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中編

前中後編のうち、中編です。この話もやはりボケ一筋。

「おっきい......」

 さすが県下随一のマンモス校を謳っているだけある。私立ということもあるのだろうが、それを加味してもなお学校としては大きすぎるように思えた。

「そうだな。これだけ大きな学校で教師をやっていると、自分まで誇らしくなってくる」

「ま、校長でも教頭でもねえですし、実はそこまで大げさなものでもねえだろうとも思ったりしますがね」


 レイナたちも一通り自己紹介を終えた。

 レイナ・カナリヤ・レインシュタイン。

 ミュール・ブレメリア。

 ウラナ・アマリリス。

 クルーヴ・エミドラウン。

「ほう、レイナ君は置いといて、クルーヴにウラナにミュール......どれも日本人とは程遠い名前だな」

「あたしは日本にいるときは津々浦々の浦にレイナと同じ奈、で浦奈って名乗ってたりするけどね」

「それでも髪が白やら金、果ては赤やら青まで......人のことは言えないかもしれないが、とても日本人と押し通すことは不可能だろう」

「まあそうだとしても、外国人です、とかなんとか言っとけばそれで済んでるからね。ねえレイナ?」

「ええ、まあ。......ミュール?」

「はいはい!」

 なんだか知らないがミュールがにこにこしている。


(「もし訳わかんないことして私たちがこの世の存在じゃないってバレたら、まずいから。気をつけてね」)

(「え?でもレイナって初めて現世に来た時に、友達にバレたんじゃ?」)

(「あれは確かにそうだけど、認めるしかなかったから。あくまで特例で、普通はダメなの。最悪この2人なら大丈夫だと思うけど、それ以外にバレるのはやめてね」)


「何か話していたかな?」

「何でもありません、大丈夫です」

「残念ながら僕は猫獣人だからね、多少のヒソヒソ話くらいなら聞こえるんだよ」

「え」



「それ程カニクリームコロッケが待ち遠しいかい?」



........................。


 よかったです安心しました。



* * *



「......で?レイナだけならまだしも、どうしてあたしたちまで呼び出したわけ?」

 ウラナが本題を切り出した。ひとまず常木先生の居室まで向かおうということで、学園道路を歩いていたときだ。


「ふむ、そう言えば僕の口からは言っていなかったな。さっきちらっと言ったんだが、この学校には多くの獣人の生徒、教師がいるんだ。僕のような猫獣人しかり、清木場君のような竜人しかり。肉食獣人もいれば、その逆、草食獣人もいる。まあどちらも人間に近いことは近いから、肉食獣人でも野菜の類を食べるのが平気だったり、草食獣人でも多少のよく火を通した肉なら大丈夫、というケースが多い。だが中には全く肉がダメな草食獣人もいる。それだけでなくて、同じ草食獣人の中でもこの野菜はよくてこの草はどうも(にお)いが、といういわゆる好き嫌いだってある。......要はお困りの草食系たちのために、食料を提供する野菜室とやらが存在する。もちろん、冷蔵庫のあれではないがね」


「まさかあなた、私たちを呼んで、みんなでそこの草木のお手入れをしましょう、とか言い出さないわよね?もしそうならまっぴらごめんよ」

 エミーが嫌そうな顔をした。たぶん虫が出たらパニックになる、とか考えているのだろう。


「いや、それは専属の庭師がいるから心配ない。今回の問題は庭師がどうこうできるものじゃないんだ。僕たちが直接目撃したというわけではないんだが、風もないのに、木々がざわざわと揺れるらしい。人が揺らしているんじゃない、でもわざと揺らしているかのように、ね。草食獣人の生徒たちが怯えて近寄れないし解決策をいろいろ考えてみたが、結局知り合いをつてに、レイナ君に協力を頼んだんだ」


 やはり大学周遊を趣味に掲げる(ある意味変態の)レイナは、現世でも知る人が多いらしい。まあ現世にいる時に大々的な活動でかなり有名になったこともあるし、こそこそしていても分かる人は分かるのかもしれない。

 ここで今度はミュールがレイナに近づき、ヒソヒソ話を始めた。


(「もしかして......幽霊のせい⁉︎」)

