第八十六話 黒い風が吹いた日
当然現れた喜楽仙人。
弾は菅笠を取り、頭を下げた。
「雪村弾といいます。
あなたに会う為、この島へと来た」
「ほ~~向こう側の世界の名を持つ妖怪とは・・・本当に変な客じゃの~」喜楽仙人は鋭い目つきでウヒヒっと笑った。
「わしは、おぬしを知っておるぞ。
カラスの息子・・・じゃの?
カラスの目を見るなとはよく言ったもの。
相当な嫌われ者じゃ」
空気がぴりっとする。
「いやー悪い悪い。
悪く思わんでくれ、ただの年寄りの憎まれ口じゃ。
別に~カラスだって嫌いじゃないぞ!
食うのは、大好きじゃ!」そう言って、腹を抱えて笑った。いちいち言葉にトゲがある年寄りだ。
「おい仙人、お前は旨いのか?まずいだろうな。無駄に長生きの人間だもんな!」茶々丸が珍しく本気で怒った。
「茶々丸・・・いいから」弾は止めた。
「ほー。威勢の良いねずみさんじゃ。
すまなかったよ、お友達を悪く言って。
年よりってのは、偏屈になりがちなんじゃよ。
許しておくれ。
えっと~。確か~
ほんの少し前の事かの~?すごく昔の事かの~?
忘れたが。
十六夜祭りへ行った事があっての。
そこでお前さんの母君を見た事がある。
お~んなじ、目をしておるな。すぐにわかる。
カラスの息子だって事が」
「さすがですね、人間なのに・・・」弾は余裕に笑んだ。
「しかし。お前さんなんかが、一体わしに何のようかな?長生きの秘訣でも知りたいのかね?」
「色々と聞きたい事ばかりで、何から聞いたらいいかな・・・
自分は、ある本の著者を知る為にここへやって来た。
喜楽仙人ならば、知っているのではないかと思い。
だが。
まず、先に聞きたい事は
今の神樹の爆発。
“世界が変わった瞬間”と言っていたが、それは一体どうゆう事なのか。
何か知っているなら、教えてほしい」
すると仙人は、空を見上げ少し難しそうな顔をした。
「んーまぁ別に~、珍しい事ではないさ。
わしは、過去にも一度神樹の爆発を見た事があるが。
大した事じゃない。
神樹ってのは、大きく世界が変わる時、陰と陽が激しく乱れるから。
激しい乱れに耐えられなくなると爆発をするから。
別に~それだけの事さ」
「見た事あるって、その時世界は本当に変わったのか?」そう言って茶々丸は鼻をほじった。
「んーどう変わった・・・。昔の事だからあまり覚えとらんけどな~」
「覚えてねーのかよ」
「えっと確か~・・なんじゃったっけな~
あ、そうそう!
黒風じゃ。世界に黒い風が吹く前の晩の事じゃったな!」
「ッ!!!!」
―その言葉を聞いた瞬間、皆の血の気が引いた。
「う、うそだろ!仙人・・・言っちゃいけな冗談があるってわからないのか?」クルミは、声を震わせた。
「いやー本当じゃよ。」
「・・・」このふざけた仙人の言う事は、どこまでが本当なのかよくわからない。
「どこが大した事ない話しだよ!絶対うそだ!!」クルミの顔は怒りに満ちて行く。
茶々丸は全く話の筋が見えず、きょろきょろとしている。
「黒い風?なんだよそれ!」
弾が、説明をした。
「昔、妖怪たちが天空の神樹を奪い合う戦争をしたって話しを前に話しただろ?
その争いの事を“黒い風”とも呼ぶんだ。
すべての妖怪たちが、殺し合う時代。
世界に黒い風が吹いて、闇に包まれてしまったかのような
そんな光景だった事から、“黒い風が吹いた日”とよばれているんだ」
「え、そんな事が起こる前にも神樹の爆発があったって事か?
つまり、同じような事が・・・?」
すると、喜楽仙人が答えた。
「その時のような、不幸が起こるとは限らんよ
大きく変わる時って言うのは、いくらか障りがあるもんさ
不幸の知らせって決まった事じゃない。
大きな変化、それは幸福を招く事だってあるさ。
いくら考えても今は、わからんよ」そう言ってまた、ウヒヒっと笑った。
あまりに衝撃的な話しに、皆物思いにふけた表情を浮かべている。
触れてはいけない、語ってはいけない。
そんな黒い歴史の匂いが、今この瞬間に漂うなんて
世界の表情が一瞬で変わってしまったように感じた。
しばらくすると
「まー確かに。
今考える事ではないか」弾は呟いた。
「そうだよな。今の時代は、天空の神樹は存在しない。
また同じ事が起こるなんて
実際ありえない。
仙人の言う通り、不幸な事が起こるとも決まってないし」クルミも呟く。
すると仙人はひらめいたように言った。
「そーいえば、そんな事より。
弾よ。本の話しをしようじゃないか!
著者がどーだとか言っておったな!」
「ええ、そうでしたね」弾はそう言って本を開いた。




