第七話 光の花
「すみません、この当たりに月光山という場所あるのをご存じですか?」
弾は宿の人間に尋ねた。
「あぁ~月光山ならありますよ。
村のはずれに月裏饅頭って美味しい饅頭屋があるんですよ。
その裏に月光山に続く小道があります。
そこを上って行けば・・・
ただ最近は熊やらなんやらで行く人は減っていますよ、あそこに何か用でも?」
「あ、いや別に・・・ありがとうございます」
土砂降りの中、出かける弾に宿の人間が傘を貸してくれた。
こんな雨の中出掛ける弾を不思議そうに見ていた。
ー外は、雨の音しか聞こえない。
「しかし、すげー雨だな」
茶々丸は弾の肩の上。
傘越しに空を見上げた。
「ここは小さな村だ。そう、遠くはないはずだ。
この道をまっすぐ行けば・・・
お、あったぞ!饅頭屋だ!」
弾はすぐに小さな饅頭屋を見つけた。
夜で店はもう閉まっている。
「饅頭買おうぜ!!」茶々丸が嬉しそうに言った。
「もう店は閉まってるよ」
「え~!!じゃ明日買いに行こう!なっ弾!!」
案内人の言ったとおり、饅頭屋の裏には細道があった。
弾は細道を進んで行く。
進むにつれて急な坂道になって行った。
どんどん草も生い茂り、なかなか歩きにくい道となって行く。
熊が出るとかで、最近人が通ってない事をうかがえた。
「しかし、どこへ行っても熊出るなんて話しを聞くもんだ」弾が独り言をいう。
白火の村に行く道中に立ち寄った、ぶた猫茶屋のおばあちゃんもそんな事を言っていた。
「俺も何度も熊には食われそうになった事がある。あとカラス!アイツ等もすぐ食い付いてくる。
どっちも嫌いだ」茶々丸が弾の独り言に返事をした。
弾は立ち止まり、茶々丸を睨んだ。
「なんだ?」
「別に!」弾は少し怒った顔をした。
「変なやつ~」茶々丸は相変らずすっとぼけた顔で言う。
“誰の肩に座ってると思ってるんだ。俺はカラスだとも気付かずに”
これが弾の気持ちだった。
それはさておき
しばらくすると、丘へと辿り着いた。
草は腰の辺りまで伸び、とても丘には見えないが
なだらかな道が広がっている。
―きっと、あるはずだ
心の中で呟いた。
暗やみの中、草をかき分け探した。
雨は一向にやむ気配はないが、草をかき分ける作業に傘が邪魔になり地面へ置いた。
地面に置かれた傘の中、茶々丸は待っていた。
弾が“何らか”の花を見つけるまで。
「ヘックション!う~冷えるな。
おいっ弾!まだ見つからねーのか?」
弾は、無我夢中で探していた。
雨の音で茶々丸の声も聞こえない。
「お~い!返事しろ~お花は見つかりましたかー?」返事をしない弾に声をかけ続ける。
真っ暗闇の中、茶々丸は一人傘の中。
雨音だけが響き、何も聞こえない。
“あれ・・弾どっか行っちゃったのかな”
急に不安に襲われた。
あれ?あれ?
キョロキョロと、弾を探す。
心臓がドクドクドクと鳴り始める。
弾がいない。
「だ――――んっ!!!!!!」
腹から思いっきり声を出し弾の名を呼んだ。
ー茶々丸を救い上げる手。
「少しくらい、静かにしてられないのか!」弾は飽きれた顔をした。
茶々丸はササッと、弾の懐に隠れた。
「けっ!弾が迷子になったんじゃないか、心配してやったんだ!
っで、花は見つかったのか?」茶々丸は不機嫌そうに言った。
「まだだ。この茂みの中探すんだ、容易なことじゃない」
再び、花を探し始める。
「おい、弾。この暗闇の中、花を見つけるのは大変じゃないのか?
まー俺はねずみさんだからよ、夜だって花を探せるくらいの目はあるぜ!手伝ってやろうか?」懐からひょっこり顔を出し、自慢げに言う。
「お気遣いどーも。しかし俺が探している花は光の花。
暗闇の中小さく光を放っているらしんだ。だから真っ暗なほど見つけやすい」
「ふ~ん」
その時だった。
―あった!
小さな光だ!
茂みをかき分けると、いくつもの小さな光を放つ花が咲いていた。
「わ~!!」茶々丸と弾は、美しいその光に目を奪われた。
まるで蛍のように小さくて優しい光。
雨風に吹かれながらザワザワと揺れている。
弾いくつか花を摘み、腰袋へしまった。
“本当にあった”
想像以上に美しい花だった。
すると、後ろから誰かの気配を感じた。
弾は振り返り、辺りを見回した。
「ん?今確かに・・・」弾が言う。
「何がだ?」茶々丸も辺りを見回した。
弾は、確かに何らかの気配を感じていた。
その時だった。
突然、背後から人間の叫ぶ声がする。
振り返ると、鎌を持った人間が弾に襲い掛かろうとしていた。
「ぬ゛おぉぉぉぉぉ――!!!!!!殺してやる―!!!!」
物凄い勢いで鎌を振るその人間からは、本気の殺意を感じた。
“この人間は、誰なんだ”
突然の事で、全く状況が理解できなかった。