(「......まあ、現世の人間同士の会話だったら笑い飛ばされて終わりだろうけど、そういうわけにもいかないわね。それに私も、その可能性が一番高いと思うわ」)

(「まさに私たちのためにあるような仕事だね~......」)

(「そうね......わざわざ木々に取り憑くぐらいだから、未練はあるだろうし。ただ浮遊したり動物......特に常木先生たちに憑かない理由はよく分からないけど」)


「ところで喉が渇いていないかい?ちょっと失礼して、飲み物を......」

 常木先生が少し先にある自販機へ急ごうとした。が、

「あっ、それならっ......」

 ミュールがもぞもぞしだした。ちなみにトイレに行きたいという意味ではないのでご安心を。


「ででーんっ‼︎‼︎」


 という効果音とともにミュールが外套のポケットから、例のアレを引っ張り出した。


『マゼランもびっくり‼︎スーパーハバネロエクストリーム』だ。


「ほう......これは、どこで?」

「あの、やめといた方がいいですよ常木先生?それ、さらなる辛みを追い求めすぎるあまり、誰もまともに飲めないことが分かって発売中止になったって代物ですからね。......ってか、なんであんたらがしれっと持ってんだ」

「近くのコンビニに売ってましたよ?」

「それは世間一般のコンビニとは言わねえ!」

「だけど普通に暮らしていては手に入らないという、箔付きのもの......やはり飲まないわけにはいかないな」

 ラベルをじっと見ているあたり、危険性はある程度認識しているらしい。が、すぐにそれを開け、ぐびっと飲んでしまった。「「あ!」」とミュールとエミーが言うも手遅れ。

 しかし予想に反して、常木先生は顔色一つ変えることがなかった。「ふむ、やはりハバネロはただ辛いだけでないのは本当のようだ。ほのかにフルーティーな香りが鼻に抜ける......」とまでしっかりコメント。


「えっと......大丈夫ですか?」

 あのミュールがすごく心配そうな顔をしていた。自分が卒倒したものをそんな平然と飲むとは、というところだ。

「ん?まあ特に、これといってもんだ......」



* * *



 ひとまずその「野菜室」とやらがどこにあるのか教えてもらって、4人は向かった。清木場先生は常木先生を運ぶためいったん離脱した。


「......ま、大方未練残した魂のせいってところでしょ?それならあたしたちだけの方があーだこーだ言えて、好都合なんじゃないの?」

「な、何言ってるのウラナ!それじゃ誕生日コラボって銘打ってる意味がないでしょ!」

「コラボ?誕生日?なんのこと?」

「......ごめん、忘れて」


 そこは室、というだけあって、ビニールで覆われた温室のようなところだった。人間もよくお世話になる野菜から、高木植物まで様々。そしてここの主であるかのように、百年ほども生きていそうな樹が部屋の真ん中にそびえ立っていた。

 それが、揺れていた。がっさがっさ。葉っぱだけ揺れているなら風のせいだろうともなるが、幹ごと揺れているようだった。レイナたちを客として歓迎するような、どこか楽しげな揺れでもあった。


「うっわ、うじゃうじゃいるじゃない。あれもっと揺らしたらボトボト落ちてくるんじゃないの?」

「やってみる~?」

 ごそごそとミュールが今度は中くらいの大きさの傘を出してきた。

「......あんた、今回は何でも屋の役回り?」

「この傘は常備だよー!それに何でも屋は今回だけじゃないよ、レイナがみんなのブレインなら私はみんなのふところ!」

「......あっそ」


 その魂たちは果実のごとく木のあちこちにいた。傘を使って木を揺らし、カブトムシやクワガタを捕まえるのと同じ要領で、本当にボトボトと魂が落ちてきた。

「一応、色の濃いやつはいないわね......」

 色の濃い、というのは、魂のことだ。死神たちはよほどの例外でない限り、何らかの基準でその魂が持っている未練の重さを知ることができる。ウラナはその基準が色の濃淡というわけだ。ちなみに中には身体に感じる熱の強弱で判別する死神もいる。


