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もふ契約  作者: 美緒
1/3

いち

他の話が書き半端な癖に、居ても立っても居られず書いてしまったもふもふ……。

のんびり進みます。

「真面目に聞かんか、あき!」


 不意打ちで後頭部を叩かれ、その勢いのまま額を文机にぶつける。痛い。


(あるじ)、大丈夫かえ?』


 あたしの横に大人しく座っていた護衛獣で式神(しきがみ)の九尾の白狐が、痛みで額を押さえていたあたしを覗き込み心配そうに声を掛けてきた。

 青くつぶらな瞳があたしを見、九つの尻尾がふりふり揺れている……。


風柚(ふゆ)~! あたしを癒してっ!!」


 こんなに可愛い()に心配されて、もふられずに居られるだろうか! いや、居られない!!(断言)

 あたしは術の勉強中である事も、後ろに(一応)師である安倍羽琉(あべはる)が居る事も気にせず風柚に抱き付き、その綿なんか目じゃない極上のふわっふわな毛皮と尻尾を堪能する。はう、至福。


「あき……」


 すると、背後から何かを押し殺した様な声が響き。

 風柚とは違うもふもふが頭を覆う。漆黒の四つの尻尾が揺れているから、もう一匹の護衛獣で式神の真っ黒い天狐(てんこ)那斗(なつ)があたしの後頭部を羽琉から守ってくれたのだろう。

 良い子良い子と、風柚とは違う絹の様にツヤサラな尻尾をもふると、甘える様に擦り寄ってくる。もう直ぐ三千歳になる立派なオスなのに可愛過ぎる。

 あたしが前後に居るもふもふ達を愛でていると、頭上から溜め息が落ちた。


「風柚も那斗も、あきを甘やかすな」

『何を言う。主を甘やかす事こそ(わらわ)の至福ぞ。邪魔をするでない』

「そうやって甘やかし、もふらせるから陰陽師の修業が進まないんだ」

『羽琉の教え方が悪いだけだろう? あきの所為にするな』

「お前達が授業を中断させるから進まないって言っているんだ! このままだと、あきはオチコボレになるぞ!」

『ほほほ。バカを申す出ない。初めての契約の儀で妾や那斗様を呼び出せる程の潜在能力を持っている主が、オチコボレになるなぞ有り得ぬわ』

「有り得そうだから言っているんだ!」

『羽琉の教え方が悪いからだと言っただろう。もう少し、あきが興味持つように教えられないのか?』

「あのなぁ――!!」


 ああ、また始まった……。羽琉と二匹の言い合いが始まると長いんだよねぇ……。


 あたしが住む京の都は主上を頂点に一部の貴族達があたし達平民を治めている。

 あたし達が安心して暮らせるよう、貴族は(まつりごと)や武を持って守り、あたし達はその対価に田畑を耕し貴族達を支えている。それが当然――だった。

 その当然が崩れたのは、近年、貴族達の守りの力が低下してきたからだ。

 まあ、人が集まれば様々な思惑が渦を巻く訳で。

 その思惑は魑魅魍魎や鬼等、人為らざる者に無用な力を与え、都を荒らした。人外の存在により荒れた場所にわざわざ住みたいと思う者は居ない。それこそ、突然、何が起こるか分からないのだから。


 そんな、人外のモノを何とかする為、主上はある組織にそれと戦うよう勅命を出した。それが陰陽寮(おんみょうりょう)。そこに属する者を『陰陽師』と言う。

 元々の陰陽寮は、五行思想に基づいた陰陽道――天文学、占術、呪術等を用いて過去や未来を見たり、方違(かたたが)え(外出すると悪い事が起こる方角を知る事)や物忌(ものい)み(外に出ると災いが起こる日を知る事)なんかを行っていたんだけど、勅命により、それまで行っていた法を使い、戦う為の力を手に入れた。

 それが『式神』や『陰陽術』と呼ばれるもの。


 陰陽師は、契約した式神や術――九字とか、晴明印(セーマン)(五芒星)、道満印(ドーマン)(六芒星)なんかを使って人為らざる者を調伏する。

 そうやって、何とか平和というか人が暮らせる場所を取り戻しつつあるんだけど……。

 陰陽師達は現場に出て初めて知ったらしい。まともに調伏できる陰陽師が少ないと。

 よく知らないけど、陰陽師の中にも様々な派閥があり、まともに術が発動、もしくは戦える式神と契約できたのはごく一部の派閥のみ。他は無能。いや、今まで行っていた仕事は出来るけどね? 勅命に関しては役立たず。


 そんな訳で、戦えちゃう陰陽師達は考えた。人手不足をどうしようと。

 結果、足りないなら補えばいい。そう――平民(・・)から。

 いや、本末転倒だよね、それって。平民を守る筈の貴族――陰陽師はみんな貴族――が、平民に戦えって言うんだから。

 最初は反発した平民達も、陰陽師が少ないせいで自分達に危険が迫った事で重い腰を上げ、いくつかの優遇措置と引き換えに戦えるだけの力を持つ人が陰陽寮に属し、戦いの技術を学ぶ事になった。

