第七十四話 弾が泣いた時
「うんめ~~~ッ!!甘くて美味しい桃の味がする~!」
茶々丸の喜びの声は、洞窟内に響いた。
そんな茶々丸を見て、パクはケラケラと笑った。
奇跡の場所へと辿り付いた三人、茶々丸とパクは、まるで宴のように喜び、騒いでいた。
そんな二人の声を聞きつつ、弾は本を片手に不可思木の事について、書き記す。
「茶々丸、これも食べてごらんよ!」パクは違う色の実を茶々丸に渡した。
受け取った実を、ぱくりと食べる。
「うんめ~~~ッ!!甘くて美味しいスイカの味がする~!
これ、一個一個味違うのか?」
「うん、色々な味がある!
色々な温かさもあるし、重さも違う!」そう言って、パクはまた大笑いした。
茶々丸もつられて、なんだか笑った。
「本当に不可思議としか、言いようがねんだな」
むしゃむしゃと食べながら、この不思議な木を見上げた。
大きな大きなこの木は、星が付いているようにキラキラしている。
「綺麗だな!」
「うん!」二人の目は、輝いた。
だが、ある景色に気付いた瞬間、茶々丸は顔色を変える。
―“ドクン”
急激に高鳴る鼓動、頭に血が上る感覚。
今まで笑っていた茶々丸の顔が、一瞬にして凍りついた。
“ドクンドクン”と、どんどん大きくなる心音。
茶々丸は、食べかけの実をそっと地面に置いた。
「茶々丸、急にどうしたの?」パクは心配そうに、声をかけた。
だが、茶々丸はじっと前を、見ているだけ。
その目線の先にあるもの。
それは、弾の姿だった。
木の枝に登って、本を片手にこの不可思議の事を調べている弾。
その弾の背中を、茶々丸は息が止まるように見つめていた。
「だ、弾が・・・・」
「え?弾がどうかした?」
「だ、だ・・・・」茶々丸の声は震えている。
ただ事ではない。
そう察したパクは、弾の背中を見た。
すると、すぐにわかった。
弾の背中がかすかに震えている事。
うっすら見える横顔は、あごからポタポタと涙が流れている事を。
「弾が泣いてるッ!」茶々丸は、声にならない声で叫んだ。
“弾が、泣くなんて・・・・一体何が。
そういえば、パクが言っていた!
この場所は“弾が泣いて喜ぶ場所”だって。
そんな夢を見たって!“
茶々丸の、頭の中は忙しく動いた。
そして、また気付いた事があった。
「あっ・・・そうだ、あの時の弾は不思議な話しをしていた」茶々丸は、この森へ来る時の事を思い出した。
―弾が話していた事だ。
“天にも届きそうな、巨大な木。
その不可思木には、不思議な木の実が成るそうだ。
その実は、一つ一つ味が違うとかで、まさに不可思議な木だ。
そして、その実の中に、奇跡を起こす実があると言われている。
その実が起こす奇跡・・・
それは、寿命が伸びたり、不治の病が治ったり、あるいわ若返ったり・・・
現実ではありえない、奇跡を起こす。
だが、その実に出会える可能性は奇跡的と言われているんだ”
こんな話しをしながら、この不思議な森へやって来た。
“きっと、そうだ。弾は見つけたんだ”
未だ状況がわからないパクは、不安そうな顔をして言った。
「茶々丸・・・何かぼく、大変な事しちゃったかな?」そう言うと、茶々丸はニコっと笑った。
「あぁ!随分大変な事しちゃったみてーだな!
パク、弾の所へ行ってこい!」茶々丸は弾けるよう笑顔で、パクの背中を押した。
「え、えー?」訳のわからないまま弾の元へと向かった。
弾も枝から降りて来た。
一つの実を持って。
―大きな木の根元、弾は、パクに大事な話しを始めた。
「パク、この森の奇跡を知ってるよな?」
「うん、知ってるよ。奇跡の実でしょ?見た事はないけど、この、森へ来る人間たちはみんな、その話しをしている」
「あーそうだ。
その、奇跡が今ここに・・・」そう言って、ゆっくりと実をパクに見せた。
「・・・?」状況がわからなかった。
「こ、これがその実なの?どんな奇跡が起こるの?」
「奇跡の実には、色々な種類があるが、これは不治の病が治る実だ」
「不治の病・・・・」
「絹ばぁと、これからも一緒にいられる実だ。
絹ばぁは、死んだりしない!
これがあれば、生きていける実なんだ。
パク、お前は絹ばぁを救った!」弾は、目を真っ赤にして言った。
あまりに急な展開に、パクは言葉を失った。
だが、徐々に今起きている奇跡を理解し始めた。
じわじわと涙を浮かべて、ゆっくり座った。
気持ちを落ち着かせているようだった。
「ぼく・・・。
絹ばぁとさよならをする事。
ちゃんと出来るようにって思って。
奇跡なんて望んでもいなかったけど、弾と茶々丸に出会ってから
次から次へと、不思議なが止まらないんだ」パクは、困った笑顔で涙を流した。
「あぁ、ここは奇跡の森だからな!
パクの真っ直ぐな心が呼び起こした、あまりに大きな奇跡だ。
絹ばぁの所、自分で行けるな?」
パクは大きく頷いて、奇跡の実をくわえた。
「さ、急いで行くんだ!」そう言って、弾は立ち上がった。
「うん。
弾、茶々丸、ありがとう。
本当に、本当に、ありがとう」パクは、ゆっくりと歩き出す。
「パク、俺たちこそ、ありがとな!絹ばぁの事、これからもずっと大事にしろよ!」茶々丸は叫んだ。
「うん!わかった!
二人とも、必ずまた会おう!」そう言って、走り出した。
弾と茶々丸は、姿が見えなくなるまで手を振った。
パクも最後まで、振り向いては、笑顔を見せる。
“沢山の沢山の、奇跡を持ってきてくれてありがとう”
三人は、同じ事を思っていた。




