第六十話 別れを悟る
絹ばぁは、重たい口を開く。
「実はね、木の実は・・・もう何十年と成っていないの。
連さんも、たびたび来ては残念そうな顔をしていた。
そのせいで、この森に来る人たちも激減してしまった。
この森の奇跡だったから・・・
わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」そう言って、絹ばぁは頭を下げた。
「いや、頭を上げて。
絹ばぁが謝る事ではない。確かに残念な事だが・・・
父の話しが、聞けたんだ。
この不可思木の森に来て、本当によかった。
自分にとって、何より奇跡的だ!」弾は笑顔で答えた。
「ありがとう、私もこの日まで・・・
生きている事が出来てよかった!」絹ばぁは涙をぬぐった。
「そんな、大げさな」弾は笑った。
「本当よ、ずっと待っていたんだから!
もう少し、早く会えていたなら、もっと良かったけど!」絹ばぁも涙を拭いながら、笑った。
二人はしばらく、話しに花を咲かせる。
色んな話しを、沢山した。
何だか妙に居心地が良い。
時間があっと言う間に、流れて行く。
もしも、自分に、人間でいう「おばあちゃん」という存在がいたら。
こんな感じなのかな?
弾はそんな事を考えた。
そして、別れの時には食べ物やら、着物やら。
沢山の物を持たせてくれた。
いつまでも、いつまでも、手を振って送り出してくれる。
「弾、会えて良かった!
気を付けて進むのよ!」絹ばぁは、まるで子供の危なっかしい足元を見ているかのように、心配そうな顔で見ている。
「大丈夫!父さんみたいにはならない!」父さんは、事故で亡くなった。
心配そうにしている絹ばぁに、悪ふざけを言ってみせた。
だが、二人は。
「また会おう」
この言葉は、交わさなかった。
互いに、もう二度と会う事はないだろう・・・
その事が、わかっていた。
“絹ばぁ、さようなら
もう少し早く会っていれば何て、贅沢は言わない。
間に合って、あなたに会えて本当によかった”
弾は心の中で、別れを告げる。
“弾、この森から奇跡の実は消えたけど
奇跡が起こる事は、変わらないの。
ほら、今日だって奇跡が起こった。
あなたの旅が、最高である事をいつまでも願っているからね。
弾・・・さようなら”
二人の心は、重なるようだった。
重なった心は、ふわっと飛んで、風になる。
不可思木がざわざわと、優しく揺れた。




