第六話 胸高鳴る、より道
白火の村を出た弾。
次に向かう黄乃松という都を目指し、川岸をテクテクと歩いている。
茶屋で出会ってしまった、茶々丸は弾の懐でスヤスヤと寝ていた。
弾の懐は寝心地が良いと知ったらしい。
弾は懐を覗いて、“ったく・・・”とため息をつく。
川岸には、鮎の塩焼きを売っている店があった。
旨そうな煙を嗅ぐと食べずにはいられない。
弾は鮎の塩焼きを買う事にした。
「塩焼きをください。・・・二本」
茶々丸と食べた。
「うめ~~~!!!何だこの魚!!!」茶々丸は大喜びで塩焼きを食べる。
何故だろう、茶々丸の空気に巻き込まれて来てしまっている。
そんな風に感じながら、何だか腑に落ちない弾だった。
「それで?行き先は決まったのか?目的地が決まるまでって約束だろ」弾は迷惑そうな顔をしながら茶々丸に聞く。
山から出たのは初めてという茶々丸、目的地が決まるまで弾の肩にいさせてくれと頼んできたものの。茶々丸は何も考えてなさそうに見える。
「決まってないって、わかってて質問してんだろ!嫌味なやつ~!!
ところでよ、黄乃松ってどんな所なんだ?」
この道中、二人は色々な話しをした。
と、言うか茶々丸がしつこくアレコレと聞いてくる。
なので次の行き先は黄乃松だという事も、茶々丸は知っていた。
「黄乃松は、この西の国で一番の都と言われている。とても豊かな町だ。
珍しい物を売る店も多いとかで、一度行ってみたいと思っていたんだ。
って、話しをはぐらかすな!ちゃんと目的地決めるんだぞ」
「ふ~ん。珍しい物か。面白そうだな!うまいモンもあるといいな!」茶々丸はニヤニヤした。話しをはぐらかすのがうまい。
「だが、その前に・・・。寄りたい所があるんだ」弾はそう行って、どこか遠くを見ている。
茶々丸も、弾が見つめる方向を見る。
「月影村」という看板が小さく見えてきた。
何だかにぎやかそうな村が。
小さな村だが、活気ある雰囲気が離れた場所からも伝わってきた。
茶々丸は、物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。
村には煙草屋に、古着屋と湯屋、たくさんの旅人や運び人が立ち寄るに違いないだろう。
商売に励む甲高い声が町中に響いていた。
立ち並ぶ店の中に飯屋が一件だけあるのが見えた。
「宿へ行く前に、夕飯を食っておこう」弾はめし屋へ向かった。
「や、宿に泊まるのか?弾お前人間みたいな事するんだな!」茶々丸は驚いて言った。
「まーな」
「お前、自分が妖怪だってわかってないのか?」茶々丸が聞いた。
「わかってるさ、茶々丸と一緒にするな。自分が妖怪だとも知らずに生きてきたなんて。本当に変なやつだ」
「・・・だって。教えてくれるヤツなんか・・・いなかった」茶々丸が小声で言った。
弾は何となく、聞こえないふりをした。
「茶々丸、懐に隠れろ。飯屋で見つかったら大変だ」
飯屋に到着。
「えー!!俺だって食いてーよ!!」
「いいから、隠れろ」弾は無理やり茶々丸を懐にしまった。
店の中、立派な店構えではないが客がぎっしりと座っていて、笑い声が響いていた。
本当に明るい町だ。
寒さが深くなり始めた秋の終わり、栗ごはんと秋刀魚が出てきた。
弾は手を合わせてから、食べ始める。
ふっくらと炊けた栗ごはんと、皮がパリッと焼け、ふんわりとした秋刀魚。
素朴だが出汁のきいた味噌汁。うまい。
そして、弾は誰にもバレぬように茶々丸にも食べさせてやった。
懐の中、箸で渡される食べ物を無我夢中で食べる茶々丸。
「おい!もっとよこせ!!!」
「こら、出てくるな!栗やるから!」
こそこそと、にぎやかに食べる二人だった。
満腹で飯屋を出ると、外は雨が土砂降りだった。
飯屋の人が宿の場所を教えてくれた。
弾は走って、宿へと向かう。
着いたのは、小さな宿。
床が冷たくて、薄暗いがこじんまりとした良い雰囲気だ。
部屋に案内され弾は荷物を置いた。
宿の人間が居なくなると、茶々丸が飛び出てきた。
「すっげー!!宿だ!!」布団の上、枕の上を走り回って喜んでいる。
「よし、風呂に入るか!」弾が言う。
「風呂・・・だと?水に入るのか?」茶々丸は恐れおののいた顔をする。
「一度入ってみろ。風呂は最高だぞ」
「ぎゃーーー!!!俺は入らねーぞ!!」茶々丸は、弾の懐に逃げた。
―頭が真っ白になる。
真っ白な湯気、水の滴る音、空気が耳の横を通る音。
「ッぷはーー!!」
湯の中に潜っていた弾は勢いよく、息を吐いた。
「湯に潜ると、頭が真っ白になる」そう言って、弾は顔の水をぬぐった。
「あ~そうだな~、真っ白だな~」
と、小さな桶の中。
湯に浸かっている茶々丸がいた。
嫌がっていたが、すっかり風呂が気に入ったらしい。
「あ~気持ちいい~~」
「よーく、温まっておけ。これから出かけるからな」弾は忠告するように言った。
「えっ!またか?何でだよ!せっかく宿に来たのに!雨だって降ってるし、もう寝ようぜ!」
「この月影村に来たのは、秋の雨降る夜にだけ咲く花があるからなんだ。その花を取りに行きたい。嫌だったら待っててもいいんだぞ」
「・・・ったく。」ダルそうな顔をめいいっぱい表現する茶々丸だった。
「よし」弾は風呂から出た。
弾は胸が高鳴っていた。
真実の五つの実を探す事が目的。
そして、見た事も触れた事もない物で出会う旅。
父がきっかけで始めた薬草作り。
もっと良い物を作りたいという気持ち、父はきっと喜んでくれる。
そんな風に思える物と出会えた事に、感謝した。
あの頃の自分が、目指す物も、目的も見つけられないままだったら
今も世界は灰色に見えていたに違いない。
父は幼い自分を残し死んでしまったが、今も救ってくれている。