 そのうちの一人があたしって訳だ。


 あたしの場合、農業免除、家族全員税金免除、給金支給、危険手当有りという事で引き受け、結構いろんな事を学んでいる。

 術の種類、使い方、弱点の見分け方、式神との契約の仕方等々。

 さっき風柚が言っていた『契約の儀』が、式神との契約には必要なんだけど……。

 何をトチ狂ったのか、一回の契約の儀で呼び出せるのは一匹とか一体って決まっているのに、あたしが行った時は、何故か召喚の魔法陣の中に那斗と風柚が居て……。

 二匹同時は前代未聞と大騒ぎになり、しかも、呼ばれて来たのが善狐(ぜんこ)の中でも高位である九尾と天狐だった事から、その他大勢の陰陽師達から妙な期待を掛けられる事になった。


 はっきり言ってうっとうしいし、面倒なんだけど?


 戦えないのに、戦いを知らないのに、無用なプレッシャー与えないでくれない?


 ごちゃごちゃ外野が騒ぐのにうんざりし、そいつらに反発する格好で、あたしは表面上、不真面目に徹した。

 もう、遣る気な~いと言わんばかりに、文机に頬杖ついて、あくびして。

 何かわめいているのをスルーする為に、那斗や風柚を撫で、尻尾を弄り、耳をこしょこしょして。

 その時に、那斗や風柚のもふもふに目覚めたのだから、あたしとしては結果オーライというもの。今までもふもふを知らなかったのって人生損していたと断言できる。もふもふ最高。あたしは、このもふもふの為だけに二匹と契約したと言っても過言ではない!


 いまだに羽琉と言い合いをしている二匹のタイプの違う毛並みを堪能する。ふわふわもツヤサラも捨てがたい。

 風柚のほんのり温かい体をギュッと抱き締め、ふわふわな毛皮に顔を埋めすりすりする。くすぐったいのか風柚が少し身体を震わせるけれど、羽琉への口撃は弛まない。風柚が言うには、長く生きてきたけれど、人間と言い合いした事はなかったらしく、羽琉との口喧嘩は結構新鮮で楽しいんだって。娯楽扱いってのが凄い。


 ぺしぺしと尻尾が自己主張してくる。本当に甘えん坊だなぁ那斗は。

 ふわふわから手を離し後ろを振り返る。一瞬、羽琉が見えたけれど気にしない。艶々の毛皮を撫でてからギュッと抱き締める。肌に感じる滑らかさは癖になるなぁ……存分にすりすりもふもふする。

 那斗は羽琉に構うよりあたしを優先する。例え言い合いしていようとも、あたしが暇そうにしていると目敏く見付け、ツヤサラな毛皮をあたしに擦り付けてくる。至福、可愛い。

 ただ、ねぇ……。


 那斗はもう直ぐ三千歳。いやもしかしたら、神通力――妖力を自在に操っている事から既に三千歳を超えている可能性もある。

 そして、神通力を自在に操れる大神狐は、善狐の最上位である空狐に成る条件を満たす。

 千歳を越え、強力な神通力を持ち神格化した善狐である天狐がさらにレベルアップし、御先稲荷(みさきいなり)(稲荷神の遣い)を引退した善狐が成るとされる最上位の空狐。

 それはもう凄まじく貴重な存在なんだけど……ここで大問題。空狐は


 尻 尾 が な い !!


 あのもふもふがないんだよ! 甘えん坊な尻尾がないんだよ! 信じらんない!!


 ついつい那斗に「空狐になったら契約切ろうね」と言ってしまった。仕方ないよね? あのもふもふが失われちゃったら。

 那斗はショックを受けた様に呆然とした後、涙目で「絶対にならない!」と断言していた。

 あれ? 那斗は御先稲荷という訳ではないから関係ないのかな? と思っていたけど……もしや成れちゃうの?

 尋ねてみたら、「空狐になんてならないから気にしなくて良い」と言われ、すりすりされてしまった。

 風柚が残念なモノを見る様な目で那斗を見ていたから、それが答えなんだろう。うん。ツッコミはいれちゃダメだね。

 なーんて事をあたしが考えていたら頭上から溜め息が落ち。


「まあ……あきを『オチコボレ』だなんて的外れな事を言うのはその他(・・・)だから、此方としては特に問題がないんだがな」


 あたしより大きな手が髪をくしゃりと撫でる。


「取り敢えずあき。私達にまで不真面目なフリは止めろ」


 あ、バレてる。ま、当然か。何だかんだ言って、羽琉とは陰陽寮(ここ)に入った時からの付き合いだからね~。

 召喚の儀の後は、あたしと同等以上の力がある羽琉がマンツーマンで指導してるし……あたしの気持ちなんてお見通しなんだろう。


「もうあれだな。奴らがくだらない事を言わない様、あきの為にも課外授業中心にした方が良いかもな」

「あ、あたしはそっちの方が良い!」

「……だろうな」


 頭を上げると、切れ長の整った黒い瞳が苦笑しているのが見えた。

狐にしたのは完全に趣味です!(キッパリ)

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