第六十六話 ハイカラな村
―行きかう人々の声。
飛び回る子供たち。
背伸びをして、あくびをする猫。
小走りで走り去る、商売人の足音。
耳に入る、さまざまな音と。
目に飛び込む、数々の景色。
そんな景色を眺めながら、弾と茶々丸は、立ち尽くしている。
ただ、呆然と。
と言うよりも、絶望的な表情と言う方が正しいであろうか。
何故、こんな所で、こんな顔で、立ち尽くしているのか。
事の経緯はこうだ。
―パクが、明鏡の絵空事、いわゆる夢薬でもって
見出した答え。
“絹ばぁの、宝物がある場所は、黒い×印がある所。
そして、宝物は○で、黄色と紫色をしている!“
情報はたったこれだけであったが、小さな希望にかけて
村へやって来た弾と茶々丸。
しかし、村を見た瞬間・・・
小さな希望は、一瞬にして絶望に変わった。
と言うのも、この村は、小物屋や着物屋が多く立ち並ぶ町。
それはそれは、ハイカラで色鮮やかな村。
一つ一つの家や、店。
働く人間、すべてが色と模様に溢れ
いわゆる、ど派手な村だった。
この中で、パクが言っていた
“絹ばぁの、宝物がある場所は、黒い×印がある所。
そして、宝物は○で、黄色と紫色をしている!“
これを探すのは、絶望的な気がしてならない。
そして、二人はただただ、立ち尽くしていたのであった。
「弾・・・
探せる気がしねーのは、俺だけか?」茶々丸が小さく呟いた。
「・・・ふむ」弾は死んだ目をしている。
「とりあえず、行くしかねーよな・・・」
「・・・ふむ」
ど派手な町を歩き出した二人。
だが、実際村を歩いてみると、どんな物にも、綺麗な色と、繊細な模様が描かれた
美しい村である事に気が付いた。
ただのど派手な村な訳では、なさそうだ。
一瞬、探し物をしている事を忘れてしまうほどに、目を奪われてしまう物ばかり。
「弾、スゲーな!こんな村見た事ないよな!」
「あぁ、見事だ!目が吸い込まれてしまう」
二人は、子供のように目をキョロキョロとさせながら村を進む。
すると、茶々丸が手を打って言った。
「よし、ここは見物に来た気分でよ。気軽にパクの探し物を探そうぜ!
こんなに、色と模様に溢れていたら、なかなか見つからないのはわかってる事だ。
視界が狭くならないように、この村を楽しもうぜ!」茶々丸は、楽しそうに言った。
「ふむ。そうだな、この中で探し物をすると考えると。
鮮やかな色も曇って見える。それでは、勿体無い。
よし、ここは茶々丸の言う通り、観光と行こう」
―そして、二人の観光は始まった。
しかし、この村には若い娘が多い。
きゃっきゃきゃっきゃと、楽しそうな声が響く。
どこかの店から、会話が聞こえて来た。
「この子の、二十歳のお祝いに、着物を仕立てて欲しいの」
「おやおや、可愛いお嬢さんだね。
ほっぺたが桃色だ事。お着物も、桃色か~白が似合いそうだね!
どんな柄がいいか、決まっているのかい?」
店の人間と、若い娘を連れた母親が話している。
どうやらここは、お洒落な事に目がない娘たちが、ハイカラな物を求めてぞくぞくとやって来る、そんな村のようだ。
「なるほどね、今めかしい人間の若い娘が好きそうな村だ」弾は呟いた。
みんな、楽しそうに物選びの夢中になっている。
雨に濡れた花のように、キラキラして眩しいほどの笑顔だ。
すると、ある小さな店の前で足を止めた。
この村にしては、少し落ち着いた雰囲気の店で、髪留めなんかが売っている。
その中にある、小さな紫色の花が付いた髪留め。
弾は、手に取った。
「絹ばぁに、似合いそうだ・・・」弾は小さく言う。
「買ってやれば?」茶々丸は懐からひょっこり顔を出して、言った。
弾はしばらく、眺めていた。
「絹ばぁも、俺も。
もう、二度と会う事は出来ないって。
あの時わかっていたんだ。
間に合って、会う事が出来た。
それこそ奇跡で。
今、俺は、何もしてやれないけど・・・。
唯一出来る事は、パクの手伝いだけだ。
きっと、あれが最後だったんだ」
弾は、そう言って髪留めを買った。




