体のあるモノの四肢を飛ばし、或いはその体を溶かしていく。


「朱雀・玄武・白虎・勾陣(こうちん)帝久(ていきゅう)文王(ぶんおう)三台(さんたい)玉女(ぎょくにょ)・青龍!」


 羽琉が晴明印(セーマン)と共に土御門家(つちみかどけ)に伝わる九字の一つを続けざまに切った。

 五芒星が輝き、不可視の生き物が駆け抜け魑魅魍魎を屠る。

 そして、それに合わせるかのように那斗も風柚も狐火や凶爪(まがつめ)などを使って追撃していく。

 あたしも追撃を仕掛けるべきなんだけど……なんか、羽琉と同じ系統の真言じゃ芸がない気がするから……。


「ナウマク・サンマンダ・バサラダン・カンセンダマカロシャダヤ・ソハタヤ・ウンタラタ・カンマン!」


 ちょーっと長いけど、不動明王の真言を唱える。

 印を切って力を放出すると……あ、良かった。間違えてなかった。ちゃんと闘気の炎が具現化し、蠢く人為らざるモノを焼き払っていく。これ、真言を間違えるとポンッと軽い音がするだけという残念な結果になるからなぁ。


 そんな事を考えながらも、あたしも羽琉も立て続けに印を切り屠っていく。

 全てが終わった後、疲れて座り込もうと、少し経てば力が自然回復すると知っているから手加減なんてしない。

 一直線に駆け抜ける術や五芒星や六芒星が浮かび上がった場所だけ有効な術。様々な術式を組み合わせ彼方此方(あちこち)に力を飛ばす。

 あたしや羽琉が苦手とする木属性や同属性故にダメージが軽い土属性が残ったら、すかさず風柚が追撃してくれる。那斗や風柚が残したモノはあたし達の広範囲攻撃に巻き込まれて消えていくから、バランス的には丁度良いのかも。

 まあ、完全に力任せだろうと言われたら否定できないんだけどね。


 と、なんか色々言っているうちに、魑魅魍魎があっという間に減っていく。

 てんこ盛りだったのが小盛りになって、隙間ができて、まばらになって。――残り、五体!


「――カンマン!」


 残っていた水属性のモノに向け氣を飛ばす。

 ぶつかった瞬間それは空中を震わせ、消える。


「――急々如律令!」


 羽琉の氣が土属性と金属性の二体を巻き込み弾け飛ぶ。

 その中心に那斗と風柚が狐火を落とし、ついでとばかりに残っていた火属性、木属性のモノに接近してその鋭い爪で切り裂いた。

 それまで居た魑魅魍魎が全て消えると、空気中を漂っていた凶氣が一つ所に集まり出す。


「破邪!!」


 聖印を刻み、凶氣へぶつける。すると――


 玄武の地を覆っていたよくないモノ(・・・・・・)が消えていく。


「お……終わった~」


 あたしは思わず座り込む。

 それを見た那斗と風柚が我先にとあたしの元へ戻り、そのふわっふわとツヤサラな体で左右から擦り寄ってきた。

 これ、ご褒美!!

 二匹を抱き込みその毛並みを堪能する。し・ふ・く。


「あき。一応、封じを」


 封じとは、同じ魑魅魍魎が再びこの地へ遣ってこない様に消えたモノの力を逆手にして結界を張る事を言う。

 でも……。


「……何言ってるの、羽琉。ここって北方の山で、陰の地だよ? (よう)である羽琉の方が適任じゃない」


 万物に陰陽は存在する。陰陽とは、正反対だけど存在し合って均衡を保つものの事。太陽と月とか、熱いとか冷たいとか、上と下とかね。それは必ずと言って良い程、陰と陽に分かれる。

 例えば方角。北と西は陰の地で、南と東は陽の地、という具合に。

 そして、性別も。女は陰、男は陽ってね。

 あ、北の山と南の川は陰、南の山と北の川は陽と、地形によって陰陽が変わったりするから、ちょっとややこしいんだけど……。


 それよりも、今回は玄武――()の、しかも()。今は昼間だから陽の氣が強い。元々『陽属性』の()である羽琉が封じを行った方が確実、かつ強力だ。

 これが月夜(月は太陰、つまりは陰属)とか言うなら条件は五分五分だけど。

 ついでに、玄武は水属性。土属性で封じを行えばその威力は確実に上がる。ほら、諸々の事から羽琉の方が適任。


 それは羽琉も分かっているのか、「仕方ない」と呟いた後、印を組み、祝詞(のりと)(簡単に言うと、祈りを捧げて加護を貰う言葉)を唱えだす。

 これ、滅茶苦茶長いから、待っている間は那斗と風柚をモフる! モフりまくる!!


「――――」


 羽琉の声をバックに聞きながら、あたしは那斗の毛並みを整える感じに頭から尻尾まで丹念に撫でる。

 艶々サラサラの手触りはまさに極上の絹。真っ黒い毛は日の光を浴びて光沢を放っている。

 絡まっている所もなく、魑魅魍魎相手に空中戦を仕掛け、自由自在に飛び回っていたとは思えない。

 前足を持ち上げる。少し硬い肉球からは爪が微かにしか出ていない。魑魅魍魎を屠っていた爪の攻撃はどこから? とか思うけど、どうも出したり引っ込めたり自由に出来るみたい。

 前足を地面に下ろすと、那斗がゴロンと寝転んだ。お腹が見えてる……え? 撫でていいの? マジで!?

 ふ、ふふふふふふ! 手加減せずにモフるっ!!!


 ――満足! 那斗のツヤサラな毛並みを存分に堪能した!


 ご機嫌なあたしの横で那斗がヘロヘロになってる。

 ふっふっふ。撫でて良いって言ったのは那斗だもんね! 文句は聞かないよ。


 さて、次は風柚。あたしが両手を広げると、若干及び腰ではあるけれど体を預けてくれる。

 うん。風柚のふわっふわな毛も全く絡まってない。手櫛もすっと通る。ふわふわしてるのって絡まっているイメージあるんだけどね。不思議。

 指の先を風柚の毛の根元に沿わせゆっくり撫でる。風柚は表面じゃなく、体を掻く様な撫で方を好む。一種のマッサージ? まあ良いけど。

 首回りとか背中、お腹なんかも満遍なく撫でていくと、風柚が気持ちよさそうに目を細める。可愛い~。


 風柚を撫でるついで(?)にマッサージをしていると、いつの間にか羽琉の祝詞が終わっていた。

 視線を玄武の地へ向ければ、均等に張り巡らされた氣が結界を築いているのが分かる。

 やっぱり、流石だな~。


『――っ!?』


 突然、那斗の微かな声が聴こえる。

 あれ? 横に居たと思っていたのに……あのヘロヘロ具合で何処に?

 ゆっくり周りを見渡す。

 すると、真っ黒い天狐は羽琉の近くに居て……


「――は?」

これは「なんちゃって和風」です。

時代設定も「なんちゃって」というやつです、はい。

一応、自分の覚えている事に間違いがないか調べてはいますが、説明等は信じないで下さい。

陰陽師とか好きな方にはアラがあり過ぎだと思います……。


取り敢えず、次で終わり予定です!

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