第七十八話 下手くそな歌
荒れていた天気は、嘘のようだ。
目の前には、眩しいほどの真っ青な空が広がっている。
雪は太陽を反射させて、キラキラと輝いた。
いよいよ、三人は封印の島へと出発だ。
いつもふんどし一枚のくるみは、珍しく荷物を背負い
蓑を着て、やる気満々の様子。
「よし、行くか!」茶々丸は、声高々に言う。
「うん!」
三人は、歩き出した。
茶々丸とクルミは、高く積もった雪を投げて遊んだ。
まるで子供のように大はしゃぎだ。
木に積もった雪を頭に落としては
キャッキャキャッキャと、お腹を抱えて笑った。
弾はそんな二人を微笑ましく眺めていた。
そして道中、茶屋を見つけては休んだ。
茶々丸の好物、甘酒を頼み。
店々よって、味や香りの違う甘酒を楽しんだ。
クルミは人間の営む店など到底行った事がなかった。
木陰で羨ましそうに、茶々丸と弾を見ているだけ。
「クルミ来いよ!大丈夫だってば!
この甘酒、すんげー旨いから飲むべきだって!」
茶々丸が声をかけると、くるみは人間がいないすきに、長椅子にちょこんと座った。
キョロキョロと落ち着かない様子で、甘酒を一口飲んだ。
その瞬間、とろけてしまいそうな表情をして
これまた、三人は大笑いだった。
愉快な三人旅、出だしは良好だ。
果てしなく続く道を、ずんずんと進んだ。
―一日は早い。
あっと言う間に、日没が近づいて来た。
どれだけ歩いたのか。
疲れた三人は、口数も少なくなる。
聞こえるのは、足音と
茶々丸のやる気のない鼻歌だ。
「ふ~」くるみが深く息をつく。
「大丈夫か?この道を抜けたら休むとしよう」弾が声をかけた。
「うん!」
すると、茶々丸は何を思ったのか、クルミの頭の上に乗り歌を唄い出した。
♪万華鏡、のぞくと夢がいっぱい
くるくる回って踊っているみたい
夢ははじけて、空の星に
山猫は夜空に向かって叫んでる
光の差す場所は、向かい風の向こう側
夢は始まったばかり
旅は始まったばかり♪
なんだか、下手くそで、一生懸命な歌だ。
「なんだ、その歌!」クルミが、驚いた。
「自分で作った歌なんだ!元気出るだろ!」茶々丸は、自慢げに言う。
「うん!いい歌だ!すっげーいい!」
「ふむ。」弾も頷いた。
思いのほか、想像以上に誉められて
茶々丸は照れた。
そして、ますます力強く唄ってみせた。
弾とくるみを元気付けるこの歌を
茶々丸は、いつまでも唄った。
だが、しばらくすると
声も出ぬほどの美しい物が目に入ってきた。
「海だーッ!!」茶々丸が叫んだ。
夕日に染まる海が、眩い光を放ちお出迎えだ。
キラキラと光って幻想的。
あまりの美しさと、どこまでも広がる景色に
皆、言葉を失った。
「お、お、オラこんな綺麗な海を見たの初めてだ!」クルミが小さく言う。
「俺は、海を見たの初めてだ」茶々丸も小さく返事をした。
すると、茶々丸はハッとした顔をした。
「島へはどうやって行くんだ?」
弾は指を指して言った。
「あの海の海岸に、迎えの船が来るんだ」
「ついに来たな!少し怖いけど・・・楽しみだ!」茶々丸はクルミの頭の上でぴょんぴょん跳ねた。
「うん、うん。オラも怖いけど、楽しみだ!」
「迎えの船は、一日一回だけ
夜が明ける前の、もっとも闇が深くなる時刻に、船はやって来るらしい・・・」弾は意味深な顔をした。
茶々丸と、クルミは身震いをした。
「闇が深くなる時刻か・・・。島流しの島だもんな。
明るい雰囲気な訳ねーか」茶々丸の耳は、すっかり下がってしまった。
「まだ時間もある。宿で一休みとしよう」弾が言った。
「風呂だ――ッ!」茶々丸は、また叫んで喜んだ。
「えー、宿!?人間の・・・?
あっちの世界の、宿に行くのかー???」くるみは目が回りそうになった。
「くるみ、宿って最高だぞ!
風呂って最高だぞー!!」
「えー!!オラは、野宿でいいよー」
「ったく、心配すんなって」
三人旅、初めての宿。
くるみは、泣きそうな顔をしているが
きっと気に入る事だろう。
温かい風呂に、ふかふかの布団が待っているのだから。




