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明鏡の絵空事  作者: うちゃたん
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第八話 耐え難い、孤独

突然、鎌で襲い掛かってきた見知らぬ誰か。



弾はとっさに鎌をよけたが

狂ったように釜を振り回し、殺しに罹ってくる。



「一体なんだんだッ!」

弾は声を荒げた。



すると、その者は何を思ったか、釜を振る手を止めぴたりと動かなくなった。




「す、すまん人間だったのか!わわわ、わしはてっきり・・・」とても驚いた声で話すのは、人間の男。


弾は、訳がわからず黙っていた。



「すまん!怪我は無いか」そう言って、弾へ近づいてきた。



鎌を振りかざしていたその男は、近くで見ると年をとった老人であった。




「こんな夜に何を?」弾は、地面に置いておいた傘を拾いながら老人に尋ねた。




「あ、あぁ・・・熊かと思ってな。まさか人間だとは・・」




「熊だと思ったなら、すぐに逃げなくては。鎌で勝てる相手ではないと知っているはずだ」




「す、すまん・・・」老人は深く頭を下げながらうなずく。




「おぬし、びしょ濡れになってしまっておる。わしの家で着物を乾かさせてくれんか?何か詫びをさせてくれ」老人は相変らず頭を下げながら言う。




結構だと断ったが、老人は殺してしまう所だったと何度も頭を下げてきた。

断りきれず、乾かしてもらう事にした。




老人の後に付いて行き草をかき分け、道を進んで行くと小さな家に着いた。



茶々丸は怯えた顔で、こっそりと何があったのか弾に尋ねてきた。

弾は“心配ない”という事だけ伝えた。




家の中へ入ると、老人は手早く囲炉裏に火を起こした。

乾くまで着ている着物も用意してくれた。

パチパチと音を立てて燃える囲炉裏の火。

弾は火を見つめながら、着物が乾くのを待っていた。



茶々丸は、弾の懐の中でぐっすりと寝ていた。



「さっきは本当に申し訳なかった・・・」老人はまた謝ってきた。



「いえ、お気になさらずに」



「しかし、おぬしは何故あんな所におったんじゃ?」老人は尋ねてきた。




「探し物をしていてね。

月光丘には、三年に一度、秋雨が降る夜にだけ生息する花があると、聞いた事があったものですから。

襲われる前にいくつか見つけておいて良かった」弾は、冗談まじりに言った。




「ほー、あの丘にはそんな花が咲くのか!聞いた事がなかったのう。

よかったら、花を見せてくれんか?」




「えぇ、いいですよ」弾は腰袋から花を出した。



光を帯びた花。

老人は目を丸くした。



「光っておる!!」



「光の花、といいます。この花は光るだけではない。

人に一筋の光を与えるとも言われているんです。」




「一筋の光を・・・?」老人は不思議そうな顔をしている。




「私は薬作りをしていてね。この花は薬として素晴らしい効能を持っている」



「ほー!今日は何だか驚く事ばかりじゃ!こんな花がこの村に・・・」老人はしばし花を見つめていた。




すると

「おっと、そういえば。名乗るのを忘れておったのう!わしは平八(へいはち)と申す。この辺りじゃ平八じいさんと呼ばれておるよ」笑顔で自己紹介をした。



「そうですか。私は雪村弾と申します。」



お互いの身分を明かすと、何だか和やかな雰囲気になった。

そして、弾は平八じいさんに気になっていた事を質問した。



「ところで一体なぜ、明りも灯さず山の中に?

熊かと思ったと言っていたが、まさか熊を捕まえようとでもしていたんですか?」




「ん・・・熊をひっ捕らえようとしておった・・・。


長年連れ添ったばあさんの敵を討ちたくてのう。

この辺りじゃ、もう何人も熊にやられておるよ。

熊だけじゃない、最近は動物や獣も妙に荒々しくなったもんじゃ・・・」




言葉につまる弾。

囲炉裏の火がパチパチと燃える音が響いた。




「いつの事だったんですか?」弾は小さく尋ねた。




「一カ月前のやけに寒い日の事じゃった」



そう言って平八は立ち上がり、弾の着物を裏返しシワを伸ばした。

そしてまた囲炉裏の前に座り、手を温めた。




「あの月光山、あそこをもう少し行くと崖っぷちに出るんじゃよ。

その崖の下でばあさんは死んでいたんじゃよ・・・。


崖から落ちて傷だらけになっておった。

村の人間はみんな崖がある事は知っておるしのう、怖がりなばあさんも近づく事はしないよ。きっと熊に引きずられたか、追いかけられて落ちたんじゃないかのう」



平八は遠い目で火を見つめている。



「あまりに急な事で、無念で仕方がないんじゃよ。

動物や自然を大事にする心優しいばあさんじゃった、本当に」



「そうだったんですか」



しばらく沈黙が続いた。


老いた身で、ある日突然一人ぼっちになる寂しさ。

弾は想像していた。




「この寂しさ・・・耐え難い」平八じいさんが小さく言った。




弾は、平八じいさんの顔をじっと見つめた。


そして、救いの手を差し伸べるべく言葉を言う。




「平八じいさん、きっとあまり眠れていないのではないですか?

良かったら・・・着物を乾かしてくれたお礼に茶を煎じたい。

飲んでい頂けますか?」と言い、笑みを浮かべた。




明鏡の絵空事、この薬を作る時

弾はいつも企みのような微笑みをする。

まるで不思議な世界への案内人。


弾は平八の薬を作り始める。



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