「でも未練が軽くても、いっぱいいると困るよね............きゃっっっ⁉︎⁉︎」


「ん?なんか今変な声しなかった?」

「え、まあでもミュールならいつものことだし......ってあれ?ミュールはどこ行ったの?」

 ミュールがいただろう場所には、ぽっかりと穴が開いていた。縁があまりきれいじゃないところを見るとつい最近素人が掘った、というところだろうか。


「あっ......ちょっ、ちょっと!」


 次に叫んだのはエミーだった。しかもエミーは一足先に未練の処理をしようと張り切っていくつかの魂を持っていたために、魂と一緒に穴の底へ一直線。ついでにこの部屋には傾斜もあるのか、お手玉よろしく魂がころころその穴の方へ転がってゆく。

「誰よこんなバカみたいな穴掘ったの!こんなどでかい高校で鼻水垂らした小学生みたいな......」

「も、もういいよウラナ。確かに穴は深いけど、ケガをさせようってつもりはないみたい」

「......本当ね、素人の割には妙なところきっちりとしてる」

 ウラナはガーネットを杖のようにして身体を支え、穴に落ちないようにしていた。


 さてここで突然宝石の名前が出てきてわけわかめ、という方もおられるかもしれない。

 この作品でのガーネット、はウラナの持つ刀の名前を指す。様々なぶっ飛んだ能力が使えるいわゆる妖刀だ。ウラナは冥界で最強と認められており、一般兵相手であればVPM(Vanishment Per Minute)、つまり1分間に消し飛ばす敵の数が200を超えるという主人公最強タグのついた小説の主人公ばりの圧倒的な力を見せる。が、残念なことに主人公ではない。そして彼女がどれだけ強くとも、今彼女が杖代わりに刀をついているというのは隠しようのない事実であり、明らかに刀としての使い方を誤っている。この罰当たり!


 ......ここで、清木場先生が野菜室に入ってきた。もちろん寒くない。むしろ南国原産の木々もあったりしてあったかめに気温の調整がされていたりする。

「どうしたんですか二人とも......ってあれ?もう二人いませんでしたかね」

「そうです、けどこの穴にはまっていっちゃって......」

「穴、と?」

 レイナとウラナが少し身を翻すと、清木場先生の視界にでかでかとその落とし穴とやらは飛び込んできた。

「......。」

 清木場先生がそれを見て黙り込んでしまったので、沈黙に耐えかねたウラナが口を開いた。

「......レイナ、あんたは残ってなさい。あたしは最悪本当にただの落とし穴でも、帰ってこれるから。行ってくる」


「待ってください」


 急に清木場先生の声がした。

「どうして」

「......いえ、調べるのは、構わないんです。けど、私にはだいたい目星がついてます」

「目星?」

「この木の近くには、この部屋全体の見栄えが良くなるよう、色とりどりの花を咲かせる植物を植えてあるんです。するとそういうのを好むのは、やはり女子生徒。常木先生とときたまここの見回りなんかをしますが、ここにはよく女子生徒が集まってます。まあもともと草食獣人に女が多いというのもあるんですがね。そこにわざわざでっかい人を落とす用の穴が仕掛けられてるときた。私らこの学校の教師からしてみれば、もう犯人はバレバレもいいところ、すっぽんぽんというわけです」

「そこまで......」

「とにかく、ここでじっとしていてはらちはあきゃぁしません。常木先生は今居室で横になってますし、そこまで行きましょう」

「で、でも......」

「大丈夫です、奴らもこの様子じゃあまり乱暴はしないでしょうし、あの二人も何でも言うことを聞くほど従順じゃないでしょう?私は直感でそう思いましたよ」

「うん、まあそれはね。特に青い髪の子の方が」

「え?なんかそう考えると若干楽しみに思えてきたのはあたしだけ?」

「ううん、私も。分かりました清木場先生、いったんそちらに行きましょう。そこで、作戦会議を」



* * *



「うう......げほ、ごほっ......ど、どうだね、アレの方は」

「それより先にもう一つ問題が出ましたよ。......まあ、どうせ賀集か、その取り巻きの仕業ですが」

「が、賀集......げほ、げほ、また奴か......」

「野菜室に穴掘ってたんですが、どっからどう見ても素人のもんでしたねありゃ。見るに堪えねえ」

「で......君はどうするんだ?」

「作戦会議ですよ。残った二人と、ね」

 そう語る清木場君は、なぜかとても楽しげであった。

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