第六十二話 山神
翌朝。
茶々丸は味噌汁の匂いで目を覚ました。
寝不足の目をこする。
「はぁ・・・」と、ため息を一つ吐いた。
何だか気分が憂鬱な朝だった。
パクの事があったから、何だか気分が晴れないのだ。
無邪気に絹ばぁの事を話していたパクの顔が、朝から脳裏に浮ぶ。
だが、足を止める気はない。
旅には素晴らしい出会いばかりじゃないのだから。
時には見たくない事に、遭遇する事だってある。
そんな事、わかっている。
茶々丸は、弾が作った味噌汁をすすり。
荷造りをして、いつも通り弾の懐から顔だけ出して、前へ進む。
この先の旅の事を考えると心が躍るけど・・・。
「はぁ・・・」今はため息が出て仕方ないのだ。
そんな茶々丸を見て、弾は一言だけ言った。
「心配ないさ」
「心配だよ・・・」茶々丸も一言だけ、小さく答えた。
少しだけ風の音を感じて、弾はある話しを始めた。
「聞いた事があるんだ。この辺りの山々は、山神に守られる特別な山だと」
不可思木の森、苔一面に覆われたこの緑一色の世界。
弾は元気のない茶々丸に、ゆっくりと歩きながら、語りかける。
「やまがみ・・・?」
「あぁ。山神は、山に静寂と光をもたらす。
そして、山も、山神を守ろうとする。
山神が存在する山は、穏やかで優しい時間が流れるんだ」
「この山にそんなすげー山神がいるのか!?」茶々丸は目をまん丸にした。
「そして。
この山にいる山神は・・・
白い鹿だと聞いた事がある」そう言って、弾は微笑んだ。
「し、白い・・・って」茶々丸は、その言葉を聞くや全身に鳥肌が立つ。
言葉が出ない様子だ。
そして、弾は続けて言った。
「恐らくパクは、山神だ。
だから、心配ない。
白鹿の山神は、悟りがあるのも有名な話しだ。
だから、きっと・・・・
絹ばぁの事も、わかっていたんだ。
だから、あんな小さな鹿が伝えたい事がある。
ぼくの声を届けてなんて、不思議な事を口にするんだ。
パクは強いから、大丈夫だ。
茶々丸、あまり心配するな!」
すると、茶々丸はまた泣き出す。
「うぉぉぉ!!パクって格好良い奴じゃねーかぁぁ!
パクお前なら、大丈夫だぁぁぁ!!!
お前の事はもう心配しねーからよー!!」そう言って、鼻水をダラダラ流して泣いた。
そして、茶々丸は元気よく言う。
「弾、またこの森に来ようぜ!
不可思木の実を、今度は手に入れよう。
山神のいる森なら、何かまた実がなりそうじゃねーか!」
「あぁ、そうだな」そう言って、二人は笑った。
「あぁ、パク・・・
パクってすげーな。またいつか会いたい。
パク~♪パク~♪パクパク♪」茶々丸の下手くそな歌が始まる。
天真爛漫、だけど、繊細で優しい所がある茶々丸だ。
涙を拭きながら、パクの歌を唄い続けた。
「パックパク~♪白鹿のパク~♪
何か悟ってるらしいぞ~♪
ラララパク~♪
ん?ラララパク~・・・♪
・・・・
・・・・
パ・・・パク・・・?
パパパパ、パク!???
パクがぁぁぁぁー!!!!!」
茶々丸の歌が、叫び声に変わる。
忙しい歌だ。
「おい、何だその歌は!」弾が不気味がった。
「うう、歌じゃねーよ!
最初は歌だったけどよ!おい、あれ見ろよ!
あ、あ、あれパクだよな!?
どどどーしたんだ、あいつ!!!」茶々丸は猛烈早口で言った。
茶々丸の動揺ぶりは、尋常じゃない。
弾は茶々丸が指差す方を見てみる・・・。
すると、パクらしき真っ白の鹿が森の奥で、倒れていた。
ただ倒れているだけでは、無さそうだ・・・。
目を凝らして見ると、辺りは血まみれだった。
パクは、大量の血とともに倒れていた。
一体パクの身に何が起きたと言うのか。




