第七十六話 次なる旅へ
「はぁ。大丈夫かな~」
茶々丸は、弾の懐から顔を出している。
その顔は、とても不安そう。
「パクの奴・・・本当に平気なのかな?絹ばぁに渡せたかな?
あーッ気になる!
弾、やっぱり様子を見に行こうぜ!」茶々丸が言った。
「パクならきっと、大丈夫だよ」
「そうかな。
あいつ、結構おっちょこちょいな所あるからさ!
最初から最後まで、心配ばっかりかけるやつ!」
「まーな。だけど、大丈夫だと思うんだ。
何となくだけど。
この森すべてが、パクの事を守っている・・・そう感じるんだ」
「森が、パクを?
そう言われれば、確かにそうかもしれない。
本当に奇跡がパクに降り注いでいるって感じだった。
やっぱり、山神だからだよな」
「あぁ、パクは力がある。
心配しないで、俺たちは次なる旅を始めよう」
「だな!」
茶々丸は清々しい顔に変わった。
そして二人は、沢山の奇跡を目にしたこの不思議な森を、抜けた。
すると、後ろから名前を呼ぶ声がした。
「ん?なんか・・・パクの声した?」茶々丸は懐から、飛び出して辺りを見た。
「弾!茶々丸待ってー!」
やっぱり、パクの声だった。
「おーい、パク!」茶々丸は大きく手を振る。
目を凝らして見ると、絹ばぁも一緒にいる。
二人は走って、こっちへ向かって来る。
その姿を見た瞬間、弾も走った。
絹ばぁの元へと辿り着くと、絹ばぁは息を切らしながら
笑っている。
「あー苦しい!
私ったら急に走り出して、どうしちゃったのかしら!
もう、笑っちゃうわ!
でも、どうしても見送りに来たくて、来てみたけど
まだ、ここにいて良かった!
まさか、本当に会えるなんて」そう言って今度は、泣き出した。
「パクも怪我しているのに走らせてごめんなさいね」絹ばぁはパクの頭を撫でた。
「走ったり、笑ったり、泣いたり。
絹ばぁは、まるで少女だ」弾は困った顔をして笑った。
「この子はね、パクっていう名前なの。
パクパクたくさん、食べるからパク。
弾と小さなネズミさんを見かけなかった?って聞いたら、道案内してくれたのよ。
何でも知っている、特別で不思議な子なの」
絹ばぁは、知らない。
この三人が、絹ばぁの為に一日駆けずり回った事を。
そして、信じがたい奇跡を起こした事。
その奇跡が絹ばぁの病を消し去った事。
きっと、気付いていない。
だから、三人は目を合わせて、心の中で笑った。
そして、絹ばぁは少し恥ずかしそうに、ある話しを始めた。
「弾、あのね。
昨日会った時、ちょっと訳があって渡せなかったんだけど。
ずっと、あなたに渡したい物があったの」
そう言って、袖から黄色と紫の巾着袋を出した。
絹ばぁが、何より大事にしていたこの巾着袋。
すべての始まりである、この巾着袋だ。
弾に渡すのだから、三人はとんでもなく驚いた。
「ッ・・・!?」弾は言葉が出ない。
まさか、自分に渡す物だったとは夢にも思わなかった。
そっと、絹ばぁから受け取り、中身を見てみた。
巾着の中には万華鏡が入っていた。
「あなたのお父さん。
連さんが最後に茶屋へ来た時よ。
あなたに土産を買ったと見せてくれた。
けれど、これを忘れて帰ってしまったの。
また今度来た時に渡そうと思っていたんだけど。
その日が、最後だった。
その時の帰り、連さんは事故で。
もう来る事は無くて。
だから、いつか弾が来たら渡そうってずっと大事にしていたの。
それが、私の願いだった。
それだけが、心残りだった」そう言って、絹ばぁはエヘっと笑った。
弾の目は、まだ動揺していた。
「大事に取って置いてくれて・・ありがとう。
何てお礼を言えばいいか・・・頭が真っ白で」
「お礼なんて・・・元気な顔見せてくれただけで、もう最高よ。
弾、素敵な旅がきっとあなたを待っているわ。
気を付けて行ってらっしゃい。
また、いつか会える日を楽しみに待っているからね!
本当に、本当に、楽しみにしてるから!」
「はい、必ず会いに来ます」
最初の別れに、「また」という言葉は使わなかった。
二度と会えないとお互いが、わかっていたから。
だけど、今は、必ず会いに来る、絶対だ!
そう強く思った。
そして、弾は荷物から髪留めを出した。
巾着を探し回っている時に
絹ばぁに似合いそうだと買った物だ。
まさか、渡せると思っていなかった。
絹ばぁは、髪留めを握り締め
宝物が出来たと、少女の喜んだ。
すると、パクがこっそり話しかけてきた。
「ぼくも。
全部、全部!うまく行ったよ!」
弾は頷いて、パクの頭をぽんぽんと撫でた。
茶々丸は、親指を立てて
“よくやった!”と言わんばかり、にこっと笑った。
―また、会う日まで。
絹ばぁと、パクは二人が見えなくなるまで
ずーと見送っていた。
「だーん!ちゃちゃまる~!!ありがとー!!」
パクの声は、いつまでも響いた。
そんなに声を出したら、枯れてしまう。
少し心配してしまうほどだ。
「お?」
それぞれが、空を見上げた。
雪が、ハラハラと降り出したのだ。
粉雪は、すぐに牡丹雪と変わり始める。
「おい、雪が降ってきたぞ!」茶々丸が子供のように喜んだ。
「これはいけない。急いで宿を探そう・・・こんな日に野宿はごめんだ」
「よーし!今日は雪を見ながら、温かい風呂に入ろ~~~!な、弾!」
「ふむ。だな!」
―万華鏡、雪に濡れないように、そっとしまった。
“後で、ゆっくりと。覗き込んでみるか”
心の中で呟いて、クスッと笑った。




